実は永遠じゃない!「ダイヤモンド」は「鉛筆の芯」に変わる運命だった

ダイヤモンド

「ダイヤモンドは永遠の輝き」というフレーズを聞いたことがあるでしょう。

しかし、科学的にはこれは少し誤解を招く表現です。

実は、ダイヤモンドは時間とともに変化し、最終的には鉛筆の芯の成分である黒鉛へとゆっくり変わっていく運命にあります。

驚くかもしれませんが、ダイヤモンドは決して不変の存在ではなく、長い年月の間にその姿を変えていくのです。

目次

  • ダイヤモンドは鉛筆の芯に変わる運命
  • 「ダイヤモンド」と「黒鉛」は同じ炭素なのになぜここまで違うのか?

ダイヤモンドは鉛筆の芯に変わる運命

ダイヤモンドの輝きは私たちにとって不変のように思えますが、実は静かに別の姿へと変わっていきます。

ダイヤモンドは炭素原子が強固に結びついた結晶構造を持っていますが、実はこの結びつきは時間の経過とともに少しずつほどけ、より安定した黒鉛の構造へと変わっています。

つまりダイヤモンドは、最終的に私たちが普段手にしている鉛筆の芯に変わってしまうのです。

そんなことになってしまうのは、「ダイヤモンドは地球の高温高圧環境で生まれたものであり、地表の環境ではその結晶構造が長期的に安定しにくい」ことに起因しています。

超深部起源ダイヤモンドの形成と地球の内部構造 / Credit:BRIDGE ANTWERP BRILLIANT GALLERY,スーパーディープダイヤモンド(Super‒Deep Diamond)

ダイヤモンドは炭素原子が三次元的にガッチリと結びついているのに対し、黒鉛は炭素原子が層状に結びついています。

この層状構造の方が、外部からの影響を受けにくく、より低いエネルギー状態にあるため、地表ではこちらの方が炭素の結合として安定しているのです。

(a)ダイヤモンドの結晶構造(b)黒鉛(グラファイト)の結晶構造/Credit:Afshin Bakhtiari,American Journal of Condensed Matter Physics(2022)

ダイヤモンドは、地下数百キロメートルの超高圧・高温環境で形成されます。この高圧がダイヤモンドの特殊な構造を支えているのですが、地表に出るとその環境が失われ、構造を維持する力が次第に弱くなっていくのです。

もし家が火事になったらダイヤモンドはどうなるの?

Credit:canva

こうしたダイヤモンドが黒鉛が同じ炭素という話を聞いて、浮かんでくるのがダイヤモンドって燃えるの? という疑問です。

炭素は通常、高温にさらされると酸素と結びついて、二酸化炭素(CO₂)に変わる性質があります。

だとするとダイヤモンドも燃えると予想されますが、ではもし家が火事になったらダイヤモンドはどうなってしまうのでしょうか?

ダイヤモンドの形成がそうであるように、炭素の変化には、温度と圧力が重要な影響を持っています。

もし高温高圧なら、ダイヤモンドの結晶構造を作りますが、低圧で高温の環境だと黒鉛に変わります。

ただ熱で黒鉛に変化するためには、酸素が不足した状態で1700~1900℃の高温にさらされる必要があります。

一般的な火災の温度は約800~1200℃で、通常は酸素がある環境下になるので、この状況だとダイヤモンドは黒鉛に変化する前に燃焼し、二酸化炭素(CO₂)になって消えてしまいます

つまり家が火事になった場合、保管していたダイヤモンドは燃えてなくなってしまう可能性が高いのです。

そう考えると、ダイヤモンドは全然永遠じゃないという気がしますね。

しかし、ダイヤモンドと黒鉛は、なぜ同じ元素でありながら、なぜここまで見た目も手触りも違うのでしょうか?

「ダイヤモンド」と「黒鉛」は同じ炭素なのになぜここまで違うのか?

