人間の老化は50歳前後から急激に加速する

健康

年を取ると若い頃のようにはいかない、と言いつつも実際は「階段もそこまで辛くないし、ラーメンもぜんぜん食べられるし、まだ全然行けるな」と感じている40代は、案外多いかもしれません。

確かに歳を重ねれば、いろいろ体にガタは出てくるものの、ほとんどの人は明確な境がなくゆっくりと進行していく印象があります。

しかし、それはある年齢までの話かもしれません。

中国科学院(Chinese Academy of Sciences)の研究チームが発表した新たな研究によると、人間の臓器や血液に含まれるタンパク質を徹底的に解析した結果、「人間の老化は50歳前後で加速度的に進行し始めている」というのです。

よく「40歳を過ぎるとガクンと来るよ」など、ある年齢を節目に老化の影響が強調されることはありますが、医学的にはこれは50歳前後が特に重要な節目になるようです。

この研究の詳細は、2025年7月付けで科学雑誌『Cell』に掲載されています。

目次

  • 老化は本当に「ゆっくり進む」ものなのか?
  • 老化は50歳前後で加速する!内臓に起こる変化

老化は本当に「ゆっくり進む」ものなのか?

Credit:canva

これまで老化といえば、少しずつ、年を重ねるにつれてじわじわ進んでいくものと考えられてきました。肌のしわが増えたり、白髪が目立ったり、回復力が落ちたりと、変化はあるけれど、いつどこから老いが本格的に始まるのかを、医学的に明確に捉えるのは難しいとされてきました。

一方、近年の研究では、老化の進み方が実は一様ではなく、ある年齢を境に“加速する”可能性があるという見方が注目されています。つまり、老化は「緩やかな坂道」ではなく、「あるところで傾斜が急になる坂」のような性質を持っている、ということです。

この「転換点(inflection point)」の存在を裏付ける研究は、実はこれまでもいくつか報告されてきました。

たとえば、アメリカのスタンフォード大学が行った大規模な調査では、約4000人の血液を解析したところ、34歳、60歳、78歳のタイミングで体内のタンパク質が大きく変化することがわかりました。また、別の研究では、44歳ごろと60歳ごろに代謝や免疫に関わる物質が大きく変わるとされており、老化にはいくつかの“加速ポイント”があると考えられています。

ただし、こうした研究で使われたのは、血液や腸内環境など、体の外側から取り出せるサンプルでした。つまり、どの臓器がどう変化しているのかを直接見ているわけではなく、全身の状態を間接的に推測する方法だったのです。

それに対して、今回の研究では、実際に亡くなった人の献体から13種類の臓器と血漿を採取し、それぞれの中に含まれるタンパク質の変化を直接測定しています。筋肉や肝臓、大動脈、腎臓、肺など、体の内部にある主要な臓器を個別に解析することで、どの臓器が、どのタイミングで、どのように老化していくのかを詳細に比較することが可能になったのです。

タンパク質は、筋肉や臓器を構成する材料であり、酵素やホルモンとしての働きも持つ、生命活動の主役のひとつです。体内の状態が変わると、作られるタンパク質の種類や量にも変化が生じます。

そのため、ある臓器の中でどのタンパク質がどのように変わっていくのかを詳しく調べれば、老化の進み具合を客観的に知る手がかりになります。

研究チームが献体それぞれの組織から抽出したタンパク質は、合計で約17,000種類にも及びました。

この情報をもとに、年齢ごとのタンパク質の変化を解析することで、臓器ごとの「老化の地図」を描き出すことを試みたのです。

さらに研究では、臓器ごとに年齢とともに増減する特定のタンパク質を抽出し、それを「老化関連タンパク質(senescence-associated proteins)」として定義しました。

そしてこれをもとにして、各臓器が“どれくらい年を取っているか”を推定する「プロテオミック年齢時計(proteomic aging clock)」を構築しました。これは、私たちの臓器が年齢とともにどのようなペースで変化していくのかを、可視化する新しいアプローチです。

つまり今回の研究は、体の表面では見えにくい老化のサインを、タンパク質という“内なる声”から探り出そうとしたのです。

その結果、ある驚くべきパターンが見えてきました。

老化は50歳前後で加速する!内臓に起こる変化

Credit:canva

中国科学院の研究チームが行った解析の結果、驚くべきパターンが浮かび上がりました。それは、多くの臓器において、50歳前後を境にタンパク質の変化が一気に加速するというものです。

具体的には、臓器に含まれる老化関連タンパク質の量や種類が、それ以前には緩やかに変化していたのに対し、50歳前後を転換点として急激に変化し始めることがわかりました。

つまり、身体の中では50歳前後を“転換点”として、老化のペースが新たな段階に入る可能性があるのです。

しかも、老化のスピードは臓器によって異なります。今回の研究で特に変化が顕著だったのが、大動脈や血管系でした。

血管は年齢とともに硬くなり、柔軟性が失われていきますが、その変化は自覚しにくいものです。しかし血管の老化は、心臓病や脳卒中といった重大な疾患のリスクにもつながります。

この結果は、「見た目や体感では元気に見えても、血管はすでに老化を始めている」ということを意味している可能性があります。

さらに注目されたのが、GAS6(ガスシックス)というタンパク質です。この物質は血液中に存在し、細胞の生存や炎症、老化と関係していることが知られています。

GAS6を若いマウスに投与する実験では、握力が低下したり、バランスが悪くなったりと、老化に似た症状が現れたといいます。このことから、GAS6は単なる“老化の指標”ではなく、老化を引き起こす引き金のひとつかもしれないと考えられています。

今回の研究では、このGAS6の量が50歳前後を境に急激に増加することが、大動脈や血漿(けっしょう:血液の液体部分)のサンプルから確認されました。この指標も老化が50歳前後で急激に進行する可能性を示唆しています。

この研究からわかってきたのは、老化がただ静かに進むのではなく、50歳前後を境に急にスピードアップする可能性があるという事実です。

そのため、「まだ調子が良い今」のうちに、50歳前後の転換期を意識して生活習慣を見直すことが、将来の健康を守る第一歩となるでしょう。

この視点に立つと、「老いを感じてから対処する」のでは遅いかもしれません。むしろ、「まだ調子が良い今このときに、内側の変化を意識して対策を始める」ことが、将来の健康を守るうえで重要だといえます。

また「臓器によって老化の進み方が違う」という点も重要です。たとえば、大腸や肝臓の老化は比較的遅く始まるかもしれませんが、血管や消化器系の一部はより早く影響を受けることがわかっています。これは、健康管理において“年齢に合わせた対策”が必要であることを意味しています。

今後の課題としては、この研究が横断的(ある時点での比較)に行われたものであり、個人の老化がどのように進むかを追跡したものではない点が挙げられます。また、研究対象は76人とやや少なめで、事故死や病死など死亡時の健康状態もバラバラなため、今後はより大規模かつ長期的な研究が求められます。

それでも、この研究が私たちに与えてくれるメッセージは明確です。「まだ大丈夫」と感じている今こそ、老化に備えるタイミングかもしれないということです。

食生活や運動習慣を見直したり、定期的な血管年齢チェックを受けたりと、加齢に応じて健康に気を遣うタイミングを測りかねている人は50歳前後を目安に考えておくと良いかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Organs Age in Waves Accelerating at 50 Years Old
https://www.scientificamerican.com/article/organ-proteins-reveal-how-aging-accelerates-at-50-years-old/

元論文

Comprehensive human proteome profiles across a 50-year lifespan reveal aging trajectories and signatures
https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.06.047

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

タイトルとURLをコピーしました