宇宙は約333億年後にビッグクランチで終わる――最新研究が示した最有力解

シミュレーション

アメリカのコーネル大学(Cornell University)などで行われた研究により、私たちの宇宙は約333億年の寿命があり、最後には「ビッグクランチ(宇宙の大収縮)」で終焉を迎える可能性があるとの最有力解を示されました。

現在宇宙の年齢は約138億年とされていますが、計算上はあと約200億年程度で宇宙が終わりに至ることになります。

また研究ではこれまでひたすら広がり続けてきた宇宙が、ちょうど「ゴムバンド」を引き伸ばして離したときのように元に戻ろうとする——そんなターニングポイントが約110億年後に訪れる可能性が示唆されたのです。

研究内容の詳細は2025年9月18日に『Journal of Cosmology and Astroparticle Physics』にて発表されました。

目次

  • 宇宙は本当に永遠に膨張するのか——最新観測が示す未来図
  • 「膨張」から「収縮」へ――最新研究が示した宇宙のシナリオ
  • 「宇宙の終わり」を科学する時代へ

宇宙は本当に永遠に膨張するのか——最新観測が示す未来図

宇宙は約333億年後にビッグクランチで終わる――最新研究が示した最有力解
宇宙は約333億年後にビッグクランチで終わる――最新研究が示した最有力解 / Credit:Canva

宇宙にも寿命があるかもしれない──そう聞くと、途方もなく現実味のない話に感じるかもしれません。

なぜなら、私たちが普段抱いているイメージでは、宇宙は果てしなく広がっていて、時間的にも永遠に存在するものだと考えがちだからです。

しかし、宇宙科学の世界では、宇宙が本当に無限なのか、それともどこかで終わりがくるのかという疑問が、ずっと真剣に議論されてきました。

1990年代の終わり頃、「宇宙の膨張スピードが加速している」という驚きの観測結果が発表されました。

これが、宇宙は無限に広がり続けるというシナリオを強く後押ししたのです。

現在でも宇宙論(宇宙の成り立ちや未来を研究する科学)の分野では、この加速膨張する宇宙という考え方が標準的な理論になっています。

では、この宇宙の膨張を支えているものは何でしょうか?

実は、宇宙の未来を決めるカギとして「ダークエネルギー」と呼ばれる謎のエネルギーがあると考えられています。

ダークエネルギーは目に見えず、正体も分かっていませんが、宇宙空間そのものを押し広げる力として働いています。

私たちが見ている星や銀河などの普通の物質は、宇宙のエネルギー全体のわずか数%にすぎません。

宇宙の約68%は、このダークエネルギーが占めていると考えられています。

このダークエネルギーの強さを表すのが「宇宙定数」と呼ばれる値です。

宇宙定数はアインシュタインが約100年前に導入したもので、宇宙全体に一様に広がるエネルギーの強さを表します。

宇宙定数が正(プラス)の値なら、宇宙は永遠に膨張を続けます。

反対に、宇宙定数が負(マイナス)なら、宇宙はいつか膨張を止めて縮み始め、最終的には一点にまで収縮してしまうというシナリオになります。

この宇宙が一点にまで縮まる運命を「ビッグクランチ(大収縮)」と呼びます。

コラム:ビッグクランチとは何か?

宇宙の終わり方にはさまざまなシナリオが考えられていますが、その中で特にドラマチックな終末論のひとつが「ビッグクランチ(Big Crunch)」です。「クランチ(crunch)」という英語は「バリバリ砕く」「圧縮する」といった意味がありますが、この言葉通り、ビッグクランチとは宇宙が膨張をやめて再び縮み始め、最後には一点にまで押しつぶされてしまうシナリオを指します。
現在、私たちの宇宙は膨張し続けており、銀河同士は離れていっています。しかし、もし将来的にダークエネルギーという宇宙を広げる力が弱まり、宇宙の膨張速度が遅くなると、宇宙空間を構成する物質の重力が優位になってしまいます。そうなると、これまで膨らみ続けてきた宇宙は、ブランコが最高点で静止してから逆方向へ引き戻されるように、縮小へと転じる可能性があります。
収縮が始まると、離れていた銀河が次第に近づき、宇宙は再び密集状態に向かっていきます。やがて収縮速度が加速すると、宇宙空間の温度や密度はどんどん高くなり、最後にはビッグバンの時のような超高温・超高密度の極限状態へと逆戻りします。こうして宇宙は一点にまで凝縮され、すべての物質が押しつぶされて消滅するというのです。
あえて言うならば、ビッグクランチとは宇宙の最期を描くシナリオの中でも、ビッグバンの逆再生のような「壮大な巻き戻し再生」のイメージを持つものであり、宇宙論における最も劇的な仮説のひとつと言えるでしょう。

逆に、永遠に膨張が続き、宇宙全体が冷えきるシナリオは「ビッグフリーズ(宇宙の熱的死)」と呼ばれます。

ここ20年ほどは、多くの科学者が「宇宙定数は正であり、宇宙は永遠に膨張し続ける」と考えてきました。

しかし最近になって、この考え方を揺るがす新たな観測結果が報告され始めています。

「ダークエネルギーサーベイ(DES)」や「暗黒エネルギー分光装置(DESI)」といった最新のプロジェクトのデータが、それまで一定だと信じられてきたダークエネルギーが、実は時間とともに少しずつ変化している可能性を示したのです。

