汗をかくと自動で「薄く」「涼しく」なるジャケットを開発【体温調節能力82.8%向上】

プラスチック

汗をかくような時には薄くて涼しく、そうでないときは分厚くて暖かい、そんな欲張りなジャケットが開発されました。

中国の南京航空航天大学(NUAA)の研究チームは、発汗で上昇する湿度に自動で反応して、中綿の厚みそのものが切り替わる新しい防寒衣料を報告しました。

電源も機械部品も使わない受動的な仕組みで、乾燥時はふくらんで断熱し、湿潤時はぺたんと薄くなって放熱します。

この成果は2025年8月13日付の学術誌『Science Advances』に掲載されました。

目次

  • 平常時は「分厚くて温かく」、汗をかくと「薄くて涼しく」なる新ジャケット
  • 新ジャケットは厚さが2m→13mに変動!体温調節能力が82.8%も向上

平常時は「分厚くて温かく」、汗をかくと「薄くて涼しく」なる新ジャケット

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ジャケットは温かいが、動き始めると逆に暑すぎる / Credit:Canva

冬の外出や作業では、動き始めると体が温まって汗をかき、ジャケットの中が蒸れてしまうことがあります。

一般的な防寒着は厚みや空気層が一定のため、体側の環境(温度・湿度)の変化に合わせて性能を変えることができません。

結果として、動くと暑すぎるのに脱ぐと寒いというジレンマが生まれます。

この問題を解く鍵として研究チームが使ったのは「汗=湿度の上昇」というメカニズムです。

汗は身体が熱を逃がしたいというサインなので、これを直接トリガーにすれば、服の側から自動的に“厚い⇄薄い”を切り替えられると考えました。

新しいジャケットの中綿は、2枚の薄いシートを重ねた作りになっています。

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汗による湿度でジャケットの分厚さが変化する / Credit:Xiaofeng Jiang(NUAA)et al., Science Advances(2025)

汗をよく吸って変形する特殊なシートと、丈夫なプラスチック「PET」のシートをくっつけています。

これにより、乾いているときは内部のシートが反った状態にあり、ジャケット全体がふくらんで空気をたくさんためるので、あたたかくなります

そして汗などで湿ってくると、内部のシートが水分を吸ってまっすぐな状態に戻り、ジャケット生地全体がが平らになって薄くなります。

そのぶん、体の熱が外へ逃げやすくなります。

ふつうの材料は「ぬれるともっと曲がる」ものが多いのですが、このシートの材料は「ぬれると平らになる」ように作られているのがポイントです。

では、この新しいジャケットにはどれほどの断熱・放熱効果があるのでしょうか。

新ジャケットは厚さが2m→13mに変動!体温調節能力が82.8%も向上

新ジャケットは、乾燥時は約13mmの“ふくらみ”で断熱し、発汗などで湿度が高いときは約2mmまで薄くなります。

模擬皮膚と熱流束計を用いた試験や、実際にジャケットを着て、人間が歩行したり自転車走行したりする試験も行われました。

その結果、乾燥時は市販のダウン(約13mm)に近い断熱性を示し、湿潤時は薄手のポリエステルシャツ(約1.4mm)に近い放熱性へと一着の中で切り替わりました。

従来の一定厚みの防寒着と比べて、体温調節能力が最大で82.8%向上したと報告されています。

さらに、湿潤/乾燥の繰り返しが200回でも性能の劣化は小さく、透湿性(蒸れにくさ)を保ったまま、20回の水洗い後も動作しました。

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厚みが自動調整されるジャケット。体温調整能力が82.8%上昇 / Credit:Xiaofeng Jiang(NUAA)et al., Science Advances(2025)

では、この新しいジャケットはどんな人に向いているのでしょうか。

「動くと暑く、止まると冷える」という状況を繰り返す人に特に向いています。

清掃員、宅配業者、警察官などの屋外作業員は、脱ぎ着の手間を減らしながら、より快適に過ごせる可能性があります。

一方で、今後の実用化に向けて確かめるべき点もあります。

年単位の長期使用での機械的な疲労や、豪雨や完全浸水のような極端な条件、強風下や厳しい寒波での実地体感などは、これから検証を重ねる必要があるでしょう。

また、コート、ジャケット、パンツなどの他の様々な衣類にも適用できるかも考慮しなければいけません。

とはいえ、電力ゼロで「汗=湿度」という身体のサインに同期して、保温と放熱のバランスを自動で調整できるという発想は素晴らしいものです。

実用化されるなら、私たちの野外活動はいっそう心地良いものとなるでしょう。

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参考文献

Sweat-sensitive jacket adjusts its thickness to keep you comfortable when it’s cold
https://techxplore.com/news/2025-08-sensitive-jacket-adjusts-thickness-comfortable.html

Sweat-activated winter jacket boosts thermal regulation by 82.8% in tests
https://interestingengineering.com/innovation/sweat-activated-winter-jacket

元論文

Sweat-sensitive adaptive warm clothing
https://doi.org/10.1126/sciadv.adu3472

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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