病院食が「患者の健康を損なう」と判明【ドイツ】

タンパク質

日本の病院では、患者の健康を考えたヘルシーでバランスの良い食事が提供されます。

しかし、すべての国で同じような配慮がされているわけではないようです。

2025年5月、ドイツのポツダム気候影響研究所(PIK)とシャリテ・ベルリン医科大学、そしてスタンフォード大学の研究者たちは、病院食そのものが「健康に良い」という前提に疑問を投げかける研究結果を発表しました。

なんとドイツの病院食は「患者の健康を損なう」ものだったのです。

この研究は2025年7月23に日付けの『The Lancet: Planetary Health』誌に掲載されまし

目次

  • 患者のための「病院食」は本当に健康的?
  • ドイツの病院食は「健康的でない」と判明

患者のための「病院食」は本当に健康的?

病院や介護施設など、患者に食事を提供する医療ケア機関は、本来であれば「健康を育む場所」であるべきです。

日本では「病院食は薄味で味気ない」なんて声を聞くこともありますが、それも栄養バランスや消化の良さを考えると納得できるものです。

では、その他の国の病院食はどのようなものでしょうか。

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病院食は、患者のために「栄養バランス」を重視したものであるべきだが…… / Credit:Canva

これまで病院食の研究は、カロリーやたんぱく質量の測定にとどまり、食全体の質や環境への影響についてはあまり検討されてきませんでした。

そこで研究チームは、ドイツの北部、東部、南部に位置する病院2か所と介護施設3か所を対象に、実際に提供されている1週間分の朝食・昼食・夕食・間食のメニューおよびレシピを統計的に分析しました。

食事の健康度は、アメリカの栄養ガイドラインに基づくHEI-2020と、人類と地球環境の両方を考慮したPHDI の2つの指標で採点されました。

HEI-2020では、果物、野菜、全粒穀物、たんぱく質、乳製品、植物性脂質、精製穀物、添加糖、ナトリウム、飽和脂肪酸といった項目を総合的に評価し、100点満点で採点されます。

一方、PHDIは2019年にEAT-Lancet委員会が提唱した「人と地球のための健康的な食事」に基づき、16の栄養・食品群から成る指標で150点満点です。

植物性食品の摂取量の適正さや、動物性食品の制限など、栄養と環境への影響の両面から評価されます。

では、どんな結果になったでしょうか。

ドイツの病院食は「健康的でない」と判明

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ドイツの病院食は健康的でないと判明 / Credit:Canva

分析の結果、分析対象となったドイツの医療施設で提供されている食事は、HEI-2020で39点から57点(100点満点)、PHDIでは30点から44点(150点満点)という、いずれも低評価にとどまっていました。

カロリーの大半は、赤身肉や乳製品などの動物性食品、白米や白パンなどの精製穀物、添加糖、飽和脂肪に由来するものでした。

一方で、健康的とされる植物性食品(豆類、ナッツ、果物、野菜、全粒穀物など)は、カロリー全体の20%未満にとどまり、PHDI で推奨される80%にはほど遠い状態でした。

たんぱく質も、特に介護施設では推奨量の73%未満とされており、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)や回復の遅れといった健康リスクが懸念されます。

また、ビタミンB群、ビタミンC、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛などの微量栄養素も、推奨摂取量の67%未満と著しく不足していました。

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研究自体に限界はあるものの、大切な課題を明らかにした。もっと多くの国で「病院食」の栄養に意識が向いても良いはず / Credit:Canva

ちなみに環境面でみると、動物性食品は、食材全体の重量では33%程度であるにもかかわらず、環境負荷全体の約75%を占めていました。

特に、牛肉と豚肉は温室効果ガス排出量の約38%、土地利用の約45%に寄与しており、ヨーグルトなどの乳製品も環境負荷の大きな原因となっていました。

一方で、より持続可能なタンパク質源である豆類やナッツ類は総調達量の1%未満でした。

これらの結果を受けて研究チームは、「病院で提供される食事は、長期的に摂取し続けた場合、健康リスクをもたらす可能性がある」と警鐘を鳴らしています。

この研究は、病院や介護施設という「健康を回復させる場」において、食事そのものが健康を脅かし、かつ環境を悪化させる可能性があるという二重の問題を明らかにしました。

対象施設が5か所と限定的であることや、実際に患者が「どれだけ食べたか」までは分析していないという制約はあるものの、提供される食事の設計に大きな見直しが必要であることは明白です。

今後、医療機関こそが「健康と地球を両立させる食のリーダー」として、より持続可能な食事への転換を進めることが求められているのかもしれません。

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参考文献

Hospital food proven bad scientifically – and may undermine health
https://newatlas.com/health-wellbeing/healthcare-setting-food-quality-sustainability/

Hospital and nursing home food undermines both patient and planetary health, new study shows
https://www.pik-potsdam.de/en/news/latest-news/hospital-and-nursing-home-food-undermines-both-patient-and-planetary-health-new-study-shows

元論文

Dietary quality and environmental footprint of health-care foodservice: a quantitative analysis using dietary indices and lifecycle assessment data
https://doi.org/10.1016/j.lanplh.2025.05.004

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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