宇宙を押し広げている「エネルギー」という燃料が、徐々に弱くなっているかもしれないという兆候が出てきました。

研究チームの解析では、このダークエネルギーの変化は、統計的に「2.8〜4.2シグマ」という偶然では説明しにくい高い有意性を持つと報告されています。

この新しい発見は、宇宙を研究する科学者たちに大きな問いを投げかけました。

もし宇宙を広げる原動力であるダークエネルギーが今後さらに弱まっていくとすれば、宇宙は本当に永遠に膨張し続けるのでしょうか?

それとも、どこかで膨張が止まり、再び縮み始める未来もあり得るのでしょうか?

「膨張」から「収縮」へ――最新研究が示した宇宙のシナリオ

「膨張」から「収縮」へ――最新研究が示した宇宙のシナリオ
「膨張」から「収縮」へ――最新研究が示した宇宙のシナリオ / Credit:川勝康弘

宇宙の未来を予測する――これは科学者にとって究極ともいえる難問ですが、今回の研究チームはまさにその問題に正面から挑みました。

彼らが使ったのは、「アクシオン・ダークエネルギーモデル(aDEモデル)」と呼ばれる新しい理論です。

「ダークエネルギー」とは、宇宙の膨張を引き起こしている正体不明のエネルギーですが、このモデルはそのダークエネルギーが一定ではなく、実は時間とともに変化していくのではないか、という新しい視点を取り入れています。

具体的には、「アクシオン」という非常に軽い仮想的な粒子が関係しています。

アクシオンは宇宙が生まれたばかりの頃には非常に強い力を持っていて、宇宙の膨張を促進する役割を果たしていました。

ところが時間が経つにつれ、このアクシオンの力は少しずつ弱まっていきます。

そして代わりに、それまで目立たなかったもう一つの成分「負の宇宙定数」の影響力が相対的に大きくなっていく、という仕組みになっています。

「負の宇宙定数」とは簡単に言えば、「宇宙を縮めようとする力」です。

つまり宇宙には「広げようとする力」と「縮めようとする力」が常に同居しているというのが、このモデルのポイントなのです。

これまでは宇宙を広げる力(ダークエネルギー)が圧倒的に強くて目立っていましたが、今回のモデルによると、将来的には広げる力が徐々に弱まり、縮める力が逆転する可能性があるというのです。

タイ氏らは、この仮説を元に、宇宙が今後どのような運命を辿るのかを実際にコンピューターでシミュレーションしました。

すると興味深いことに、最新の観測データに最もよく合致したのは、この「負の宇宙定数」を取り入れたケースだったのです。

「負の宇宙定数なら宇宙はいつか収縮してしまう」という考え方自体は昔から存在しましたが、今回の研究が画期的なのは、「では一体いつ収縮が始まり、どんな段階を経て宇宙が終わっていくのか」という具体的な「タイムライン」を明確に示した点にあります。

それでは、その驚くべき「宇宙の収縮」のシナリオを具体的に見ていきましょう。

シミュレーションによれば、まず現在から未来に向かって宇宙の膨張スピードは徐々に遅くなっていきます。

これは、今までは強かったアクシオンの力がだんだん弱まっていくためです。

こうして数十億年という長い時間をかけて、宇宙の膨張速度は徐々に緩やかになっていきます。

そして宇宙が現在の大きさからさらに拡大を続けて約110億年ほど経った未来、ついに宇宙の膨張は完全に止まるのです。

これはまさに「宇宙の歴史の中の重要な転換点」であり、宇宙が最大の広がりを迎える瞬間です。

このときの様子は、ブランコが最高点に達した時に一瞬静止し、その後逆方向へ戻り始めるようなイメージがぴったりでしょう。

このように一旦膨張が止まった後、宇宙では今度は逆のプロセスが始まります。

ゴムバンドを限界まで伸ばした後に手を離すと縮み始めるように、宇宙もまたゆっくりと「収縮モード」に切り替わることになります。

最初はゆっくりですが、時間とともに重力の引き戻す力が次第に強まり、宇宙はだんだん速く縮んでいきます。

こうして宇宙は「膨張」から「収縮」へと、ゆっくり方向を変えていきます。

最初は小さな変化ですが、重力の引き戻す力がだんだん強まり、宇宙の縮小速度は次第に速くなっていきます。

やがて現在から約200億年後、つまり宇宙誕生から数えると約333億年後には、宇宙全体が極限まで高密度・高温の状態に収束し、ついに「ビッグクランチ(大収縮)」と呼ばれる終わりの瞬間を迎えると予想されます。

