ニュージーランドの森で、雪のように白い羽毛を持つキーウィが真昼間に姿を現し、巣へと駆け戻る様子が撮影されました。
通常は夜行性で人前に姿を見せること自体が珍しいキーウィですが、さらに真っ白な羽毛を持つ個体となれば、その希少性は「伝説級」と言っても過言ではありません。
映像に映っていたのは「マプナ(Mapuna)」と呼ばれるオスのキーウィ。
茶色い羽を持つノースアイランド・ブラウンキーウィの一種ですが、遺伝的な変異により白く輝く姿をしています。
目次
- 白い羽毛を持つキーウィの正体
- 消えゆく野生キーウィを守るために
白い羽毛を持つキーウィの正体
ニュージーランド北島に生息するノースアイランド・ブラウンキーウィ(学名:Apteryx mantelli)は、現存する5種のキーウィの中では最も個体数が多いとされます。
それでも個体数は約3万5000羽程度に限られており、国際自然保護連合(IUCN)から「絶滅危惧種(Vulnerable)」に指定されています。
通常、この種の羽毛は赤みがかった茶色で、森の中に紛れる保護色として役立っています。
しかし、今回撮影された「マプナ」は、全身が雪のように白く輝いていました。
こちらのURLから実際の映像がご覧いただけます。
https://www.youtube.com/shorts/Ai-7jc0n558
この白さはアルビノではなく「リューシズム」と呼ばれる遺伝的な変異によるものです。
リューシズムでは、メラニン色素が部分的に欠けるため、皮膚や羽毛が白っぽくなります。
アルビノと異なり、目の色は通常と変わらないため、視覚面での不利は少ないと考えられています(アルビノは目の色素も生成できないため、目が赤色っぽくなる)。
実は、マプナには「マヌクラ」という名前の姉のキーウィがおり、彼女もまた同じく白い羽毛を持っていました。
マヌクラは2011年に世界で初めて飼育下で誕生した白いキーウィとして注目を集め、ニュージーランドで国民的な人気者となりました。
しかし残念ながら2020年に亡くなりましたが、その存在は今も多くの人々に記憶されています。
マプナが再び白い羽毛を持つ個体として成長したことは、マヌクラの“伝説”を受け継いだかのように映り、今回の映像が特別視される理由のひとつでもあります。
消えゆく野生キーウィを守るために
ノースアイランド・ブラウンキーウィは夜行性で飛べないため、外来の捕食者に対して非常に弱い存在です。
ニュージーランドに持ち込まれたフェレットやイヌ、ネコなどが最大の脅威となっており、とくに孵化直後の小さな個体は捕食されやすく、管理区域外では94%もの雛が成鳥になる前に命を落としてしまいます。
こうした現状を受けて、ニュージーランドでは「オペレーション・ネスト・エッグ」という保護プログラムが展開されています。
これは野生の巣から卵を回収し、安全な施設で孵化・育成させてから野生へ戻す取り組みで、捕食者から雛を守るための重要な施策です。
プカハ国立野生動物センターでは、この10年間で131羽のキーウィを野生に返すことに成功しました。
また、近年では捕食者の少ない島や、外来動物を駆除した区域に再導入する試みも進んでいます。
こうした取り組みにより、一部地域ではキーウィの個体数が回復しつつあり、希望の兆しも見え始めています。
今回撮影された白いマプナは、単なる珍しい個体であるだけでなく、キーウィ保護活動の象徴的な存在とも言えるでしょう。
もしもこの“白い伝説”が未来の森で子孫を残していくことができれば、ニュージーランドの自然保護にとって大きな励みとなるはずです。
参考文献
Rare White Kiwi Seen Scampering Back To Its Burrow In Broad Daylight In New Zealand
https://www.iflscience.com/rare-white-kiwi-seen-scampering-back-to-its-burrow-in-broad-daylight-in-new-zealand-80562
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部