ヒクイドリという鳥をご存知でしょうか?日本の動物園でも飼育しているところが限られているため「見たことがない」「全く知らない」という方も多いかもしれません。
ダチョウやエミューの仲間でありながらあまり知名度がないヒクイドリですが、実ははるか昔から人間と共にあり、日本に持ち込まれたのも江戸時代からと非常に古い歴史があります。
一方で、人間を襲って殺してしまうなど危険生物としても知られるヒクイドリ。
今回はそんなヒクイドリについて、生態や人との歴史をご紹介します。
目次
- ヒクイドリの生態
- ヒクイドリの危険性
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ヒクイドリの生態

ヒクイドリはエミューに似た大型の鳥類です。
エミューと同じヒクイドリ科ヒクイドリ属に属し、鮮やかなエメラルド色の卵を生みます。
ヒクイドリが野生で生息している国はインドネシアやニューギニア、オーストラリア北東部などで、ダチョウやエミューと比べると広く分布していると言えるでしょう。
頭から頸にかけての羽毛がなく、鮮やかな青色をしています。あごには長い赤色のトサカがあり、火を食べているように見えたことから「火喰い鳥」の名がついたそうです。
オスよりメスの方が体も大きく、体色も鮮やかで、最大全長1.9m、体重85㎏ほどにも及びます。
翼は小さく退化して飛ぶ機能は失われおり、ダチョウやエミューと同じ走鳥類に分類されます。
太い後脚のつま先には大きな3本の爪を有しており、強い脚力と鋭い爪によって放たれるキックは非常に強力です。
過去には人が襲われてケガをしたり亡くなったりした事例もあり、2004年には「世界一危険な鳥」としてギネスブックに掲載されました。
また、ヒクイドリはその鳥らしからぬ大きさや太い脚、カラフルな風貌などから「生きている恐竜」と呼ばれることもあります。
実際、「グオオ、ガウウ」と低く吠えるような怒ったときのヒクイドリの鳴き声は、他の鳥類の声とは全く異なり恐竜のような迫力です。
飼い主を殺害!ヒクイドリの危険な一面

前述の通り、「世界一危険な鳥」とされているヒクイドリ。
2019年には飼い主を殺害するという痛ましい事件が起きました。
ヒクイドリに殺害された75歳の男性は、農場でヒクイドリを飼育し、繁殖させていたそうです。
普段からヒクイドリに愛情を注いでいて世話にも慣れていたそうですが、ヒクイドリの縄張り内でうっかり転倒してしまいヒクイドリのキックの餌食となってしまいました。
ヒクイドリのキックには一撃で肉を切り裂くほどの強さがあるのだと言います。太い脚のつま先についた大きな3本の爪は長さ12cmにも及び、ナイフのような鋭さです。
さらに、その脚力は凄まじく、走行速度は最大50km/hとも言われています。そんな強い脚にナイフのような鋭い爪がついているのですから、一撃で人が亡くなってしまうのも頷けますね。
普段は大人しく臆病な性格なヒクイドリですが、危険を感じると攻撃的になり、反撃してくるのだそうです。殺害された飼い主の男性も転倒したことが攻撃と勘違いされてしまったのかもしれません。
種の運び屋!ヒクイドリの意外な一面

先述の飼い主殺害事件などから危険性ばかりがフィーチャーされ「害鳥」とさえ呼ばれてしまうヒクイドリですが、自然界で非常に重要な役割を担っていることを忘れてはいけません。
熱帯雨林に生息するヒクイドリは雑食性で主に果物などを食べるのですが、体が大きなヒクイドリの食べる量は凄まじく、1日に食べる果実の量は数百個にも及ぶそうです。
そうして食べた果実の種はヒクイドリの体と共に移動しあらゆる場所で糞と一緒に種が輩出されて生息域を広げることができます。
最大時速50㎞/hにも及ぶ速さで移動し、行く先々で果実を食べ、糞をしていくヒクイドリはまさに種の運び屋と言えます。ヒクイドリによって太古の森が残っているといっても過言ではありません。
ヒクイドリの危険性

