反抗期という言葉あるように、思春期になると多くの子どもは大人の警告を素直に受け入れなくなります。
十代の子どもの反抗的な態度や無視、逆ギレなどに悩む親や教師は多いでしょう。
一方で、不思議なことに、同じことを言っても子どもが素直に耳を傾けてくれる大人も存在します。
では、子どもに反発されにくい大人は何が違うのでしょうか。
こうした疑問に対し、イスラエル・ベングリオン大学を中心とした国際共同研究チームは、十代の子どもが親の忠告や警告をどう受け止めるかを詳しく分析しました。
すると価値観の曖昧な大人ほど、子どもに意見が聞き入れられない傾向が見えてきたのです。
この研究の詳細は、2025年7月に科学雑誌『Journal of Youth and Adolescence』で発表されています。
目次
- 子どもに注意を聞いてくれる大人と聞いてもらえない大人
- 子どもの心を動かす「信頼される大人」とは?
子どもに注意を聞いてくれる大人と聞いてもらえない大人
子どもが思春期になると、親や教師の注意やアドバイスがうまく伝わらなくなる場面が増えてきます。
たとえば、夜遅くまでスマートフォンを使っている子に「もう寝なさい」と言っても、「うるさいな」と反発されたり、無視されたりすることは珍しくありません。
従来の子育てや教育の現場では、「とにかくしっかり注意する」「危ないことは厳しく叱る」といったアプローチが多くとられてきました。
しかし、これだけではうまくいかないことが多いのが現実です。
なぜなら、単に禁止や警告だけを繰り返すと、子どもは「コントロールされている」と感じて逆らいたくなる傾向があるからです。
心理学では、人には自分の行動を自分で選びたいと感じる「自律性」や、誰かと良い関係を築きたいという「関係性」、自分にもできるという「有能感」といった基本的心理欲求(need support)があるため、この感覚を無視するような忠告は、聞き入れづらく反発を誘発するとされています。
特に思春期には「自律性」を求める気持ちが強くなり、大人からの注意や忠告が一方的だったり押し付けがましいと感じると、反発や反抗的な態度につながりやすくなります。
とはいえ、すべての注意や警告が反発をまねくわけではありません。
「危ないからダメ」とだけ言うよりも、「なぜ危ないのか」「どうすれば安全か」を伝えることで、子どもが納得しやすくなる場合もあります。
また、大人が普段からどのようにふるまっているかによっても、子どもが受け取る印象は大きく変わる可能性があります。
学校でも素直に注意を聞いてもらえる先生がいる一方で、いくら注意しても聞いてもらえない嫌われ者の先生もいます。
確かに頭ごなしに叱れば嫌われるのは確かでしょうが、本当に要因はそこだけなのでしょうか? もっと他に大人の特性に関係するものがあるのでしょうか?
そこで研究チームは、イスラエル南部の中高生105名(平均年齢14.9歳、女子57.1%)を対象に、親から受けた注意や警告がどのように感じられ、どんな反応につながったかを詳しく調べました。
この注意を受けた項目については、「門限を破る」「親に隠れて外出する」「飲酒や喫煙」「スマホの使いすぎ」など、思春期の子どもによく見られる“親から注意を受けやすい行動”全般が対象とされています。
調査では、まず子どもたちに「最近、自分がしてしまった最も深刻な問題行動」について思い出してもらい、そのとき親がどんな反応を示したかを具体的に尋ねています。
たとえば、「もうそんなことをしたらスマホを取り上げるよ」といった警告や、「なぜそんなことをしたの?」と気持ちを聞き出す姿勢など、さまざまな対応が集められました。
さらに研究チームは、親が普段から自分の価値観をどの程度行動で示しているかについても、「親は大切なことを口で言うだけでなく、行動でも示している」などの複数の質問項目を用いて、子ども自身の印象を尋ねました。
こうして大人の「価値の体現(inherent value demonstration)」が子どもの反応にどう影響するかが分析されたのです。
このようにして、今回の研究では親の忠告や注意が「反発を招く」条件と「素直に受け止められる」条件が調査されたのです。
子どもの心を動かす「信頼される大人」とは?
