SNSで見かける「セルフケア」という表現には、なんとなく「心地よさ」や「ご褒美」のイメージがつきまといます。
自分を甘やかしてもいい、つらい時は好きなことをしていい、というメッセージがバズり、バスタブやカフェラテの写真とともに「セルフケア」という表現の投稿を目にすることも多くなりました。
しかし、このようなセルフケアのイメージは、本来の意味から大きくずれてしまっているかもしれません。
元アメリカ海兵隊員将校で心理学者であるジル・シュルマン氏は、「本当のセルフケアは快適さではなく規律である」と指摘しています。
彼女は、「今この瞬間の気持ちよさだけがセルフケアではない」と強調しているのです。
目次
- 本当のセルフケアとは?
- 未来の自分をイメージした「日々のセルフケア」とは
本当のセルフケアとは?
雑誌やSNSでは、「今日は何も頑張りたくないからスイーツを買う」「面倒なことは置いておいて動画を一気見する」「朝はアラームを何度もスヌーズしてのんびり過ごす」といった、いわゆる“自分を労わる行動”がセルフケアとして紹介されています。
こうした行動は一時的には気分転換やリラックスになることもありますが、実は「本当の意味で自分を大切にする行動」になっていない場合が多いと言えます。
心地よさや楽な選択ばかりを優先すると、その瞬間は確かにストレスが和らぎますが、やるべきことがどんどん先延ばしになり、後で自己嫌悪やストレスが大きくなってしまうからです。
「また今日もできなかった」と感じて、自己肯定感が下がったり、自信がもてなかったりすることは、誰しもあるものです。
このようなその場しのぎの繰り返しは、自分が本当に目指したい未来や目標から、少しずつ遠ざかってしまう原因にもなります。
そのためシュルマン氏は、本当のセルフケアとは、“今の自分”だけでなく“未来の自分”も大切にする行動だと説明しています。
今日この瞬間の心地よさだけでなく、数日後や数年後に「やってよかった」と思える選択を積み重ねることが、本当のセルフケアなのです。
こうした考え方を意識すると、今やるべきことをきちんと行い、小さな自分との約束を守ることができるようになります。
そして、小さな積み重ねが自信や誇りにつながり、一時的な快楽では得られない本当の自己肯定感が育まれていきます。
未来の自分への投資として、セルフケアを捉え直すことが大切なのです。
こうしたアドバイスには、心理学的な根拠もあります。
未来の自分をイメージした「日々のセルフケア」とは
心理学者のハル・ハーシュフィールド氏の研究では、未来の自分を具体的にイメージできる人ほど、今日の選択も前向きになりやすいことを明らかにしています。
また別の研究では、自分の価値観や目標と一致した努力こそが長続きし、深い充実感をもたらすとされています。
さらにアルバート・バンデューラ氏の研究は、自信が挑戦を避けることからではなく、困難な課題を乗り越えることから生じることを証明しています。
こうしたことからも、本当のセルフケアが「心地よさ」だけで決まらないと分かります。
それでは、実際にどのようなセルフケアを行うべきなのでしょうか。
たとえばアラームが鳴ったらすぐに起きる、先延ばししたくなる仕事をまず最初に片付ける、健康を意識して食事を選ぶ、自分をすり減らす頼みごとにはノーと言う、睡眠時間をしっかり確保する、といった日々の実践が挙げられます。
また、セルフケアは頑張るだけではなく、意図的な休息にも当てはまります。
ただし、休息が「面倒なことからの逃避」になっていないか意識することがポイントです。
たとえば、仕事の途中でSNSや動画を見て現実逃避したり、夜更かししてしまったりする行動は、リラックスしているつもりでも、実際には疲れや不安が強くなることがあります。
どんな休息も、「これは未来の自分にとって本当に役立つ休み方か?」と意識して選ぶことが大切です。
たとえば、夕方に仕事を終えて家族との時間をつくる、週末にスマホを手放してデジタルデトックスをする、ヨガや散歩で心と体をリセットするなど、未来の自分が感謝できる休息を取り入れるのがポイントです。
さらに、毎日や毎週、「今日が終わったときに自分は何をしていたら誇れるか」「今週末、やっておけばよかったと思うことは何か」と自分に問いかけるだけでも、日々の選択が変わっていきます。
こうした小さな積み重ねが、少しずつ自己肯定感や自信を育て、本当に自分を大切にする力につながっていきます。
セルフケアという言葉は、心地よさやご褒美と同じ意味で使われがちですが、実際は未来の自分に向けた日々の小さな規律こそが、その本質です。
心地よさだけに流されず、バランスを意識して、新しいセルフケアを始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献
Real Self-Care Is Discipline, Not Comfort
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-science-of-bravery/202509/real-self-care-is-discipline-not-comfort
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部