肥満の人ほど「運動で痩せにくい体」になっている

スポーツ

「1度手に入れた脂肪を手放してなるものか!」

いくら本人は痩せたいと望んでも、肥満の人の身体はそんな風に思っているようです。

英国ローハンプトン大学(University of Roehampton)が主導した研究によると、定期的な運動を繰り返すと体は生命維持に必要なカロリーを減少させるようになり、運動によるカロリー燃焼の効果が低下してしまうというのです。

さらにこの効果は、肥満の人ほど顕著に現れるという。

運動しても疲れるだけで痩せにくくなってしまうとは、ダイエットする人の心を折りにくる悲しい報告です。

研究の詳細は、科学雑誌『Current Biology』に2021年8月27日付で掲載されています。

目次

  • 人間のエネルギー代謝の詳細な調査
  • 肥満な人ほど体の燃費がどんどん良くなっていく

人間のエネルギー代謝の詳細な調査

肥満を解消しようと運動を始める人は多いかもしれませんが、闇雲に運動だけしても上手く行かない可能性がある
肥満を解消しようと運動を始める人は多いかもしれませんが、闇雲に運動だけしても上手く行かない可能性がある / Credit:canva

肥満がさまざまな健康リスクにつながることを、多くの研究が報告しています。

そのため、肥満に陥ってしまった人の中には、なんとかそれを解消しようと決意して運動を始める人も多いでしょう。

しかし、この研究は、単純に定期的な運動をしてもダイエットがうまくいかなくなる可能性を示しています。

研究チームが利用したのは、国際原子力機関(IAEA)の1750人以上を調査した人間のエネルギー消費に関する世界最大のデータベースです。

IAEAでは、増大する肥満の危機に取り組む国々を支援する目的で、二重標識水法(DLW)という比較的新しい方法を用いた人間の運動とエネルギー代謝に関するデータベースを公開しています。

二重標識水法とは、水素と酸素の安定同位体である重水素と18O(酸素18)で作られた標識水を被験者に飲んでもらい、後に尿中の安定同位体比の変化を測定することで、体の消費したエネルギー量を計算するというものです。

このデータベースを使用することで、研究チームはさまざまな状況での人間の代謝エネルギー(消費カロリー)について、調査することができました。

そのうちの1つが、基礎代謝(BEE)つまり「安静にしているときの最低消費カロリー」です。

これは、私たちが体を維持するために必要とする基礎的なカロリー量と言えます。

チームが調査した結果、この基礎的な消費カロリーは毎日の運動レベルが一貫して高い期間中減少することがわかりました。

これにより、運動によって消費したカロリーの平均28%分が相殺されていたのです。つまり100kカロリー消費していた運動で、72kカロリーしか消費されない状態になっていたのです。

これは私たちが長期にわたって運動を続けるほど、同じ運動量で消費されるカロリーが減ってしまうことを意味しています。

そして、この調査の中でチームはさらに驚くべき発見をしました。

それは、ボディマス指数(BMI)が高い人ほど、この効果が大きくなるという事実でした。

肥満な人ほど体の燃費がどんどん良くなっていく

運動しても疲れるだけで痩せない体になる
運動しても疲れるだけで痩せない体になる / Credit:canva

私たちは運動でカロリー消費すれば、その分は丸々、1日の総消費カロリーに上乗せされるという印象を持っています。

だから、運動すればするほど体の脂肪が減って痩せられるだろうと感じてしまします。

しかし、この研究は、運動するほど体が節約上手になり、さらに脂肪の多い人ほどその影響が大きくなる可能性が示されたと報告しています。

調査結果では、BMIがもっとも高かった人は、運動で消費したカロリーのうち54%分しか実際の総消費カロリーに上乗せされておらず、残りの本来消費されるべき46%分は、もっとも基礎的な機能に費やされるエネルギーを体が減らしたことで、帳消しにされていたといいます。