調査の結果、子どもたちが親から注意や警告を受けたとき、「ただ叱られた」と感じる場合には、「自分のことを分かってくれない」「自由を奪われた」といった不満が強まり、かえって反抗したくなる傾向が明らかになりました。
たとえば「やめないとスマホを取り上げるよ」といった強い警告だけが続くと、子どもは「押し付けられている」と感じやすくなり、反抗的な反応との関連が示されました。ただし、本研究はアンケート調査(横断研究)であり、因果関係までは断定できません。
一方で、親が子どもの立場や気持ちを理解しようとする「視点取得(perspective taking)」の態度を示した場合、子どもは忠告を聞き入れやすいことが示されました。(視点取得:他者の立場や気持ちを自分のこととして理解しようと心理的態度)
「なぜそんなことをしたの?」「どんな気持ちだったの?」と、まず子どもの話をじっくり聞いてから注意することで、子どもは「分かってもらえた」という安心感を持ちやすくなり、実際に問題行動をやめることに大きく影響したのです。
こうした注意の仕方が重要というのは、理解しやすい理屈です。
それと併せて、今回の調査では、親がふだんから「言っていること」と「やっていること」が一致しているかどうかで、同じ注意でも子どもの受け止め方がまったく異なることが分かりました。
たとえば、「思いやりを大切にしなさい」と言うだけでなく、実際に家族や友人を助けている姿を見せていたり、「約束を守ることが大切」と教えるだけでなく、自分も時間や決まりごとをきちんと守っている。さらに、正直さを大切にしている親なら、間違えたときに素直に謝るといった日々のふるまいが、子どもの心にはしっかりと刻まれていたのです。
こうした「価値の体現(言行一致)」の割合が高い親ほど、警告が子どもの反発を引き起こしにくい傾向が示されました。
この研究から見えてくるのは、「口で言うだけ」や「その場しのぎの叱り」ではなく、注意する大人自身が日々のふるまいや誠実さをきちんと示していなければ子どもの心は動かないという事実です。
注意した大人の“生き方”が自体が、子どもにとっての信頼の土台となっていきます。
また、「なぜ?」を丁寧に聞く姿勢も大切です。
頭ごなしに叱るのではなく、「なぜそれをしたのか?」と対話によって相手の気持を理解する姿勢が、前向きな反応を得るためには重要なのです。
こうしたポイントは、当たり前のようでも、実践できていない大人が多いため子どもの反発を招いていると考えるべきでしょう。
ただ、こうした注意の仕方や親の言行一致の態度が影響するのは、その場で注意を聞き入れるかどうかに対してのみであり、「問題行動の再発」については、直接的な関連は見られませんでした。
飲酒や喫煙、スマホの使いすぎや門限など、反抗せずに素直に注意を聞き入れてもらえたとしても、子ども自身がやめることに納得がいかない問題は、誰がどういう言い方をしても、再発を防ぐことはできていませんでした。
注意は単にその場の問題に対して「危ないからダメ」などと述べるのではなく、なぜ危険なのか、その理由や代わりの行動を一緒に考えるという姿勢が、その後の変化に重要なのでしょう。
こうした工夫が、子どもとの信頼関係を深め、反発を減らすコツだと考えられます。
なお今回の研究はイスラエル南部の中高生を対象とした相関・横断調査であり、子ども自身の自己報告が中心となっています。そのため文化や家庭環境が異なる場合や、第三者の視点も含めた研究が今後は期待されます。
この研究は、「子どもに反発されにくい大人」とは、普段から自分の価値観を明確に示して貫いている人であり、子どもの話をしっかり聴ける姿勢のある人だということを示しています。
信頼は一朝一夕で生まれるものではありませんが、日々のふるまいの積み重ねが、子どもの心に届く言葉をつくっていくのです。
逆に言えば、子どもにすぐ反発される人は、自分が普段から行動と言動が一致しておらず、価値観が曖昧になっているのだと自省すべきなのかもしれません。
元論文
Parents Value Demonstration as a Determinant of Youth Experiences and Responses to Parents’ Warnings Following the Onset of Risk Behavior
https://doi.org/10.1007/s10964-025-02196-7
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部