宇宙誕生からわずか5億年後、私たちの観測の限界ぎりぎりに「史上最古のブラックホール」が発見されたようです。
米テキサス大学オースティン校(UT Austin)はこのほど、約133億光年の先にある銀河「CAPERS-LRD-z9」の中心に、ブラックホールの存在を確認したと報告しました。
これは現時点で最も遠く(=最も古い)と結論されているブラックホールの一つです。
この発見は、初期宇宙でブラックホールがどれほど速く成長したのかとの謎を解き明かすヒントを与えてくれるでしょう。
研究の詳細は2025年8月6日付で科学雑誌『The Astrophysical Journal』に掲載されています。
目次
- 宇宙誕生から5億年後にある「赤い点」の正体とは?
- 「宇宙の怪物」はなぜこんなに早く生まれたのか?
宇宙誕生から5億年後にある「赤い点」の正体とは?
2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、人類史上もっとも遠い宇宙の観測を可能にしました。
今回の発見の舞台は、JWSTが観測した「CAPERS-LRD-z9」と呼ばれる、ごく小さくて赤い点――通称「リトル・レッド・ドット(Little Red Dot)」と呼ばれる謎の銀河です。
このCAPERS-LRD-z9が存在するのは、今から約133億年前、ビッグバンのわずか5億年後の宇宙です。
この時代は、宇宙が現在のわずか3%しか経過していなかった時代にあたります。
私たちの銀河系(天の川銀河)はまだ影も形もなく、星々もやっと生まれ始めた頃です。
「リトル・レッド・ドット」という不思議な天体は、JWSTが観測するまでその存在すら知られていませんでした。
ハッブル宇宙望遠鏡で見える普通の銀河とは全く違う、赤くて小さい、でも驚くほど明るい点が宇宙の最果てに散らばっていたのです。
この“赤い点”がなぜこれほど明るいのか、当初は天文学者たちも首をかしげました。
もし星の光だけでこれほど明るいなら、途方もない数の星が集まっているはず――しかし、宇宙誕生から5億年後の時代にそんなにたくさんの星が生まれているとは考えにくいのです。
では、一体この“赤い点”の正体は何なのか?
その謎を解く鍵となったのが「ブラックホール」でした。
「宇宙の怪物」はなぜこんなに早く生まれたのか?
観測の結果、銀河CAPERS-LRD-z9の中心には、太陽の3億倍もの重さをもつ超巨大ブラックホールが隠れていました。
このブラックホールは、銀河に存在するすべての星の質量の約半分に匹敵するほどの大きさです。
そして、そのブラックホールを取り巻くガスや塵が、まるで渦を巻くように落ち込み、膨大な光とエネルギーを生み出していました。
ブラックホール自体は光を放ちませんが、まわりの物質が引き込まれ加熱されることで、激しい光を放ちます。
その光は遠ざかるガスの影響で赤く引き伸ばされ、近づくガスの影響で青く圧縮される――これが分光観測によって「ブラックホールが存在する証拠」として捉えられたのです。
しかも、このブラックホールを取り囲む“分厚いガス雲”が、銀河全体を赤く染め上げていることも明らかになりました。
この現象は他の遠方銀河でも確認されており、CAPERS-LRD-z9も同じような特徴を持つことが分かっています。
しかし、ここでまた大きな謎が浮かび上がります。
なぜ宇宙の歴史が始まったばかりの時代に、これほど巨大なブラックホールがすでに存在できたのでしょうか?
私たちが知る多くのブラックホールは、時間をかけてゆっくりと成長していきます。
星が寿命を終えて爆発し、その残骸が少しずつ質量を増やしながらブラックホールになる――それが一般的なイメージです。
ところが、CAPERS-LRD-z9のブラックホールは、たった数億年で太陽の3億倍に成長していたのです。
この事実は「初期宇宙のブラックホールは、予想よりはるかに速く成長した」もしくは「最初から非常に大きな質量を持って生まれた」という新たな可能性を示しています。
今後、JWSTによるさらなる観測が進めば、ブラックホール誕生のシナリオが大きく塗り替えられるかもしれません。
参考文献
Meet the Universe’s Earliest Confirmed Black Hole: A Monster at the Dawn of Time
https://news.utexas.edu/2025/07/26/meet-the-universes-earliest-confirmed-black-hole-a-monster-at-the-dawn-of-time/
元論文
CAPERS-LRD-z9: A Gas-enshrouded Little Red Dot Hosting a Broad-line Active Galactic Nucleus at z = 9.288
https://doi.org/10.3847/2041-8213/ade789
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部