常識に反するほど長い雷が記録されました。
世界気象機関(WMO)はこのたび、2017年に米国で発生した雷が地表での距離にして実に829キロメートルにもおよぶ「世界最長の雷」として公式に認定されたと発表しました。
その雷は、アメリカ南部のテキサス州から、なんとカンザスシティ近郊までを一撃で駆け抜けたというのです。
これは東京から広島に匹敵する距離であり、飛行機でさえ90分はかかる道のりです。
しかもこの雷撃、当初は誰にも気づかれていませんでした。
観測したのは、地上ではなく宇宙から地球を見守る気象衛星でした。
まるで空に走る“電気の竜”のような存在が、ひっそりと空を駆け抜けていたのです。
目次
- 従来の記録を61キロも上回る
- 雷の脅威
従来の記録を61キロも上回る

雷は、雲の中で電荷が蓄積し、それが限界に達したときに一気に放出されることで発生します。
通常の雷はせいぜい数キロから十数キロ程度で、垂直に落ちる「ピカッと一発」のイメージが一般的です。
しかし、今回記録された「メガフラッシュ」と呼ばれるタイプの雷は、性質がまったく異なります。
メガフラッシュは、巨大な雷雲の中を横方向に伝わるもので、その長さは100kmを超えることもあります。
そして2017年10月、アメリカ中部を襲った巨大な雷雨の中で、かつてないスケールのメガフラッシュが発生しました。
その雷は、テキサス州東部を出発し、オクラホマを横断、最終的にはカンザス州にまで到達したのです。
この雷撃は、当時の観測では特定されていませんでした。
しかし、後にジョージア工科大学の研究チームが、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の気象衛星「GOES-16」のデータを再解析したところ、空を這うように広がる長大な電流の軌跡が浮かび上がったのです。
この距離は、従来の世界最長記録だった768km(2020年、アメリカ南部)を61kmも上回っており、WMOの「気象・気候極値アーカイブ」に正式に登録されました。
誤差±8kmを加味しても、世界最長の雷であることは揺るぎません。
雷の脅威
今回の発見を支えたのは、GOES-16やGOES-17などの静止気象衛星に搭載された「静止軌道雷マッパー(GLM)」という観測装置です。
この装置は、地球上の雷を24時間リアルタイムで監視し、その発生場所・範囲・継続時間を精密に記録します。
これまで地上観測装置(LMA)では捉えられなかったような広範囲の雷――メガフラッシュ――も、衛星技術によって明確に捉えられるようになったのです。

今回の雷も、GOES衛星が地上からは見えない雲内部の電流まで追跡したことで、その全容が明らかになりました。
WMOによると、メガフラッシュは特に「メソスケール対流系(MCS)」と呼ばれる大規模な雷雨システムで発生しやすく、アメリカのグレートプレーンズ地域はそのホットスポットとされています。
このような超長距離の雷撃は、航空機にとって大きなリスクであり、また乾燥地帯では山火事の引き金にもなりかねません。
実際、1994年のエジプト・ドロンカでは雷が石油タンクに落ち、469人が死亡する大惨事が発生しています。
雷研究の第一人者ウォルト・ライオンズ氏は「雷の脅威を過小評価してはいけない。屋外にいるならすぐに近くにある屋内に避難すべきです」と警告しています。
特に雷が10km以内に迫っている場合、安全な避難行動をとるまでの猶予は数秒しかない可能性があるのです。
参考文献
World’s Longest Lightning Strike Crossed 515 Miles From Texas to Kansas
https://www.sciencealert.com/worlds-longest-lightning-strike-crossed-515-miles-from-texas-to-kansas
Megaflash stretching 829km sets new world record for the longest lightning strike
https://www.scimex.org/newsfeed/megaflash-stretching-829km-sets-new-world-record-for-the-longest-lightning-strike
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部