地上により大きな風力発電機を設置するために必要なものは何でしょうか?
意外かもしれませんが、その答えは、巨大な飛行機です。
アメリカ・コロラド州の企業ラディア(Radia)が今、世界最大の全長108メートルの貨物飛行機「ウインドランナー(WindRunner)」を開発しています。
この飛行機のミッションはただ一つ。
「巨大な風力発電ブレードを、現場まで空輸すること」です。
いったいなぜ、風力発電機の設置に巨大な飛行機が必要なのでしょうか。
目次
- 風力発電機の「巨大ブレード」をどうやって運ぶ?
- 「空を飛ぶ倉庫」が風力発電を進化させる
風力発電機の「巨大ブレード」をどうやって運ぶ?
風力発電の世界では、風車(タービン)のブレードが大きくなればなるほど、発電量が増加します。
ブレードの長さが伸びると、ブレードが描く円の面積が大きくなり、発電量はその二乗で増加します。
そのため、世界中の風力発電メーカーは、「もっと大きなブレードを作りたい」と考えてきました。
実際、従来型の70メートル級ブレードから、100メートル超の“メガブレード”へと大型化すれば、タービン1基あたりの出力が10~20%向上し、発電コストも20~35%下がると試算されています。
また、必要な設置数を減らすことで、設置やメンテナンスのコストも抑えやすくなります。
さらに、巨大な風力発電機は高速回転する必要がないため、これまで風が弱くて利用できなかった地域(風速5m/s程度の場所でも成立)にも設置できます。
しかし、現実には技術の進歩だけでは解決できない、思いがけない“壁”がありました。
それは、巨大なブレードを現場まで運ぶ方法がないという問題です。
洋上風力では巨大なブレードも製造した後、港から直接船で運ぶことができます。
しかし、地上に巨大な風力発電機を設置することは簡単ではありません。
日本やアメリカ、ヨーロッパの多くの地域では、道路にはトンネルや橋、カーブがあり、せいぜい70メートル程度までしか長い荷物を輸送できないのです。
中国の一部の地方など、インフラ制約の少ない土地では100メートル超のブレードも導入されていますが、多くの国や地域では「運ぶこと」が最大の制約となっています。
それならば、「分割して運んで、現場で組み立てればいいのでは?」と考える人もいるでしょう。
しかし、風力発電ブレードは一体成型によって「軽さ」と「強度」を両立しています。
複数のパーツを現場でつなぐと、接合部がどうしても弱くなり、重量も増加してしまうため、発電効率や耐久性が大きく損なわれてしまいます。
また、現場に巨大なブレード工場を作るのも現実的ではなく、「運べる長さ=陸上風力ブレードの限界」となってきたのです。
では、この限界を超えるための良いアイデアがあるでしょうか。
「空を飛ぶ倉庫」が風力発電を進化させる
「輸送の壁」を打ち破るため、ラディア社が開発を進めているのが、世界最大の貨物専用飛行機ウインドランナーです。
ウインドランナーの最大の特徴は、その「規格外の大きさ」にあります。
なんと、全長108mです。
世界最大の飛行機といえば、An-225(全長84m)であり、他にもエアバスA380(全長73m)やボーイング747(全長71m)がその巨大さで有名です。
これらを考えると、製造中のウインドランナーが常識外れの大きさであることがよく理解できます。
またこの飛行機の翼幅は80m、全高は24m(8階建てビルに相当)。
貨物室の容量はボーイング747の9~12倍にもなり、最大で105メートルのブレードを1本、または95メートルのブレードを2本積載できます。
Radia will deliver an aircraft that meets the demands of the growing wind industry, enabling GigaWind worldwide quickly and cost-effectively. Learn more about WindRunner: https://t.co/P6gk7oOJSV pic.twitter.com/cBA2AityAy
— Radia, Inc. (@radiaenergy) May 30, 2024
この巨大な飛行機は、舗装されていない未整備の土の滑走路にも離着陸できるよう、20本のタイヤや軽量化設計、特殊な翼の形状など、さまざまな工夫が盛り込まれています。
また、前方のコックピット部分を持ち上げることで、真っすぐに巨大ブレードを積み込める仕組みになっています。
さらに、機体内部の加圧は必要最小限にとどめ、エネルギー効率と軽量化を徹底追求しています。
搭載されるエンジンも、現代の大型旅客機で実用化されている高出力モデルを流用することで、安全性と信頼性を担保しています。
ちなみに、既存の最大級の貨物機(アントノフAN-124やC-5ギャラクシー)ですら、巨大なブレードを運ぶには長さや積載スペースが足りず、舗装された空港でしか運用できません。
これらの情報を総合すると、ウインドランナーのような超大型・超ロング貨物専用機だけが、陸上風車ブレードの「空輸」という現実解をもたらす、ということです。
この「空を飛ぶ倉庫」の登場により、これまで地理的・インフラ的制約で諦められてきた地域でも、最新鋭の巨大風力発電機を設置できるようになるはずです。
現段階では、政治的な許認可や支援政策の不透明さという課題も残っていますが、ラディア社は「これらの問題は自然に解決すると信じている」と述べており、2030年の実用化を目指しています。
ウインドランナーは単なる巨大飛行機ではありません。
再生可能エネルギーの拡大を、「輸送インフラ」という視点から根本的に進化させる試みなのです。
参考文献
If We Want Bigger Wind Turbines, We’re Gonna Need Bigger Airplanes
https://spectrum.ieee.org/wind-turbine-blade-transport-plane?utm_source=homepage&utm_medium=hero&utm_campaign=2025-09-10&utm_content=hero1
Radia is building the world’s largest aircraft, the WindRunner
https://radia.com/
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部