現代のトイレは、水によって排泄物を流すという仕組みが一般的です。
しかし、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)が開発したのは、その常識を根底からひっくり返すトイレでした。
その名も「MycoToilet(マイコトイレット)」。
これは世界初となる「キノコで動く水なしトイレ」です。
MycoToiletは、自然の中での仮説トイレとして活躍することが期待されています。
では、一体どのような仕組みで動くのでしょうか?
目次
- キノコパワーで、排泄物を「森の資源」に
- 社会を変える「新しいトイレ体験」へ
キノコパワーで、排泄物を「森の資源」に
MycoToiletの最大の特徴は「菌糸体」と呼ばれるキノコの根のネットワークを利用して、人間の排泄物を栄養豊富な堆肥へと分解する点にあります。
従来の仮設トイレでは、化学物質を使って臭いを封じ込めたり、廃棄物を有害なゴミとして処理したりしていました。
しかしMycoToiletでは、菌糸体が排泄物を自然のサイクルの中に還元してくれます。
【MycoToiletの実際の画像はこちら】
実際の仕組みはこうです。
トイレの奥で排泄物を液体と固体に分離し、固体部分は菌糸体で覆われた専用コンパートメントに送られます。
ここでキノコが強力な酵素を生み出し、有機物を分解。さらに分解を進める微生物たちをサポートしながら、排泄物を堆肥へと変えていきます。
「キノコは人間や動物の排泄物を分解することがとても得意です」とUBCの微生物生態学者スティーブン・ハラム教授は語ります。
「酵素によって複雑な物質をシンプルなものに変え、さらに分解を進める微生物の活動を助けます。しかも、水も電気も化学薬品も必要ありません」
この仕組みによって、臭いの元になる成分の90%以上が除去されるといいます。
また建物自体にも工夫が凝らされており、内部は通気性の高いシーダー材やステンレススチールで清潔感があり、臭いを吸収する菌糸体の壁が設置されています。
屋根はグリーンルーフで地域の植物や動物もサポートし、換気ファンが空気を循環。
こうした最新の建築デザインも「仮説トイレ=不快」というイメージを一新しています。
社会を変える「新しいトイレ体験」へ
この世界初のMycoToiletは、2025年9月26日にUBC植物園で発表され、6週間にわたるパイロット運用が開始されました。
研究チームは、実際に使われたトイレ内で、菌糸体と微生物がどう分解プロセスを進め、臭いの発生を抑えられるかを詳細にモニタリングしています。
本格運用時には、年間約600リットルの土壌と2,000リットルの液体肥料が生産される見込みです。
この肥料は公園や農地などで再利用でき、化学肥料への依存を大幅に減らせる可能性があります。
また、トイレは年間4回のメンテナンスだけで運用でき、車いすにも対応。都市部の公園はもちろん、インフラが整っていない遠隔地や発展途上地域でも大きな効果が期待されています。
「トイレは生活のごく当たり前の一部ですが、そこにエコロジカルな循環の喜びや、新しい快適さをプラスできると信じています」とプロジェクトリーダーのジョセフ・ダーメン准教授は話します。
「従来の“仮設トイレ=不快”というイメージを壊し、清潔で気持ちよく使える、しかも地球環境にも優しい新しい社会インフラにしていきたいのです」
今回のプロジェクトには建築、微生物学、エコロジーなど様々な分野の研究者が参加し、カナダの研究基金やサステナビリティプログラムの支援も受けています。
参考文献
UBC launches world’s first mushroom-powered waterless toilet
https://news.ubc.ca/2025/09/ubc-launches-worlds-first-mushroom-powered-waterless-toilet/
World’s first mushroom-powered toilet could replace stinky porta-potties
https://www.popsci.com/environment/first-mushroom-powered-toilet/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部