人間の言語能力が開花した年代をついに特定⁈

ホモ・サピエンス

人間の「言語」は、私たちを他の動物と区別する最もユニークな能力のひとつです。

しかし言語がいつ、どのように誕生したのかは長年の謎でした。

そんな中、米マサチューセッツ工科大学(MIT)は今回、人類の言語能力が少なくとも13万5000年前には開花していた可能性が高いとする研究結果を発表しました。

さらにその約3万5000年後には、言語が他者とのコミュニケーションツールとして普通に使用されていたと考えています。

一体どのような研究手法で、そうした数字を導き出したのでしょうか?

研究の詳細は2025年3月11日付で科学雑誌『Frontiers in Psychology』に掲載されています。

目次

  • 人間に特有の「言語」はいつ誕生したのか?
  • 人間の言語は13万5000年前には誕生していた?

人間に特有の「言語」はいつ誕生したのか?

私たちは日常的に言葉を使っていますが、人類が最初に言語を話し始めた瞬間を想像したことはあるでしょうか?

「こんにちは」「ありがとう」「助けて」

最初の言葉がどんな発音で、何を意味したのかはわかりません。

これまで、言語の起源については多くの議論がありました。

現生人類(ホモ・サピエンス)が誕生したのは約20〜30万年前のこと。

現生人類に特有の言語能力が進化したのはそれ以降のことになりますが、いつどのように生まれたのかについては、いまだ決定的な証拠が見つかっていません。

言語の起源は化石のように物として残ることはないので、調査することが極めて難しいのです。

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Credit: canva

こうした背景の中、研究チームは少し発想を変えて、言語が誕生した時期を探ることにしました。

「その論理は非常にシンプルだ」と研究者は話します。

彼らによると「地球上のあらゆる人口集団は人間に特有の言語を持っており、すべての言語は互いに何かしらの関連性を持っている」といいます。

要は、人間の言語にのみ共通する「種」のようなものですね。

それは例えば、霊長類やその他の動物が発する特定の鳴き声とは違い、さまざまな「語彙」と「文法」を組み合わせて、無限の表現を生み出している点などです。

「人間の言語は質的に他の動物の発話と異なり、ありとあらゆる単語の組み合わせによって、非常に複雑なシステムを作り上げている」と研究者は指摘します。

こうした人間に特有の言語能力の基盤は、最初期の現生人類たちが世界各地に広がる以前に共有していたものと研究者は予想します。

そして人類が世界中に拡散する中で、その言語能力の基盤を種として、あらゆる種類の言語を独自に進化させていったと考えられるのです。

ここから研究者らは「現生人類が最初に世界各地に拡散し、遺伝的に分岐し始めた時期を特定できれば、少なくともその時期までには人間に特有の言語能力が誕生していたことがわかる」と説明します。

そこで研究チームは今回、大規模な遺伝子データから、現生人類が最初に分岐し始めた時期を調査しました。

人間の言語は13万5000年前には誕生していた?

チームは過去18年間に発表された15の遺伝学的研究を統合し、現生人類の地理的分岐を詳細に解析しました。

この分析には、以下の3つの異なる遺伝的データが使用されています。

1:父系を通じて継承されるY染色体の解析研究(3件)

2:母系を通じて継承されるミトコンドリアDNAの解析研究(3件)

3:全ゲノムの解析研究(9件)

そしてこれらのデータを統合した結果、最初の大規模な人類の地理的分岐は約13万5000年前に発生していたことがわかったのです。

この時期を境に、現生人類の各集団が色々な地域に拡散し始めたと考えられますが、それと同時に、少なくともその時点ですでに人間に特有の言語能力の基盤が生まれていたのだと予想できます。

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さらにチームは、言語がホモ・サピエンスの社会的行動にどのような影響を与えたのかにも注目。

考古学的証拠によると、約10万年前には異なる人間集団の間で、言語を使った象徴的な活動が広く見られるようになりました。

例えば、物への記号や図形の刻印、装飾目的で赤色顔料(オーカー)を使用する技術などの証拠があります。

これらの行動は現生人類が抽象的な思考を始めたことを示しており、それは言語の使用、それも特に他者とのコミュニケーションツールとしての言語の使用が普及し始めていたことを示唆するものです。

以上の結果から、人間に特有の言語能力の基盤は少なくとも約13万5000年前には誕生しており、そこから約3万5000年後には、社会的なコミュニケーションツールとして言語が一般的に使用されていたことが推察されました。

ただ今回の結果はあくまでも、人類の最初の地理的分岐から言語の起源を推定したものであり、正確な結果とは言い切れません。

人間の言語の起源にはまだ多くの謎が残されていますが、今回のように遺伝学的データも活用することで、言語能力の出現時期をより精確に推定できるようになるでしょう。

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参考文献

When did human language emerge?
https://news.mit.edu/2025/when-did-human-language-emerge-0314

Human Language Emerged 135,000 Years Ago as a Private System Within Thought, According to a Genetic Study
https://www.labrujulaverde.com/en/2025/03/human-language-emerged-135000-years-ago-as-a-private-system-within-thought-according-to-a-genetic-study/

元論文

Linguistic capacity was present in the Homo sapiens population 135 thousand years ago
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1503900

ライター

千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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