これは全体として年齢や性別による差はなく、関連するのはBMIだけでした

このため、研究チームは、BMIが高い(つまりが脂肪レベルが高い)人は、長期的な運動に応じて、基礎的な1日の消費カロリー量が減少しやすく、運動で痩せにくくなる可能性があると述べています。

現在世界中のガイドラインで、体重を減らすためには、1日500~600キロカロリーを運動などで余分に消費することが推奨されています。

また運動によって消費されたカロリー量を表示させるアプリなどもあるため、運動で燃焼される脂肪量(減量)も簡単に計算できるようになっています。

カロリー計算がしやすい世の中になっているが、実際数値通りに上手く言っているとは限らない
カロリー計算がしやすい世の中になっているが、実際数値通りに上手く言っているとは限らない / Credit:canva

しかし、今回の研究を通じて示されたのは、運動して消費されたカロリーは、体の基礎的な代謝エネルギーの減少によって相殺されてしまうため、実際は50%程度しか体重減少に寄与しない可能性があるという事実です。

そのため、ダイエットに関するガイドラインについても見直しが必要だろうと、研究者は語っています。

太っている人ほど、運動によって体の燃費がどんどん良くなってしまうとは、なんとも皮肉な話です。

体はなんとしても脂肪を手放したくないのでしょうか。

今回その原因については明らかにされていませんが、太ってしまう人は、そもそも体の燃費が非常によい設計になっているのかもしれません。

※この研究には22年に解析のやり方(比率の扱い方)に対する批判論文(Careau et al., Current Biology 2022)が発表されており、研究者も比率の解釈には注意が必要だと認めましたが、研究の中心的な結論(活動量が高いときにエネルギー補償が働き、肥満の人で補償が大きい傾向がある)は変わらないとしています。

全ての画像を見る

参考文献

Cruel twist: Exercise reduces calories burned at rest in individuals with obesity
https://www.eurekalert.org/news-releases/926541

元論文

Energy compensation and adiposity in humans
https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.08.016

ライター

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

肥満の人ほど「運動で痩せにくい体」になっている

スポーツ

「1度手に入れた脂肪を手放してなるものか!」

いくら本人は痩せたいと望んでも、肥満の人の身体はそんな風に思っているようです。

英国ローハンプトン大学(University of Roehampton)が主導した研究によると、定期的な運動を繰り返すと体は生命維持に必要なカロリーを減少させるようになり、運動によるカロリー燃焼の効果が低下してしまうというのです。

さらにこの効果は、肥満の人ほど顕著に現れるという。

運動しても疲れるだけで痩せにくくなってしまうとは、ダイエットする人の心を折りにくる悲しい報告です。

研究の詳細は、科学雑誌『Current Biology』に2021年8月27日付で掲載されています。

目次

  • 人間のエネルギー代謝の詳細な調査
  • 肥満な人ほど体の燃費がどんどん良くなっていく

人間のエネルギー代謝の詳細な調査

肥満を解消しようと運動を始める人は多いかもしれませんが、闇雲に運動だけしても上手く行かない可能性がある
肥満を解消しようと運動を始める人は多いかもしれませんが、闇雲に運動だけしても上手く行かない可能性がある / Credit:canva

肥満がさまざまな健康リスクにつながることを、多くの研究が報告しています。

そのため、肥満に陥ってしまった人の中には、なんとかそれを解消しようと決意して運動を始める人も多いでしょう。

しかし、この研究は、単純に定期的な運動をしてもダイエットがうまくいかなくなる可能性を示しています。

研究チームが利用したのは、国際原子力機関(IAEA)の1750人以上を調査した人間のエネルギー消費に関する世界最大のデータベースです。

IAEAでは、増大する肥満の危機に取り組む国々を支援する目的で、二重標識水法(DLW)という比較的新しい方法を用いた人間の運動とエネルギー代謝に関するデータベースを公開しています。

