「食事は一人で静かに味わいたい」「読書や散歩は誰にも邪魔されずに自分の世界に浸りたい」
そうした”ひとり時間”を大切にしている人は多いでしょう。
一方で、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の最新研究で、普段一人でやることを誰かと一緒にすると、幸福度が高まることが明らかにされました。
たまには一人ですることは、友人や知人と一緒にしてみるのもいいかもしれません。
研究の詳細は2025年8月16日付で学術誌『Social Psychological and Personality Science』に掲載されています。
目次
- 一人時間は「誰かと一緒」で幸福度アップ
- 交流そのものが幸せを作っていた
一人時間は「誰かと一緒」で幸福度アップ
研究チームは今回、アメリカの「タイムユース調査(American Time Use Survey)」の膨大なデータ(4万1000人以上・4つの調査時点)を分析しました。
調査では、参加者が前日の活動を細かく記録し、その中からランダムに選ばれた3つのエピソードについて「どのくらい幸せだったか」を自己評価します。
また、その活動を「一人でやったか」「誰かと一緒だったか」(対面または電話)も答えました。
特徴的なのは、介護や電話など、元から社会的な活動は除外し、読書や家事、散歩や通勤など、普通は一人ですることが多い80種類以上の日常行動に絞って分析している点です。
その結果は驚くべきものでした。
297種類の具体的な活動ごとの分析のうち、なんと296種類で「誰かと一緒」の方が幸福度が高かったのです。
唯一の例外は「台所の片付け」で、これは一緒にやるとわずかに楽しさが下がっていました。
特に「食事や飲み物を誰かと一緒にとる」ときの幸福度アップが最も大きく、次いで「一緒に散歩や移動をする」「アクティブな余暇を分かち合う」といった活動でも効果が顕著でした。
驚くべきことに、「読書」「手芸」「通勤」といった、いかにも“自分の世界”に入りやすい活動でも、誰かと一緒にやるだけで幸福度は高まっていました。
交流そのものが幸せを作っていた
一方で、こうした結果を聞くと「それはもともと他人と過ごすのが好きな人ほど、何をしても楽しいのでは?」と疑う人がいるかもしれません。
しかし研究チームは、参加者の「その日の気分」や「もともとの性格」を統制した追加分析も行っています。
その結果、「他者との交流そのもの」が幸福感を引き上げていることが確認されました。
他方、「なぜ人は“みんなと一緒”が幸せだとわかっていても、一人の時間を選ぶのか?」という疑問もあります。
研究者たちは「一緒に過ごしたくても、常に相手がいるとは限らない」「幸せ以外の目的のために、一人の時間が必要なこともある」と指摘します。
例えば、試験勉強や集中したい作業は、楽しいグループ学習よりも一人で取り組んだ方が効果的なことも多いでしょう。
また、今回の研究にはいくつかの限界もあります。
「誰かと一緒だったか」を単純な「有・無」でしか判断していないため、相手との関係や交流の質までは評価できていません。
さらに、内向的な性格や「一人が好き」という個人差が幸福度に与える影響までは詳しく分析されていない点も注意が必要です。
それでも今回の研究は、普段は一人でやることも、誰かと一緒にやることで新しい楽しさや満足感が生まれる可能性を示しています。
一人の時間が好きな人でも、気が向いたときは誰かを誘ってみると、思いがけず幸せな気持ちになれるかもしれません。
参考文献
Study shows people feel happier when doing everyday activities with others
https://www.psypost.org/study-shows-people-feel-happier-when-doing-everyday-activities-with-others/
元論文
Everything Is Better Together: Analyzing the Relationship Between Socializing and Happiness in the American Time Use Survey
https://doi.org/10.1177/19485506251364333
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部