現生人類とネアンデルタールの「混血児」、あり得ない生存年代が判明⁈

ネアンデルタール人

1998年、ポルトガル中部のラペド渓谷で奇妙な子供の遺骨が発見されました。

その遺骨は「ラペド・チャイルド(Lapedo Child)」と呼ばれ、現生人類(ホモ・サピエンス)とネアンデルタール人の両方の特徴を兼ね備えていたのです。

現生人類はネアンデルタール人と交配していたことが知られていますが、彼らは約4万年前に絶滅しています。

そして大きな謎となっていたのが、ラペド・チャイルドの生存年代でした。

これまで曖昧な年代しか推定されていませんでしたが、米マイアミ大学(University of Miami)らの最新研究で、ついに正確な生存年代が明かされました。

それによると、この混血児は約2万8000年前に生きていたとのことです。

これは一体どういうことでしょうか?

研究の詳細は2025年3月7日付で科学誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  • 現生人類とネアンデルタールの「ハイブリッド」はどんな姿だった?
  • あり得ない生存年代が判明⁈

現生人類とネアンデルタールの「ハイブリッド」はどんな姿だった?

現生人類とネアンデルタール人は、約4万年前までヨーロッパで共存していたと考えられています。

現代人のゲノムにもネアンデルタール由来のDNAが残っており、交配が行われていたことはすでに確定的です。

そこで気になるのは「現生人類とネアンデルタール人のハイブリッドはどんな姿をしていたのか」ということでしょう。

その答えを与えてくれる化石標本が「ラペド・チャイルド」でした。

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ポルトガル中部のラペド渓谷/ Credit: Bethan Linscott et al., Science Advaces(2025)

ラペド・チャイルドは1998年に、ポルトガル・ラペド渓谷にあるラガール・ヴェーリョ1という遺跡で発見されました。

4~5歳の子供ものほぼ完全な骨格を留めており、その体はネアンデルタール人に特有の短くがっしりした脚と、現生人類に特有の丸みを帯びた頭蓋骨を持ち合わせていたのです。

一方で、後頭部のくぼみのある部分は再びネアンデルタール人の特徴を想起させました。

これらはラペド・チャイルドが現生人類とネアンデルタールとの「ハイブリッド」であることを物語っています。

しかし今日まで問題となっていたのが、ラペド・チャイルドの生存年代です。

ネアンデルタール人は4万年前に絶滅しているので、それ以降に生きていた可能性はないと考えるのが普通でしょう。

ところが、これまでの年代測定では2万〜2万6000年前という曖昧であり得そうもない数字しか得られていませんでした。

そこで研究チームは最新の年代測定技術を駆使して、ラペド・チャイルドの生存年代を明らかにしようと考えたのです。

あり得ない生存年代が判明⁈

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ラペド・チャイルドの全身骨格図/ Credit: Bethan Linscott et al., Science Advaces(2025)

今回の研究では、ハイドロキシプロリン(HYP)法という新しい放射性炭素年代測定技術が用いられました。

この技術は、骨に含まれる特定のアミノ酸の一種「ハイドロキシプロリン」を単離し、より正確な放射性炭素年代測定を行う方法です。

従来の測定法では、保存状態の悪い骨からコラーゲンを抽出するのが困難で、正確な年代測定ができませんでした。

しかし、HYP法では骨の汚染を極限まで取り除き、より純粋な試料から年代を算出することが可能になりました。

そして、この方法を用いた結果、ラペド・チャイルドの生存年代は紀元前2万5830〜2万6600年前の間であることが断定されたのです。

つまり、この混血児は今から約2万8000年前に生きていたことになります。

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ネアンデルタール人の頭蓋骨/ Credit: ja.wikipedia

こうなると当然気になるのは、ラペド・チャイルドの生存年代とネアンデルタールの絶滅年代との矛盾です。

ネアンデルタールは4万年前に絶滅していますから、ラペド・チャイルドの両親のどちらかがネアンデルタール人だったという可能性はかなり低いと考えられます。

ただし、一部のネアンデルタール人が4万年前以降も小規模な集団として生き残り、そのグループが現生人類と交配した可能性はゼロではありません。

またもう一つの仮説は、ラペド・チャイルドが遠いネアンデルタール人の祖先の遺伝子を色濃く受け継いで、その特徴を発現した可能性です。

このいずれの考えが正しいのかは、今後のさらなる調査が必要となるでしょう。

現生人類とネアンデルタール人の混血がどのように進んだのかについては、まだ多くの謎が残されています。

ラペド・チャイルドはその謎を解き明かす貴重な存在となるかもしれません。

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参考文献

Scientists pinpoint age of suspected human-Neanderthal hybrid child
https://www.popsci.com/science/lapedo-child-age/

28,000-year-old Neanderthal-and-human ‘Lapedo child’ lived tens of thousands of years after our closest relatives went extinct
https://www.livescience.com/archaeology/28-000-year-old-neanderthal-and-human-lapedo-child-lived-tens-of-thousands-of-years-after-our-closest-relatives-went-extinct

元論文

Direct hydroxyproline radiocarbon dating of the Lapedo child (Abrigo do Lagar Velho, Leiria, Portugal)
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adp5769

ライター

千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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