この最期の光景は、私たちが「ビッグバン(宇宙の始まり)」と呼んできた出来事の逆再生のようなものです。

今は互いに遠ざかっている銀河が、未来には引き寄せ合って融合し、宇宙が縮んでいくにつれて温度と密度が急激に高まっていきます。

そして最終的には、あらゆるものが一点に集まり、極限的な状態に押し込まれるのです。

タイ氏らはこのシナリオに具体的な時間軸を与えました。

宇宙の総寿命は約33.3ギガ年(=333億年)という数字で表されます。

現在の宇宙の年齢は約138億年ですから、宇宙はいま人間にたとえるなら「中年期」に差し掛かったあたりだと言えるでしょう。

長らく漠然と語られてきた宇宙の最期に、初めて検証可能なかたちで「予報」を出したことが、この研究の大きな価値です。

もちろん、こうした未来はすぐに訪れるものではありません。

たとえば数十億年後には太陽が寿命を迎え地球は灼熱化し、約40億年後には銀河系とアンドロメダ銀河が衝突・合体すると予測されています。

200億年先という時間スケールは、人類はおろか太陽系すら存在しないほどの途方もない遠未来です。

したがってビッグクランチが起きるとしても、それは人類にとって「差し迫った危機」ではなく、あくまで宇宙論的な興味に属する話題だといえます。

重要なのは、この壮大な仮説が今後の観測で実際に確かめられる可能性があるという点です。

欧米の「ルービン天文台」や欧州宇宙機関の「Euclid宇宙望遠鏡」など、複数の新しい観測プロジェクトがダークエネルギーの精密測定を進める計画です。

こうしたデータが集まれば、今回のモデルが示した「宇宙はやがて縮み始める」という未来図が正しいのか、それとも別のシナリオが待っているのか、今世紀中にも判別できるかもしれません。

この意味で、今回の研究は「反証可能」な予測を提示した科学として、非常に健全な一歩だと評価できます。

「宇宙の終わり」を科学する時代へ

「宇宙の終わり」を科学する時代へ
「宇宙の終わり」を科学する時代へ / Credit:Canva

今回の研究が私たちに示したのは、非常に刺激的で、かつ科学的にも興味深いシナリオです。

それは、私たちの宇宙が「永遠に膨張し続ける」というこれまでのイメージではなく、「いつか寿命が尽きて収縮に転じるかもしれない」という新しい未来像があるということです。

人類が「宇宙はいつ、どのように始まったのか」と問い、ビッグバン理論に辿り着いてから約100年。

私たちはついに「宇宙がどのように終わるのか」という壮大な問いに挑む時代に来たのだと言えるでしょう。

もちろん、この「宇宙の終わり」のシナリオは、絶対的な未来を約束するものではありません。

ダークエネルギーが時間とともに変化するという仮説のもとで初めて見えてくる未来像です。

現段階での予測は、「最も観測データに適合した宇宙の未来像の一つ」として位置づけられます。

実際、宇宙を広げるダークエネルギーが本当に変化しているのか、もしくは変わらないのかについては、依然として科学的な不確実性が残されています。

観測データには常に誤差や曖昧さがつきまとうため、今回のモデルで示された「負の宇宙定数」が確定したとは言い切れません。

したがって、この研究結果は「こうした未来もあり得る」というシナリオの一つとして受け止めるのが妥当でしょう。

それでも、この成果には大きな意義があります。

これまで漠然としか語られてこなかった「宇宙はいつ終わるのか」という問いに、初めて具体的なタイムライン――約110億年後に膨張が止まり、その後約333億年目に宇宙が終わる可能性――を科学的根拠とともに示したからです。

これは理論的な予測に留まらず、観測技術の進歩によって、今後数十年のうちに実際に検証できる可能性を持っています。

こうした新しい未来像が宇宙研究全体に与える影響はとても大きいものとなるでしょう。

宇宙の「終わり方」が具体的に描かれることで、私たちが宇宙をどう捉えるかという視点が変わり、研究の方向性もさらに広がるはずです。

研究を主導したタイ氏も、「宇宙に始まりと終わりの二つの基準点があることで、宇宙をより深く理解できる」と強調しています。

また、「宇宙にも終わりがあると判明することは、科学的な理解を進めるうえで重要だ」とも語っています。

実際、今後数十年のうちに世界中の観測プロジェクトが次々と始まります。

例えばアメリカの「ルービン天文台」やヨーロッパ宇宙機関の「Euclid宇宙望遠鏡」などが、ダークエネルギーの観測精度を飛躍的に高める計画です。

これらの観測データが出そろえば、宇宙の終わりが現実的にどうなるのか、より精密な予測が可能になります。

もちろん、宇宙の寿命は200億年以上先の話なので、私たち自身がその結末を直接目にすることはありません。

しかし、この予測が検証可能であるという点は、科学にとって非常に価値があります。

宇宙が永遠に広がり続けるのか、それともいつか再び縮み始めるのかという究極の問いへの答えが、ゆっくりと、しかし確実に私たちのもとに近づいてきています。

その意味で、今回の研究は人類が宇宙を理解する、新たな一歩だと言えるでしょう。

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参考文献

Data from dark-energy observatories indicate universe may ‘end in a big crunch’ at 33 billion years old
https://phys.org/news/2025-10-dark-energy-observatories-universe-big.html

元論文

The lifespan of our universe
https://doi.org/10.1088/1475-7516/2025/09/055

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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