森を守る重要な役割を担っているにも関わらず、人間の乱獲や交通事故などによって絶滅危惧種に指定されているヒクイドリ。
確かに危険な一面はありますが、ヒクイドリの個体数をこれ以上減らさないためにも、人間側がその危険性をしっかりと理解しておく必要があります。
ヒクイドリは基本的には好戦的な性格ではなく、何もしない相手にいきなり襲いかかってくるわけではありません。
前述の飼い主殺害事件も飼い主の転倒が原因だったとされていますし、過去にヒクイドリが16歳の少年を殺害した事件でも、少年が先にヒクイドリを攻撃したようです。
ただし、ヒクイドリのキックが非常に危険であることは忘れてはいけません。ヒクイドリの強い脚と鋭い爪によって繰り出される蹴りのキック力は120kg以上とされ、一撃で肉を引き裂き、致命傷となりえます。
また、人間のどのような動きがヒクイドリに「攻撃」とみなされるかは未知数です。縄張り意識の強いヒクイドリはそもそも人間が縄張りに入ってくることを嫌います。臆病なヒクイドリにとっては人間が急に近づくだけで反撃に値するかもしれないのです。
たとえ「エサをあげる」などの好意的な気持ちがあっても、人間が近づいてくることはヒクイドリにとって脅威です。なるべく近づきすぎず、万が一近寄ってしまったら急に動かずにゆっくりと距離を取るのがベストでしょう。
ヒクイドリは人類と暮らしていた可能性がある

実はヒクイドリが「人類が最初に家畜化した鳥類である」可能性があるという。
ある研究チームがパプアニューギニアの遺跡で見つかった約1万8000〜6000年前のヒクイドリの卵、計1000個以上の断片を調査した結果「大半の卵殻がヒナの孵化直前か直後に当たり、加熱の形跡もなかった」ことがわかりました。
もし、遺跡に住んでいた人々が食べ物として集めたものだったとしたら大半の卵は「孵化するずっと前の状態」であることが普通です。
また、食用としていたなら加熱する卵も混ざってくるでしょう。これらの卵の大半が加熱されておらず孵化直前か直後にあたる状態だったということは、人々がヒクイドリを飼育し、繁殖させていたという事実を示します。
例えば、ニワトリが家畜化されたのは8000年前からと言われていますので、もしこれが事実ならヒクイドリの飼育は鶏よりもはるかに歴史が古く、ヒクイドリは人類が始めて家畜化した鳥類と言うことになりえるのです。
世界一危険な鳥であるヒクイドリを人々が何故飼育していたのかは未だ謎に包まれていますが、太古にヒクイドリが人間と共生していたというのは興味深い話ですね。
日本で見られるヒクイドリ

まとめ
その脚力と鋭い爪から世界一危険な鳥としてギネス認定もされているヒクイドリ。
しかし実際は臆病で反撃してしまうだけで、決して好戦的な生き物ではありません。ヒクイドリは森を保持する役割を担ってきた自然界に欠かせない存在で、古くから人と共生していた可能性も報告されています。
恐竜のような見た目で唯一無二の魅力を持つヒクイドリは日本の動物園でも飼育されていますので、気になった方はぜひその轟くような鳴き声や力強さを生で見に行ってみてはいかがでしょうか。
参考文献
ヒクイドリ|鳥の図鑑
飼い主を殺害!「世界で最も危険な鳥」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/post-11980.php
ライター
いわさきはるか: 生き物大好きな理系ライター。文鳥、ウズラ、熱帯魚などたくさんの生き物に囲まれて幼少期を過ごし、大学時代はウサギを飼育。大学院までごはんの研究をしていた食いしん坊です。3人の子供と猫に囲まれながら、生き物・教育・料理などについて執筆中。
編集者
ナゾロジー 編集部