恐竜時代の「海棲爬虫類」の体温の推定に成功!

化石

恐竜時代の海には、プレシオサウルス(首長竜)やモササウルスといった巨大な海棲爬虫類が悠然と泳いでいました。

彼らは一体、どんな体温でこの大海原を生きていたのでしょうか?

これまで長い間、海に適応した大型爬虫類は、現代のクジラやイルカのように高い体温(およそ37℃前後)を持っていたと考えられてきました。

ところが、名古屋大学の最新研究によって、この常識が大きく覆されようとしています。

今回、ジュラ紀から白亜紀にかけて生息していた「プレシオサウルス」や「モササウルス」といった海棲爬虫類の“本当の体温”が、約1億年前の化石から直接読み解かれることに成功したのです。

研究の詳細は2025年9月29日付で科学雑誌『Progress in Earth and Planetary Science』に掲載されています。

目次

  • 恐竜時代の海棲爬虫類の「体温」は?
  • 進化の謎に新しい光

恐竜時代の海棲爬虫類の「体温」は?

研究チームは今回、化石として残された歯や骨に含まれる「リン酸」の中の酸素の種類(同位体)に着目しました。

そもそも、動物の歯や骨は「リン酸カルシウム」という成分でできています。

このリン酸は、体液(体の中の水分)と化学反応を起こし、酸素の同位体が入れ替わります。

そのため、歯や骨のリン酸を詳しく調べることで、かつてその生き物がどんな体温で暮らしていたのかを知ることができるのです。

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モササウルスの骨格標本 / Credit: ja.wikipedia

従来は、化石になった生物の正確な体温を調べる方法は限られていました。

しかし今回の研究では、歯に含まれる「三酸素同位体」という3つの種類の酸素原子の比率を精密に分析することによって、体液の温度――すなわち体温――を“化石そのもの”から推定することに成功しました。

調査対象となったのは、約1億年前の海に生きていた「プレシオサウルス」と「モササウルス」の歯化石です。

これらの化石に含まれるリン酸の三酸素同位体組成を最新の手法で調べ、さらに当時の海水の酸素同位体比と比較することで、驚くべき事実が判明しました。

プレシオサウルスとモササウルスの体温は、なんと23℃〜25℃と推定。

これは現代の温かい海を泳ぐサメやマグロのような“中温性”の魚類とほぼ同じレベルであり、従来イメージされていたクジラやイルカのような高体温(37℃前後)よりも10℃以上も低かったのです。

進化の謎に新しい光

この研究がもたらした最大の発見は、1億年前の海の覇者たちが、意外にもクジラ型の恒温動物ではなかったという事実です。

長年、「海の巨大爬虫類=高体温の恒温動物」とされてきた常識が、歯の中に眠っていたわずかな酸素原子の分析から覆されました。

これは古生物の進化や海の生態系の歴史を考えるうえで、非常に重要な一歩です。

たとえば、現代のクジラは一度陸上で進化した哺乳類が再び海に戻ったグループですが、その進化の過程で乾燥への適応(体の中の水分を逃がさない仕組み)を強化しています。

そのため体液中に「代謝水(食べ物を分解したときに体の中で作られる水分のこと)」が多く含まれるようになりました。

一方、今回調べられたモササウルスやプレシオサウルスは、こうした乾燥適応の仕組みをほとんど持たず、「水がすぐそばにある」環境での暮らしに特化していたと見られます。

つまり、彼らの祖先は陸地の奥深くで乾燥に耐え抜いたわけではなく、海や水辺を中心に進化してきたという新たな進化像が浮かび上がります。

このような体温や代謝水の分析は、今後さらに多くの古代生物の研究に応用されていくでしょう。

たとえば、恐竜の時代の生物がどのような環境で生き、どう進化してきたか、地球の大きな環境変化にどう適応したのか――そうした壮大な謎を解き明かす大きなヒントとなります。

また、過去の環境や生態系の復元にも大きなインパクトがあります。

歯や骨に刻まれた情報から、気温や海水温、陸地の乾燥度合いまでを読み解くことができるのです。

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参考文献

ジュラ紀・白亜紀の海棲爬虫類の体温を正確に推定 進化に伴う生息域の変遷を探る手がかりになる可能性
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/10/post-884.html

元論文

Reconstructing the body temperature of extinct marine reptiles
https://doi.org/10.1186/s40645-025-00757-9

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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