「最近、いびきがひどい」「無呼吸症候群みたいで心配」と感じていませんか?
もしかすると、あなたの周りの空気の状態が、体に影響を与えている可能性があります。
イタリアのミラノ・ビコッカ大学(UNIMIB)の研究チームは、ヨーロッパ各国の大規模データをもとに、「空気中に漂うとても小さな粒子(PM10:車の排ガスや工場から出る粉じんなど)」と、睡眠時無呼吸症候群(OSA)の悪化に関連があることを示しました。
この研究成果は、2025年9月27日から10月1日に、オランダ・アムステルダム開催された「欧州呼吸器学会(ERS)の年次学術集会」で発表され、多くの医療関係者から注目を集めました。
目次
- 睡眠時無呼吸症候群を悪化させる要因は?
- 空気の質の低下により「睡眠時無呼吸症候群も悪化する」と判明
睡眠時無呼吸症候群を悪化させる要因は?
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)とは、寝ている間に繰り返し呼吸が止まったり、弱くなったりする病気です。
いびきが大きくなったり、夜中に何度も目が覚めたり、朝すっきり起きられなかったりすることが特徴です。
昼間に強い眠気におそわれたり、集中力が続かなくなったりして悩んでいる人は少なくありません。
そしてこの病気は、日本でも成人の約3~7%がかかっていると考えられています。
しかも、ただ眠りが浅いだけでなく、高血圧や心臓病、脳卒中、2型糖尿病、うつ病、認知症など、多くの深刻な健康リスクとも関係しています。
これまでOSAの主なリスク要因は、「年齢」「肥満」「喫煙」「飲酒」などの生活習慣や体質が中心だと、これまで考えられてきました。
しかし最近、「空気の汚れ」、特に車の排ガスや工場から出るとても小さな粒子(PM10)が、OSAの発症や重症化に関わっているのでは?と注目されています。
PM10は、10マイクロメートル以下の粒子で、人間の髪の毛よりはるかに小さく、肺の奥深くまで入りやすいのが特徴です。
そこで今回、ミラノ・ビコッカ大学の研究チームは、ヨーロッパ14カ国・25都市、19,325人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)患者を対象に大規模な調査を行いました。
参加者はすべてOSAと診断された人たちで、年齢、性別、体重、喫煙の有無など細かな情報が記録されています。
さらに、睡眠中にどれくらい呼吸が止まったり弱まったりするか(無呼吸低呼吸指数:AHI)や、血液中の酸素がどれだけ下がったかなどのデータも調べられました。
また、患者が住む地域の大気中のPM10濃度は、「Copernicus Atmosphere Monitoring Service」というヨーロッパ全域をカバーする観測データから、長期間の平均値を使って調べられました。
研究チームは、これらの情報を組み合わせて、「PM10の多い地域」と「OSAの重症度」が本当に関係しているのかを、年齢や肥満、喫煙などの他の要因をきちんと調整したうえで詳しく分析しました。
空気の質の低下により「睡眠時無呼吸症候群も悪化する」と判明
分析の結果、PM10濃度が1単位増えるごとに、OSA患者の1時間あたりの呼吸が止まったり弱まったりする回数(AHI)が平均0.41回増えることが分かりました。
実際、PM10が少ない地域(1立方メートルあたり約16マイクログラム)に住む人ではOSAが軽症である傾向が強く、PM10が多い地域(約19マイクログラム)ではOSAが重症化しやすい傾向がありました。
この増加は、個人レベルで見ると小さな違いに思えるかもしれません。
しかし都市全体など多くの人に広がることを考えると、重症患者が増えて医療の負担も大きくなるため、決して小さな問題ではありません。
ちなみに、この「空気の汚れとOSAの重症度」の関係は、ヨーロッパ中どこでも同じように見られたわけではありませんでした。
パリ(フランス)、リスボン(ポルトガル)、アテネ(ギリシャ)などの都市では関係が強く出ましたが、他の都市では影響が弱かったり見られなかったりするケースもあったのです。
研究チームは、「この違いには、気候や空気の流れ、汚染の種類や量、医療機関でのOSAの診断体制の違いなど、さまざまな要素が影響している」と考えています。
しかし重要なのは、年齢や肥満、喫煙といった、これまで知られているリスクをすべて調整しても「空気中のPM10」という大気汚染が、OSAの重症度に独立して関係していた点です。
この知見は、私たちの健康や医療とも直接関係があります。
一方で、今回の研究では「大気汚染がOSAを悪化させる」メカニズムは分かっていません。
また、患者の家の中の空気や、日々の生活スタイル、遺伝など細かな違いは調べきれていない部分もあります。
今後は、「なぜ都市によって結果が違うのか」「どんな人が空気の汚れの影響を受けやすいのか」「大気汚染を減らすことで本当にOSAが良くなるのか」といった疑問に答えるため、さらなる研究が求められます。
健康には生活習慣だけでなく、いつも吸っている空気が大きく関係しています。
もし、いびきや睡眠時無呼吸症候群で悩んでいるなら、空気の質の改善を考慮しても良いかもしれません。
参考文献
Air quality plays a bigger role in sleep apnea than previously thought
https://newatlas.com/disease/sleep-apnea-air-pollution/
Sleep apnoea could be worse in areas with lots of air pollution
https://www.scimex.org/newsfeed/sleep-apnoea-could-be-worse-in-areas-with-lots-of-air-pollution
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部