多くの若者は友人に満足しているが、孤独を感じている

世間では「現代の若者は友人が少ないから孤独を感じるのだ」という意見が見られます。

SNSの普及で関係が表面的になり、“本当のつながり”が失われているのではないか、という語られ方も一般的です。

しかし、アメリカのカンザス大学(The University of Kansas)が行った新しい研究は、こうしたイメージとは少し違う現実を示しました。

研究チームは、若者がじつは豊かな友人関係をもち、多くがその関係に満足しているにもかかわらず、強い孤独感を抱きやすいという、矛盾した状態にあることを明らかにしたのです。

この研究は、2025年11月12日付の『PLOS ONE』誌で発表されています。

目次

  • 若者が孤独だと感じる理由は?
  • なぜ若者は「つながっているのに孤独」だった

若者が孤独だと感じる理由は?

これまでの議論では、若者の孤独は「友人が少ない」「つながりが薄い」といったイメージとセットで語られがちでした。

しかし、そうした語りは印象に基づくものであり、孤独(つらさ)とつながりの豊かさ(良さ)を同時に測ったデータは、実はそれほど多くありませんでした。

そこで研究チームは、「人は本当に友人が少ないから孤独なのか」「もしかすると、友人の数や質とは別の要因が孤独を生み出しているのではないか」という疑問から研究を設計しました。

調査は2022〜2023年にかけて実施され、合計4812人(18〜95歳)のアメリカ人が参加しました。

若年層の様子をより詳しく見るため、全国調査に加えて大学生のサンプルも含めています。

参加者には、「自分がどれくらい孤独だと感じるか」「周りから切り離されているように感じることがあるか」「他人とのつながりや仲間意識をどの程度感じているか」「困ったときに頼れる人がどれくらいいると思うか」「実際に友人と呼べる人が何人いるか」といった点を尋ねました。

孤独感には、よく用いられるUCLA孤独尺度の短縮版を使用し、「社会から切り離されている感覚」も別に測定しました。

つながり感、仲間意識などは、それぞれ複数の質問項目で評価されています。

友人の数については、「友人だと思う人の名前やイニシャルを書いてください」と具体的に挙げてもらう方法をとりました。

さらに重要なのは、過去1年の生活の変化です。

研究チームは、「進学」「卒業」「就職」「退職」「恋人ができた」「別れた」「引っ越し」「結婚」「子供が生まれた」などのライフイベントの有無を尋ねました。

これに加えて、「この1年で連絡を取らなくなった友人がいるか」「日常的なストレスをどれくらい感じているか」も測定し、生活の不安定さと人間関係の状態の関係を詳しく調べました。

最後に、孤独・断絶感・つながり・仲間意識・サポート・友人の数という6つの指標をもとに、参加者をいくつかのグループに分ける「クラスター分析」を行いました。

これにより、「単に孤独か孤独でないか」という単純な区分ではなく、人々がどのような組み合わせで“つながり”と“孤独”を経験しているのかが見えてきます。

なぜ若者は「つながっているのに孤独」だった

分析の結果、まず明らかになったのは、孤独感と「周囲から切り離されている」という感覚は、年齢が高くなるほど直線的に低くなるということでした。

一般的なイメージとは異なり、今回の調査では、年長の参加者ほど孤独を感じにくいという結果が出たのです。

一方で、人とのつながり感や友人の数、仲間意識は少し違う形をしていました。

これらは、若い時期と高齢期で高く、その中間の中年期でいったん低くなるというU字型のカーブを描いていたのです。

つまり、若者は友人も多く、仲間意識も強い一方で、孤独感も同時に強くなりやすいという、やや矛盾した状態にあります。

クラスタ分析の結果も、この「矛盾」を裏づけました。

参加者の約61%は「アンビバレント型」と呼ばれるグループに分類されました。

ここに属する人たちは、友人の数やつながり感、サポートの点数が高く、数字だけ見ると非常に恵まれた人間関係を持っているように見えます。

しかし、孤独感や断絶感は中程度に存在しており、「満たされているけれど、どこか不安」という複雑な状態にあります。

このアンビバレント型には、若く、教育水準が高い人、とくに大学教育を受けた女性が多く含まれていました。

また、過去1年に進学や卒業、転職、引っ越し、新しい恋愛や別れなど、多くの変化を経験している人が多いのも特徴です。

では、どうして若者たちはこのような「矛盾した孤独感」を抱いているのでしょうか。

研究チームは、「ontological security」という概念が関係していると考えています。

これは、生活や人間関係のパターンがある程度予測でき、「ここが自分の居場所だ」と感じられる安定感のことです。

日々の暮らしや自分の役割が定まっていると、人は安心して他人との関係に身を預けられます。

逆に、生活の基盤が揺らいでいると、友人に囲まれていても、心のどこかで落ち着かず、孤独を感じやすくなります。

若者は、まさにこの「生活の基盤」が大きく動く時期にいます。

進学や卒業、就職や転職、引っ越し、新しい恋愛や別れなど、良いことも悪いことも含めて、多くの変化が短いスパンで押し寄せます。

そのたびに生活のリズムや付き合う人が変わり、「この先ずっと一緒にいられる仲間なのか」「この場所にどれくらい長くいるのか」が見えにくくなります。

その結果、「友人に恵まれているのに、どこか不安で寂しい」という、複雑な気持ちが同居しやすくなるのです。

この研究は、若者の孤独を「友人が少ないから」と単純に説明するのではなく、生活の不安定さや移行期の揺らぎという、より深い要因が関係している可能性を示しました。

安定した居場所や予測可能な日常が確保されれば、若者の孤独感は大きく和らぐ可能性があります。

今後は、若者が変化の多い時期でも心の基盤を保てるような支援や環境づくりが重要になるでしょう。

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参考文献

Young adults say they’re happy with their friendships. So why do so many still feel disconnected?
https://news.ku.edu/news/article/young-adults-say-theyre-happy-with-their-friendships-so-why-do-so-many-still-feel-disconnected

元論文

Lonely and connected in emerging adulthood: The ambivalence of sociality in a time of transitions
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0334787

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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