広大な乾燥地帯にまばらに生える植物の写真を見たことがあるでしょう。 サ
バンナや荒れ地を空から眺めると、緑の点々がぽつぽつと散らばり、まるでバラバラに生えているように見えます。
しかし、最新の研究により、「その散らばり方には隠れた法則があった」と判明しました。
一見ランダムに見える植物の配置は、実はどこをとっても密度が均一だったのです。
中国・南京大学(Nanjing University)の研究チームが発表したこの成果は、科学誌『PNAS』に2025年10月7日に掲載されました。
目次
- 「ランダムに見えるが、実は密度が均一」という現象
- 乾燥地帯の植物はどのように「奇妙な配置」を作るのか
「ランダムに見えるが、実は密度が均一」という現象
一見ランダムに見える植物の配置。
その中に隠れていた“法則”は、物理学の世界から借りてきた言葉で「disordered hyperuniformity」と呼ばれています。
この現象は、「局所的にはバラバラでランダムに見えるけれど、広い範囲で見るとどこも驚くほど密度が均一」という不思議な空間パターンです。
たとえば、人で溢れかえる満員の部屋を想像してください。
人々はできるだけ自分の“パーソナルスペース”を保とうと、互いに少しずつ距離をとります。
当然、格子状に皆が整列することはありませんし、人と人とのそれぞれの距離は異なります。
一方で、部屋の角や中央に皆が密集することもありません。
個々の意思でパーソナルスペースを確保しようとするので、人は部屋全体に広がり、部屋のどの範囲を切り取っても、そこの密度は大きく変わらない状態になります。
それが「disordered hyperuniformity」のイメージです。
この”隠れた均一性”は、もともと物理学や材料科学の分野で、粒子の並び方や結晶構造を説明するために提案された概念であり、近年では、自然界のさまざまな場所で同じような状態が発見されています。
では今回、乾燥地帯の植物がどうしてこの不思議なパターンを作ることがわかったのでしょうか?
従来の生態学の研究は、主に「植物同士の距離」に注目していました。
「乾燥地では、水分や栄養を奪い合わないよう、植物同士が離れて生えている傾向がある」と考えられてきたのです。
しかし中国の研究チームは、より広い視野で、「同じ広さのエリアごとに、植物がどのくらい分布しているか」という“密度の揺らぎ”に着目しました。
具体的には、高解像度の衛星画像から世界の乾燥地425地点を選び、各500×500メートルの範囲で植物の分布を詳細に解析。
その中で特に注目されたのが、50〜500メートルのスケールで密度の揺らぎが抑制される「disordered hyperuniformity」というパターンだったわけです。
実際、425地点中58地点(約1割)でこのパターンが検出され、アフリカ、アジア、オーストラリア、アメリカなど複数の大陸にまたがる乾燥地帯で確認されました。
つまり、世界中の乾燥地帯で見られる「ランダムに見える植物の散らばり」は、実は広いスケールで見ると驚くほど均一だったというわけです。
ではこのパターンはどうやって形成されているのでしょうか
乾燥地帯の植物はどのように「奇妙な配置」を作るのか
乾燥地帯の植物は、どうやって“隠れた均一性”を作り出すのでしょうか?
研究チームは数理モデルを用いて、その仕組みを詳しく解析し、いくつかのメカニズムが考えられました。
たとえば、「植物が枯れた後の土は他の場所よりも栄養豊かになるため、そこでは新たな芽が出やすくなる」という現象です。
こうした“世代交代”のサイクルが繰り返されることで、長い時間をかけて広範囲で偏りの少ない分布が作り上げられると考えられています。
また、「植物同士の競争」も関係しているかもしれません。
近くの植物は互いに助け合う(影をつくって土壌を乾燥から守る、水分を保持するなど)一方で、遠く離れた植物同士は根を広げて水を奪い合う“競争”も行います。
この「近距離では協調、遠距離では競争」という仕組みが、独特のパターンを生み出す要因となっているのです。
では、このdisordered hyperuniformityは生態系にどんなメリットをもたらすのでしょうか?
研究チームのモデル解析によると、主な利点として「水分の無駄を最小限に抑えられる」ことが分かっています。
植物が効率よくスペースを分け合い、ムラなく分布することで、根が土壌中の水分をまんべんなく吸収できるようになります。
その結果、ランダム配置された場合よりも、水分のロスが少なく、極限環境下でも長く生き残ることができるのです。
一方で、トレードオフも存在します。それは「構造の回復の遅さ」です。
山火事や家畜による食害など、外部から大きなショックがあった場合、元の均一な配置に戻るまでに非常に長い時間がかかります。
つまり、「安定していれば非常に強いが、急激な変化への柔軟性は低い」という特性も合わせ持っているのです。
この発見が重要なのはなぜでしょうか?
気候変動や人間活動の影響が大きくなりつつある現代において、「どうすれば生態系が過酷な環境を乗り越え、持続できるのか」を知るには、disordered hyperuniformityの理解が大きなヒントとなります。
人間社会の土地管理や砂漠化対策にも応用が期待されているのです。
参考文献
Plants Have a Weird Way of Arranging Themselves When There’s Not Enough Water
https://www.zmescience.com/science/agriculture-science/plants-have-a-weird-way-of-arranging-themselves-when-theres-not-enough-water/
元論文
Causes and consequences of disordered hyperuniformity in global drylands
https://doi.org/10.1073/pnas.2504496122
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部
