結婚生活が破綻したとき、人はつい、「愛が冷めた」「相性が合わなかった」など、ロマンチックな要因に原因を求めます。
しかし心理学の研究は、もっと現実的で重要な要因を指摘しています。
アメリカの心理学者マーク・トラバース博士は、数十年にわたって夫婦関係を研究してきました。
そんな彼は、「結婚生活を長続きさせる鍵」は、日々の現実的な対応や考え方にあると教えています。
本記事では、心理学研究の知見をもとに、結婚前に手放すべき2つの思い込みを紹介します。
目次
- 「結婚すれば問題はなくなる」という思い込み
- 「結婚という決断の後はうまくいく」という思い込み
「結婚すれば問題はなくなる」という思い込み
多くの人は、結婚すれば関係のすべてがうまくいくと信じがちです。
「結婚すれば、相手がもっと変わってくれるはず」「愛があればどんな問題も乗り越えられる」と考えてしまうのです。
しかし、現実の結婚生活はそう単純ではありません。
ジョン・ゴットマン博士の研究によると、結婚後の夫婦間の問題のうち、約69%は「永続的な問題」とされています。
つまり、性格や価値観、生活習慣の違いから生じる衝突は、結婚後も何度も繰り返し現れるのです。
たとえば、夫婦のどちらかが朝型で、もう一方が夜型の場合、どちらかがどちらかに完全に合わせるのは難しいことです。
また、貯金を重視する人と、今を楽しむためにお金を使いたい人とでは、金銭感覚の違いが絶えず摩擦を生みます。
こうした違いは、どちらかが間違っているわけではなく、価値観の構造そのものが異なっているだけです。
このような「永続的な違い」を前にして、問題なのは「違いの存在」そのものではありません。
本当に重要なのは、その違いにどう向き合うかという姿勢です。
多くの夫婦は、「本当に愛し合っていればケンカなどしないはずだ」と思い込みますが、これは誤解です。
むしろ、幸福な夫婦ほど、健全にケンカができることが分かっています。
幸せな幸せな夫婦とそうでない夫婦の違いは、「ケンカの有無」ではなく「ケンカの仕方」なのです。
怒りや不満を感じたときに相手を責めず、自分の感情を正直に伝え、相手の立場も尊重することが大切です。
そうした「フェアな衝突の仕方」ができるかどうかが、関係を長く続ける鍵になります。
したがって、「結婚すれば問題はなくなる」という幻想を手放し、むしろ「問題は必ず起こるもの」と受け入れることが、健全な関係の第一歩になります。
結婚生活とは、相手との違いを受け入れながら、一緒に生活を工夫していく毎日の積み重ねなのです。
「結婚という決断の後はうまくいく」という思い込み
もう1つの大きな誤解は、「結婚という一度きりの決断さえすれば、あとは自然にうまくいく」という考え方です。
多くの人は、結婚式の日や署名した瞬間に、物語がハッピーエンドを迎えるような錯覚を抱きます。
しかし、心理学的に見ると、結婚は一度の決断では終わりません。
結婚生活の質は、その後の「毎日の小さな選択の積み重ね」によって少しずつ築かれていきます。
例えば、「疲れているけれど、相手の話をきちんと聞こう」「明日は自分から感謝の言葉を伝えてみよう」「忙しくても一緒に食卓を囲む時間を作ろう」という決断が大切です。
日々の選択が、少しずつ関係を支える柱になっていくのです。
現代の結婚観では、配偶者に多くの役割を期待する傾向があります。
「親友であり、相談相手であり、共同親であり、時には心の拠り所でもある」ことを期待するのです。
しかし、1人の人間がこれらすべての期待に応えるのは現実的ではありません。
期待が大きいほど、満たされないときの失望も大きくなり、関係が揺らぎやすくなります。
だからこそ、結婚を「契約」ではなく「日々のメンテナンスが必要なシステム」として捉えることが大切です。
どんなに相性が良くても、手をかけなければ機能不全に陥ります。
逆に、定期的に点検し、少しずつ手入れをすれば、長持ちし、強くなるのです。
夫婦関係も同じで、「昨日より今日を少しよくする」意識を持ち続けることが大切です。
関係が冷え込む時期があっても、会話をやめず、相手の存在を尊重し続ける努力が、関係を回復させる鍵になります。
つまり、「今日この人とどう向き合うか」という日々の選択こそが、真の「結婚の決断」といえるのです。
ここまでで、結婚前に手放すべき「2つの思い込み」について考慮できました。
結婚生活が破綻する原因は、十中八九、1つの選択や一夜の出来事ではありません。
だからこそ結婚とは、毎日続く「小さな努力」と「相手の考えや気持ちを受け入れる姿勢」の積み重ねです。
愛は結婚の出発点ですが、維持するためには現実的なスキルと覚悟が必要です。
参考文献
2 Things All Couples Need to Unlearn Before Getting Married
https://www.psychologytoday.com/us/blog/social-instincts/202511/2-things-all-couples-need-to-unlearn-before-getting-married
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