ダイヤモンドと黒鉛は、どちらも同じ炭素原子からできていますが、見た目はまったく異なります。

ダイヤモンドは透明で美しく輝きますが、黒鉛は黒く、不透明で、手にすると粉がつくこともあります。この大きな違いはどこから来るのでしょうか?

見た目については、結晶構造の光の通し方が関係しています。

ダイヤモンドが美しく輝くのは、その結晶が光を特殊な方法で扱うためです。

ダイヤモンドの結晶構造は、光が一定の角度より浅く当たると内部で反射し続ける「全反射」を引き起こしやすい作りになっています。 特に、カットされたダイヤモンドの内部では、この全反射が繰り返されることで光が逃げにくくなり、強いきらめきを放つのです。

また光は色ごとに屈折の度合いが異なるため、ダイヤモンドを通過した光はプリズムのように色が分かれやすくなります。

Credit:canva

こうした2つの特性が、ダイヤモンドをただ透明なだけでなく、複雑な虹色に強い輝いているように見せる理由です。

一方、黒鉛は層状の構造を持ち、各層の間では電子が自由に動ける構造をしています。そのため光を吸収しやすく、不透明で黒くなるのです。

この結晶構造の違いは、ダイヤモンドと黒鉛の手触りや硬さにも影響を与えています。

特に、ダイヤモンドには「硬さ」と「脆さ」という一見矛盾するような性質があります。

ダイヤモンドは、炭素原子が三次元的に強固に結びついた「共有結合結晶」となっており、天然物質の中で最も硬いとされています。このため、外部からの摩耗や擦れに対して非常に強く、他の鉱物や金属を容易に傷つけることができます。

そのため、他の宝石の加工や工業用途で利用されることもあります。

しかし、ダイヤモンドの結晶構造は特定の方向に沿って結びつきが弱く、衝撃が加わるとその面で簡単に割れてしまうという丈夫さとはまったく逆の性質もあります。

この性質を『劈開(へきかい)』と呼びます。ダイヤモンドは全方向に均等に強いわけではなく、特定の方向には意外なほど脆いのです。

例えば、ハンマーで強く叩いた場合や、急激な温度変化による熱衝撃を受けた場合、ダイヤモンドが粉々に砕けることもあります。

一方、黒鉛は炭素原子が平面状に並び、それぞれの層が弱いファンデルワールス力で結びついています。

このため、黒鉛は層ごとに滑りやすくなっており、手でこすると粉がつくほどです。

炭素の結晶構造。層状になっていって層ごとの結びつきは弱い。/Credit:Wikimedia Commons

これがダイヤモンドは美しく、黒鉛は汚いという印象を人に抱かせてしまうのです。

これだけ人の目には大きな違いがあるダイヤモンドと黒鉛ですが、全ては同じ元素の結晶構造の違いであり、地表で安定しているのは黒鉛の方です。

そのためダイヤモンドは、最後は地表で黒鉛に変わってしまうのです。

どのくらいの時間でダイヤモンドは鉛筆の芯に変わるのか?

では、最終的にどのくらいの時間をかけてダイヤモンドから黒鉛への変化は起こるのでしょうか。

それは、私たちが生きている間には決して目に見えるものではなく、数百万年、あるいは数億年というスケールで、ゆっくりとその輝きを失いながら黒鉛へと変化していくのです。

そのため人間の一生というスケールで考えた場合、婚約指輪として永遠の誓いの象徴にするのは間違っていないのかもしれません。

しかしダイヤモンドが変化するまでには気の遠くなるような時間がかかりますが、「この美しい宝石がゆっくりと鉛筆の芯になっていく」と想像すると、科学のロマンを感じずにはいられません。

数億年後に、このダイヤモンドはどんな姿になっているのか。

そんな未来に思いを馳せるのも、また一興かもしれません。

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参考文献

Structure of carbon allotropes
https://www.britannica.com/science/organic-chemistry

Structural Description
https://www.asbury.com/resources/education/graphite-101/structural-description/#:~:text=Graphite%20is%20composed%20of%20layers,(without%20the%20hydrogen%20atoms).

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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