深海には未知の世界が広がっています。
中国の上海交通大学(SJTU)などの海洋探査チームが、地球で最も深い海域であるマリアナ海溝を調査しました。
その結果、これまで知られていなかった7000種の微生物を発見したと報告。
この発見は、深海という極限環境がいかに多様な生命を育んでいるのかを示すものであり、地球上の生物多様性に関する理解を大きく前進させるものです。
研究の詳細は、2025年3月6日付の学術誌『Cell』に掲載されました。
目次
- 地球最後のフロンティア「深海」を探る
- 深海から約7000種の新しい微生物が発見される
地球最後のフロンティア「深海」を探る
深海は長らく「地球最後のフロンティア」と呼ばれ、研究が困難な領域とされてきました。
その最大の理由は、極端な水圧、完全な暗闇、低温という厳しい環境条件にあります。

過去には、探査船「チャレンジャー号」が深海生物の存在を示唆するデータを提供し、1960年には「トリエステ号」が水深2万メートルを超えるマリアナ海溝の最深部「チャレンジャー海淵」に到達しました。
しかし、これらの探査ではごく限られた情報しか得られませんでした。
近年では、リモート操作無人探査機(ROV)や有人潜水艇(HOV)の発展によって、高精度なサンプル収集やリアルタイム観察が可能になっています。
今回の調査では、中国の有人潜水艇「奮闘者号(Fendouzhe)」を使用し、33回以上の潜航を行いながら大規模なサンプリングを実施しました。
研究者たちは、水深6000~1万900メートルの海溝底部、斜面、周辺の異なる地形から、数千点の堆積物、海水、大型生物のサンプルを採取しました。
そして採取したサンプルを最先端の技術で解析することで、これまで解明されてこなかった深海の生態系が明らかになりました。
深海から約7000種の新しい微生物が発見される

今回の調査では、合計7,564種の微生物が特定されました。
そのうち89.4%が、これまで報告されたことのない新種であることが明らかになりました。
さらに、微生物以外にも発見がありました。
研究チームは、深海を泳ぐ極小の甲殻類「カイコウオオソコエビ(学名:Hirondellea gigas)」を662匹集めることができました。
また、これまで発見された中で最も深い領域で生息する魚類「マリアナスネイルフィッシュ(学名:Pseudoliparis swirei)」も発見しました。

加えて、微生物の遺伝子分析により、深海の一部の微生物は、高圧環境に適応した特殊な遺伝的特徴を持っていることが明らかになりました。
彼らはより小型で効率的なゲノムを持っており、これが極度の圧力下で生存するのに役立っているのです。
一方で、より大型で柔軟なゲノムを持っている微生物も存在しており、これらは変化する状況に適応して生き延びることが得意であることが分かりました。
研究チームは発見された微生物の遺伝子をさらに詳しく分析することで、地球上の他の場所で絶滅の危機に瀕している生物を保護するために応用できるかもしれないと考えています。
マリアナ海溝での7000種の新種発見は、地球の生物多様性の奥深さを示すものです。
私たちがまだ知らない生命の形が、深海には無数に存在するのかもしれません。
参考文献
In Earth’s Deepest Ocean Trench, Over 7,000 New Species Have Been Discovered
https://www.iflscience.com/in-earths-deepest-ocean-trench-over-7000-new-species-have-been-discovered-78341
元論文
Microbial ecosystems and ecological driving forces in the deepest ocean sediments
https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.12.036
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部