南太平洋の孤島、イースター島(現地名では、ラパ・ヌイ)。
ここに立ち並ぶ世界的に有名な巨石群「モアイ像」は、いったいどのようにして島中に運ばれたのでしょうか。
何世紀にもわたり、モアイ像の移動方法は考古学界最大の謎のひとつとされてきました。
「どうやって、あんな巨大な像を、人力で遠くまで運んだのか?」
この疑問に対し、近年になって「モアイは寝かせて木のソリに乗せて運ばれた」という従来説を覆す「歩くモアイ説」が浮上し、そして米ビンガムトン大学(SUNY-BU)の最新研究でついに科学的な裏付けが与えられたのです。
研究の詳細は2025年10月4日付で科学雑誌『Journal of Archaeological Science』に掲載されています。
目次
- モアイ像を「歩かせた」とは?
- なぜ「歩くモアイ説」が有力になったのか?
モアイ像を「歩かせた」とは?
【モアイ像を歩かせる実験の画像はこちら】
イースター島の象徴であるモアイ像は、重いもので重量80トン、高さ10メートルにも達します。
そんな巨像を、島の人々はどうやって何十体も、採石場から何キロも離れた祭壇まで運んだのでしょうか。
研究チームは、最新の3Dモデリング技術と現地での実地実験を駆使し、この難問に挑みました。
調査の対象は、およそ1000体に及ぶモアイ像です。
チームはモアイの特徴的な形状に着目
すると、多くのモアイは底面が幅広いD字型で、前方にやや傾いていることがわかりました。
この設計こそ、「歩かせる」ための工夫だったのではないか――。
そう仮定したチームは、モアイ像を横倒しで運ぶのではなく、立てたまま左右交互に“揺らして”ジグザグに歩かせるという運搬法を実験的に再現しました。

高精度な3Dモデルをもとに、重さ4.35トン・前傾デザインのレプリカ像を制作。
たった18人でロープを使い、片側ずつ引くことで、モアイ像を40分で100メートルも前進させることに成功しました。
従来の木製ソリを使う方式では必要だった大量の人手や木材は不要で、むしろ「歩かせる」ほうが効率的だったのです。
研究者は「一度揺らして動き出せば、思ったより簡単に進みます。力は片腕で十分で、エネルギーの節約にもなる」と語っています。
さらに、実際にイースター島に残る道も「歩くモアイ」に適した構造であることが判明しました。
幅4.5メートル・中央が少し凹んだ独特の道は、モアイ像が安定してジグザグに揺れながら進むのにぴったりだったのです。
なぜ「歩くモアイ説」が有力になったのか?
「歩くモアイ説」は、単なる思いつきではありません。
今回の研究では、3D解析によってモアイ像特有の重心・形状を再現し、実地実験で物理学的にもその可動性を実証しました。
特に大型像であればあるほど、立てたまま揺らす以外に現実的な運搬方法がなくなるということも分かりました。
研究者は「像が大きくなるほど、この方法が唯一の現実的な解になる」と述べています。
また、道路の存在そのものがこの運搬法を裏付けます。
イースター島には、モアイを移動するたびに道が造られ、実際に何本も道が並行して残っていることが観察されました。
「像を運ぶことと道を造ることは一体化していた」と研究者は推測しています。
移動ルートを選定し、障害物を取り除き、安定した道を切り開く――まさに“土木工学と集団知”の結晶と言えるでしょう。

では、従来説を完全に否定できるのでしょうか。
現在、モアイ像の移動について、物理的・考古学的な証拠から見て「歩かせる」以外の説は説明が難しいとされています。
加えて、「歩くモアイ」説はラパ・ヌイの人々の知恵と工夫を評価するものでもあります。
わずかな人数と資源で巨大な石像を運ぶ――これはまさに驚異的なエンジニアリングの賜物です。
研究者は「ラパ・ヌイの人々は限られた資源の中で最適な答えを導き出した。本当に尊敬すべき知恵だ」と語っています。
参考文献
Easter Island’s statues actually “walked” – and physics backs it up
https://www.binghamton.edu/news/story/5830/easter-islands-statues-actually-walked-and-physics-backs-it-up
元論文
The walking moai hypothesis: Archaeological evidence, experimental validation, and response to critics
https://doi.org/10.1016/j.jas.2025.106383
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部