地球最古の湖「バイカル湖」に棲む「わが子を喰らう魚」

プランクトン

世界最古かつ最深の湖「バイカル湖」

ロシアの広大なシベリアに横たわるこの湖は、2500万年もの長い年月をかけて独自の生態系を育んできました。

その湖底には、地球上の淡水の約2割が蓄えられ、「ロシアのガラパゴス」とも呼ばれるほど多様な生命が息づいています。

しかし、そんなバイカル湖の深淵には、なんと「わが子を喰らう魚」が棲んでいるのです。

その正体は“バイカルオイルフィッシュ”

透明な体を持ち、驚くべき生態を示すこの魚の不思議な生き様に迫ります。

目次

  • 世界最古の湖「バイカル湖」とは
  • バイカル湖に棲む「わが子を喰らう魚」

世界最古の湖「バイカル湖」とは

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凍ったバイカル湖/ Credit: canva

バイカル湖は、ロシア南東部のシベリア、ブリヤート共和国とイルクーツク州にまたがる巨大な三日月型の湖です。

その歴史は2500万年にもさかのぼり、現在も拡大を続けるバイカル地溝帯の地殻変動によって生まれました。

湖の南北の長さは約636km、最大幅は約79km。

最大水深は1,642mとされ、平均でも700m以上。

淡水湖として世界一の深さを誇ります。

この驚異的な深さにより、バイカル湖には地球上の凍っていない淡水の約17〜20%が蓄えられています。

つまり、地球上の淡水の5分の1がこの湖に存在するのです。

バイカル湖は「ロシアのガラパゴス」とも呼ばれています。

その理由は、湖に棲む生物のうち約70〜80%がこの湖にしかいない固有種だからです。

バイカル湖とその周辺の生物多様性は、世界中の他の湖と比べても突出しており、確認されている生物種は1,300種以上。

さらに、そのうち1000種以上がバイカル湖固有の生き物です。

湖には独特な生態系が広がっています。

バイカルアザラシという淡水に適応した唯一のアザラシを筆頭に、ユニークな進化を遂げた生物たちが存在します。

バイカル湖の水は非常に透明度が高く、10〜40メートル先まで見通せると言われています。

冬になると湖は氷で覆われますが、その氷は澄んでいて厚さも70〜115cmほど。

一方で、近年は工業汚染や温暖化などの影響が指摘されており、環境保全の重要性も高まっています。

バイカル湖に棲む「わが子を喰らう魚」

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バイカルオイルフィッシュの標本/ Credit: en.wikipedia

そんなバイカル湖の暗い深淵に棲むのが「バイカルオイルフィッシュ(ゴロミャンカ)」と呼ばれる魚です。

バイカルオイルフィッシュはComephorus属に分類され、バイカル湖固有の魚で、2種(C. baikalensisとC. dybowskii)が知られています。

この魚の最大の特徴は、体がほぼ透明でウロコがなく、死ぬとくすんだ色に変わること。

大きいもので約21cm、小型種で約16cmに成長します。

また、体重の3〜4割が脂肪(油分)で占められているという特殊な構造を持ち、英語名の“オイルフィッシュ”もここに由来します。

バイカルオイルフィッシュは、湖の浅い表層から最深部まで、あらゆる水深に生息しています。

とくに深い場所を好み、水圧の変化に強く、浮き袋(泳ぐための空気袋)を持たないため、深海魚のような適応を見せます。

目は色の識別ができず、光に敏感な構造で、暗い深淵でも獲物を見逃しません。

食性も特徴的です。

主なエサはカイアシ類(動物プランクトン)、ヨコエビ類、他の魚の稚魚など。

驚くべきことに、バイカルオイルフィッシュは自分の子ども(稚魚)まで食べてしまう“共食い”を日常的に行います。

これは栄養を効率的に得るための進化的戦略と考えられています。

また、バイカルオイルフィッシュは卵を産むのではなく、雌の体内で子どもを育て、2000匹以上の稚魚を一度に産みます。

多くの母魚は出産後に命を落とすことも報告されており、その一生は、まさに「自分の命をつないで終わる」ダイナミックなものです。

この魚はバイカル湖の生態系の中で重要な役割を果たしています。

バイカル湖で最も個体数が多い魚で、その総バイオマスは15万トン以上とも推定されます。

バイカルアザラシの主食でもあり、湖の食物連鎖を支える存在です。

なお、バイカルオイルフィッシュは体内に多くの油分を含むため、昔のシベリア先住民は湖岸に打ち上げられた死骸から油を採り、燃料や薬用に利用していたという逸話も残っています。

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参考文献

Earth’s Oldest And Deepest Lake Hides A “Dark Secret”: Cannibalistic Fish
https://www.iflscience.com/earths-oldest-and-deepest-lake-hides-a-dark-secret-cannibalistic-fish-80972

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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