完璧主義や人に頼まれると断れない性格のせいで、仕事や家庭で何度も燃え尽きてしまうことはありませんか。
自分の性格が原因だと分かっていても、「私はもともとこういう人間だから」と、変わることを諦めてしまう人も多いでしょう。
しかし、臨床心理士で米国ケンタッキー大学(University of Kentucky)の研究者であるShannon Sauer-Zavala博士によれば、性格は大人になってからでも変えることができるといいます。
博士は、完璧主義や人の期待に応えすぎてしまう傾向、そして不安の強さを「少しだけ調整する」ことで、努力を続けながらも燃え尽きずに生きる道があると述べています。
目次
- 性格は固定ではなく“ダイヤルで調整できるもの”
- 3つの特性を“ちょうどいい”レベルに調整して成功する
性格は固定ではなく“ダイヤルで調整できるもの”
多くの人が、自分の性格は生まれつき決まっていて変わらないと考えています。
そのため、仕事を完璧に仕上げようとするあまり夜遅くまで残業してしまったり、人に頼まれたことを断れずに予定を詰め込みすぎてしまったりしても、「自分はこういう性格だから仕方ない」と諦めてしまうことがあります。
しかし心理学の研究は、この思い込みを覆しています。
過去には「性格は20歳前後で固まる」と考えられていましたが、近年の研究では成人後も性格は変わり得ることが明らかになってきました。
しかも意識的に取り組むことで、その変化を加速させられる可能性があるとSauer-Zavala博士自身の研究でも示しています。
ここで重要なのが、性格を“変える”というのは「全く別人になる」という意味ではないという点です。
心理学では、人の性格を「ビッグファイブ(Big Five)」と呼ばれる5つの大きな傾向で説明します。
誠実性は几帳面さや計画性を表し、協調性は人との調和や思いやりを示します。
神経症傾向はストレスや不安への敏感さ、外向性は社交性や刺激を好む度合い、開放性は新しい体験や発想への興味を表しています。
これらの特性は固定の「タイプ」ではなく、0か100かで分かれるものでもありません。
むしろ音量を調整するダイヤルのように、少しずつ強めたり弱めたりできる連続体なのです。
つまり性格とは固定されたものではなく、「調整可能な特性の集合」だと考えられるのです。
では、それらの因子をどのように調整できるでしょうか。
3つの特性を“ちょうどいい”レベルに調整して成功する
燃え尽きを防ぎながら成功を続けるためにも、特性を調整することは大切です。
Sauer-Zavala博士は「協調性」「誠実性」「神経症傾向」の3つに注目し、極端に高すぎるレベルを少し下げてバランスを整えることを提案しています。
まず、協調性が高すぎる人は、頼まれごとをすべて引き受けてしまい、自分の負担を無視してしまうことがあります。
こうした状態は「people pleaser」と呼ばれ、長期的にはストレスや疲弊につながります。
この特性を変えることは、決して冷酷で利己的な人間になることではありません。
そのための変化に役立つのが「健全な自己主張」です。
たとえば「手伝いたいけれど、今は時間がありません。来週なら可能です」と伝えることで、相手との関係を損なわず、自分の限界を守ることができます。
次に考えるのは誠実性です。
誠実性が高すぎると「完璧主義」に陥り、「仕事や課題を細部まで修正し続けて終わらない」あるいは「休む時間を削ってしまう」ことがあります。
しかし誠実性のダイヤルを少し下げ、努力を「本当に価値のある部分」に集中させれば、過剰な消耗を防ぎつつ成果を出すことができます。
たとえば、発表用のスライドの細部を夜中まで整えるのではなく、「もう十分伝わる内容になった」と割り切って眠り、翌日に自信を持ってプレゼンできるようエネルギーを温存することができます。
3つ目は、神経症傾向の調整です。
神経症傾向が高い人は、不安や心配を抱えやすく、過去の失敗を繰り返し思い出したり、まだ起きていない問題を想像して動けなくなることがあります。
この場合も、不安を完全に消すのではなく、ストレスを受け流すための「感情的な柔軟性」を養うことが大切です。
大事な会議の前に緊張しても、そのことで落ち込むのではなく、「これは普通のこと。自分は対応できる」と心の中で言い聞かせるだけで、不安に振り回されず行動できるようになります。
こうした小さな練習を積み重ねることで、燃え尽きることなく、持続的に力を発揮できる“余白ある成功”が実現できるのです。
ここまで考えてきたように、性格は生まれつき固定されたものではありません。
誰もが「ダイヤル」を少し調整することで、より健やかで持続可能な生き方へと近づけます。
成功は「心をすり減らして勝ち取るもの」ではなく、「自分らしさを保ちながら長く続けられるもの」なのです。
参考文献
Personality Traits for Success Without Burnout
https://www.psychologytoday.com/us/blog/self-made/202509/personality-traits-for-success-without-burnout
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部