二重標識水法とは、水素と酸素の安定同位体である重水素と18O(酸素18)で作られた標識水を被験者に飲んでもらい、後に尿中の安定同位体比の変化を測定することで、体の消費したエネルギー量を計算するというものです。

このデータベースを使用することで、研究チームはさまざまな状況での人間の代謝エネルギー(消費カロリー)について、調査することができました。

そのうちの1つが、基礎代謝(BEE)つまり「安静にしているときの最低消費カロリー」です。

これは、私たちが体を維持するために必要とする基礎的なカロリー量と言えます。

チームが調査した結果、この基礎的な消費カロリーは毎日の運動レベルが一貫して高い期間中減少することがわかりました。

これにより、運動によって消費したカロリーの平均28%分が相殺されていたのです。つまり100kカロリー消費していた運動で、72kカロリーしか消費されない状態になっていたのです。

これは私たちが長期にわたって運動を続けるほど、同じ運動量で消費されるカロリーが減ってしまうことを意味しています。

そして、この調査の中でチームはさらに驚くべき発見をしました。

それは、ボディマス指数(BMI)が高い人ほど、この効果が大きくなるという事実でした。

肥満な人ほど体の燃費がどんどん良くなっていく

運動しても疲れるだけで痩せない体になる
運動しても疲れるだけで痩せない体になる / Credit:canva

私たちは運動でカロリー消費すれば、その分は丸々、1日の総消費カロリーに上乗せされるという印象を持っています。

だから、運動すればするほど体の脂肪が減って痩せられるだろうと感じてしまします。

しかし、この研究は、運動するほど体が節約上手になり、さらに脂肪の多い人ほどその影響が大きくなる可能性が示されたと報告しています。

調査結果では、BMIがもっとも高かった人は、運動で消費したカロリーのうち54%分しか実際の総消費カロリーに上乗せされておらず、残りの本来消費されるべき46%分は、もっとも基礎的な機能に費やされるエネルギーを体が減らしたことで、帳消しにされていたといいます。

これは全体として年齢や性別による差はなく、関連するのはBMIだけでした

このため、研究チームは、BMIが高い(つまりが脂肪レベルが高い)人は、長期的な運動に応じて、基礎的な1日の消費カロリー量が減少しやすく、運動で痩せにくくなる可能性があると述べています。

現在世界中のガイドラインで、体重を減らすためには、1日500~600キロカロリーを運動などで余分に消費することが推奨されています。

また運動によって消費されたカロリー量を表示させるアプリなどもあるため、運動で燃焼される脂肪量(減量)も簡単に計算できるようになっています。

カロリー計算がしやすい世の中になっているが、実際数値通りに上手く言っているとは限らない
カロリー計算がしやすい世の中になっているが、実際数値通りに上手く言っているとは限らない / Credit:canva

しかし、今回の研究を通じて示されたのは、運動して消費されたカロリーは、体の基礎的な代謝エネルギーの減少によって相殺されてしまうため、実際は50%程度しか体重減少に寄与しない可能性があるという事実です。

そのため、ダイエットに関するガイドラインについても見直しが必要だろうと、研究者は語っています。

太っている人ほど、運動によって体の燃費がどんどん良くなってしまうとは、なんとも皮肉な話です。

体はなんとしても脂肪を手放したくないのでしょうか。

今回その原因については明らかにされていませんが、太ってしまう人は、そもそも体の燃費が非常によい設計になっているのかもしれません。

※この研究には22年に解析のやり方(比率の扱い方)に対する批判論文(Careau et al., Current Biology 2022)が発表されており、研究者も比率の解釈には注意が必要だと認めましたが、研究の中心的な結論(活動量が高いときにエネルギー補償が働き、肥満の人で補償が大きい傾向がある)は変わらないとしています。

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参考文献

Cruel twist: Exercise reduces calories burned at rest in individuals with obesity
https://www.eurekalert.org/news-releases/926541

元論文

Energy compensation and adiposity in humans
https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.08.016

ライター

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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