短期的なネガティブ思考は頭痛をやわらげる効果があった!

人体

広島大学大学院の研究によると、ネガティブな反復思考の傾向が強い人ほど、片頭痛持ちになりやすいことが示されています。

一方で、ネガティブな反復思考には、1週間ほどの短期間だと逆に頭痛を和らげる効果が見られたという。

しかし同時に、1カ月ほどの長期にわたって持続すると頭痛の重症度を高めていたようです。

研究の詳細は、2023年3月30日付で科学雑誌『International Journal of Cognitive Therapy』に掲載されました。

目次

  • ネガティブな反復思考が強い人ほど「片頭痛持ち」になりやすい
  • 片頭痛がある人とない人での「頭痛パターン」の違い

ネガティブな反復思考が強い人ほど「片頭痛持ち」になりやすい

偏頭痛や緊張性頭痛といった「一次性頭痛」は多くの人が日常的に経験しています。

(※ 二次性頭痛は、くも膜下出血や脳出血などの病気に伴って生じる頭痛のこと)

これまで、不安や抑うつといった心理状態が一次性頭痛を誘発することが示唆されていましたが、ネガティブ思考の繰り返しが頭痛の度合いを強めるのかどうかは明らかになっていません。

しかし、ネガティブな反復思考が一次性頭痛に影響することが分かれば、片頭痛に対する新たな心理療法にもつながります。

ネガティブな反復思考は頭痛を悪化させるか?
ネガティブな反復思考は頭痛を悪化させるか? / Credit: canva

そこで今回の研究では、大学生426名(女性220名、男性204名、無回答2名)を対象にアンケート調査を行いました。

各人が片頭痛持ちであるか否かをスクリーニング(ふるい分け)する質問や、ネガティブな反復思考の傾向を測定する質問を実施。

各人の頭痛レベルは頻度や重症度、日常生活への支障などから測定しています。

このアンケート調査は1カ月の期間をあけて2回実施しました。

そうすることで、1回目に測定したネガティブな反復思考が1カ月後の頭痛にどう影響するかという長期的な関係性も明らかになります。

そして分析の結果、ネガティブな反復思考の傾向が強い人ほど片頭痛を発症しやすいことが判明しました。

1回目の測定でネガティブ思考が強かった人は、その時点では片頭痛と判定されなくても、1カ月後に片頭痛と判定されるリスクが2.48倍も高かったのです。

では、ネガティブな反復思考はどんなプロセスをたどって悪化していくのでしょう?

ネガティブな反復思考のは悪化プロセスとは?

研究者によると、ネガティブな反復思考は以下のプロセスで重症化するといいます。

ネガティブ思考の悪化プロセス
ネガティブ思考の悪化プロセス / Credit: 広島大学 – ネガティブな考えは短期的には頭痛をやわらげ、長期的には悪化させる~心理的要因の効果に関する実証的な知見~(2023)

私たちは日常の中でさまざまな困難に直面しますが、そうした問題を放っておくことができない人は「考え続けないといけない」と思うことでネガティブな反復思考がスタートします。

そのうちに行き詰まってしまうと「問題が解決できない不全感」に陥ってしまいます。

そして「解決できないならもっと考えないと」と思うことでネガティブな反復思考がさらに悪化するのです。

そこで参加者における3つのプロセスの度合いをそれぞれ測定した結果、片頭痛持ちとそうでない人で興味深いパターンが見えてきました。

片頭痛がある人とない人での「頭痛パターン」の違い

まず片頭痛がない人の場合でも、ネガティブ思考が原因で日常経験する頭痛があり、それは主に「緊張性頭痛」でした。

この人たちは先の3つのプロセスのうち、「考え続ける義務感」が強いと1カ月後の頭痛の重症度が低下しており、「問題が解決できない不全感」が強いと1カ月後の頭痛の重症度が悪化していました。

「考え続ける義務感」はネガティブな反復思考の始まりであり、まだそこまで「こじれていない」ため、頭痛から気をそらす働きがあると思われます。

しかし、次の「問題が解決できない不全感」に至ると、首や肩に力が入って緊張性頭痛がひどくなると研究者は指摘します。

これを図示したのが下の図です。(矢印は頭痛の重症度の低下と上昇)

反復思考のプロセスと頭痛パターンの関係性
反復思考のプロセスと頭痛パターンの関係性 / Credit: 広島大学 – ネガティブな考えは短期的には頭痛をやわらげ、長期的には悪化させる~心理的要因の効果に関する実証的な知見~(2023)

これを見ると分かるように、片頭痛がある人の場合では、「問題が解決できない不全感」が強いと、1カ月後の頭痛による日常生活への支障は低くなっていました。

ところが、最終段階の「ネガティブな反復思考」の程度が強いと、1カ月後に頭痛の重症度が高くなっていたのです。

これについて研究者は、次のように解釈します。

「問題が解決できない不全感はかなりつらい状態だと考えられますが、まだなんとか頑張ろうとしているとも言えるでしょう。

そのため、頭痛の重症度を低下させる働きを保っているのかもしれません。

しかし、ネガティブな反復思考として本当に手に負えなくなると、頭痛による支障の度合いを高めてしまうのです」

ネガティブ思考は短期的には頭痛を和らげる?

短期的には頭痛を和らげてくれる?
短期的には頭痛を和らげてくれる? / Credit: canva

さらに本研究では、新たに92名(女性69名、男性22名、無回答1名)を対象に1週間という短い間隔で同じ調査をしました。

すると、片頭痛の人の中では、ネガティブな反復思考の傾向の高い人ほど1週間後の頭痛の程度が弱まっていたのです。

これにより、ネガティブ思考は短期的には片頭痛を緩和する効果があると見られます。

以上の結果から、ネガティブな反復思考には、短期的に頭痛を緩和する効果があるために、その後もさらに持続するようになり、そのせいで長期的にはより頭痛の程度を悪化させるメカニズムがあると結論されました。

チームは今後、ネガティブな反復思考を低減させる心理療法が片頭痛の緩和に有効かどうかを確かめる予定です。

鎮痛薬を用いると頭痛が慢性化しやすいことが知られているため、こうした心理療法は薬物を使わない治療として期待できるかもしれません。

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参考文献

ネガティブな考えは短期的には頭痛をやわらげ、長期的には悪化させる~心理的要因の効果に関する実証的な知見~
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/76187

元論文

Longitudinal Relationships Between Anxiety, Depression, Repetitive Negative Thinking and Headache Among Non-clinical Students After One Week and One Month
https://link.springer.com/article/10.1007/s41811-023-00161-5

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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