太陽系の端に奇妙な螺旋構造が存在するかもしれない

シミュレーション

太陽系の果てといえば、私たちはしばしば「真っ暗で何もない空間」を思い浮かべます。

しかし、チェコのカレル大学(CU)で行われた研究によって、実はそこに「らせん状の構造」が広がっているかもしれないという最新シミュレーション結果が示唆されました。

もし本当に太陽系の端が“渦を巻く”ように見えているのだとすれば、私たちの太陽系に対するイメージや形成史は大きく塗り替えられるかもしれません。果たして、その正体とは一体何なのでしょうか?

研究内容の詳細は『arXiv』にて発表されました。

目次

  • オールトの雲は単なる球形ではない可能性がある
  • 太陽系の端に未知の螺旋構造
  • 螺旋は本当に存在する?

オールトの雲は単なる球形ではない可能性がある

オールトの雲は単なる球形ではない可能性がある
オールトの雲は単なる球形ではない可能性がある / Credit:理科年表

オールトの雲とはもともと長周期彗星(LPC)の起源を説明するために提唱された領域で、太陽から数千〜十万天文単位以上という、とてつもない遠方まで広がっていると考えられています。

とはいえ、実際に天体を直接観測するのはきわめて難しく、特に“内側オールト雲”と呼ばれる1,000〜10,000天文単位付近の詳細は長らく謎のベールに包まれていました。

ところが最近、「この内側オールト雲は長期的に見るとただの球殻や円盤ではなく、何らかの秩序だった形を持っているのではないか」という見方が浮上しています。

どうしてそんな形が生まれるのか、そしてそれがいかなる特徴を持つのかは、多くの研究者にとって大きな興味の的でした。

そこで今回、研究チームは数十億年という長い時間スケールを考慮した大規模数値シミュレーションを行い、さらに理論モデルを組み合わせることで、「太陽系の端に存在するとされる天体群が、実際にはどのような形を作り上げているのか」を探ることにしたのです。

太陽系の端に未知の螺旋構造

太陽系の端に未知の螺旋構造が存在するかもしれない
太陽系の端に未知の螺旋構造が存在するかもしれない / Credit:David Nesvorny et al . arXiv (2025)

では、研究者たちはどのようにしてこの螺旋構造を探り当てたのでしょうか。

今回の手法は、海王星や天王星、土星などが小天体を“蹴飛ばす”ように散乱させる「重力散乱効果」と、銀河系全体の重力バランスが及ぼすわずかな歪みである「銀河潮汐」、さらに近くを通過する恒星の重力影響をすべて考慮し、太陽系誕生から現在に至るまでの数十億年をかけて軌道分布がどう変化していくかを3次元的に再現するというものです。

スーパーコンピューター級の大規模シミュレーションによって、天体の軌道がどの方向に向き、どれほど傾き、どの角度で太陽に最接近するのかといった要素が綿密に計算されました。

解析してみると、内側オールト雲に属するはずの天体たちが「渦を巻くような配列」を示す状態が現れたのです。

具体的には、ディスクがねじれたような形で2本のアームが広がり、全体として約15,000天文単位にわたる螺旋状のパターンが再現されました。

これはあくまでシミュレーション上の結果であって、実際に観測されたわけではありませんが、シミュレーション条件を変えてもほぼ同じように現れ、決して一過性の偶然ではない可能性が高いそうです。

さらに、いったんこの軌道に入ると数十億年という非常に長い期間にわたって安定して存在し得ることが示され、「実際に太陽系の端がこんな形で“凍りついて”いるかもしれない」と考える余地が生まれました。

革新的なのは、これまで球殻あるいは平らな円盤として漠然ととらえられていたオールト雲が、実は秩序だった三次元形状を持ちうるという点が明確に示されたことです。

弱い力の積み重ねが長期間にわたり蓄積されると、大規模で印象的な“渦模様”を形づくり得るというシナリオは、太陽系進化を見直すうえで大きなインパクトを与えています。

螺旋は本当に存在する?

螺旋は本当に存在する?
螺旋は本当に存在する? / Credit:Canva

では、こうしたシミュレーション結果をどう解釈すればよいのでしょうか。

まず、銀河潮汐というわずかな重力の歪みが数億年から数十億年スケールで天体分布に影響を与え、渦を巻くような構造を形成し得るという点は、太陽系の“端”に対する私たちの固定観念を覆す可能性があります。

惑星系が生まれた直後に散乱された天体たちの“その後”が、予想以上に秩序をもって再配置されているからです。

さらに、もしこの螺旋を直接観測できる手段が整えば、それは太陽系初期の歴史を立体的に再構築する手掛かりになるでしょう。

塵(ちり)や微小粒子の放射を赤外線・サブミリ波などで詳細に測定するという方法も検討されますが、太陽系内には黄道面由来のダストや宇宙マイクロ波背景放射(CMB)などが混在し、観測データを分離するのは容易ではありません。

そのため、極めて高感度の望遠鏡や新しい観測手法の開発が必要とされます。

もし今後、技術がさらに進歩してこの領域をより高精度で探れるようになれば、「果たして本当に大規模な螺旋が存在するのか、それとも別の形状が見えるのか」が、将来的に明らかになるかもしれません。

また、同様の“渦巻き”構造は太陽系だけでなく、ほかの恒星系でも起こり得るかもしれないという見方もあり、いわゆる“エクソ・オールト雲”の存在とその形態を探る研究にも広がりをもたらしそうです。

こうした視点を踏まえると、今回の研究は“惑星系の外縁部はどのように形成され、進化していくのか”という根源的な問いに対して、新たな理論的根拠を提供したと言えるでしょう。

銀河系からの潮汐力や恒星遭遇が長期的に作用し、想像以上に複雑でダイナミックな変化をもたらしている可能性が、改めて強く示唆されたのです。

もしこの謎めいた内側オールト雲を直接観測で確認できれば、太陽系の姿に対する私たちの理解は、さらに大きく進展するに違いありません。

全ての画像を見る

元論文

A Spiral Structure in the Inner Oort Cloud
https://doi.org/10.48550/arXiv.2502.11252

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

タイトルとURLをコピーしました