ミネラル摂取量が「うつ病・不安症」の発症リスクに関連していた

もし、ふだん何気なく食べている食事の中に、心の健康に関わる“見えない鍵”が潜んでいたらどうでしょうか。

このほど、英国の大規模データベース「UKバイオバンク」に登録されている約20万人を最大13年間追跡した結果、食事中のミネラル摂取量とうつ病・不安症の発症リスクとのあいだに統計的な関連が存在することが、中国・西安交通大学(XJU)の研究チームにより報告されました。

特に鉄、マグネシウム、セレンの多い食生活は、時間の経過とともにうつ病の診断を受ける可能性が低い傾向と結びついていました。

反対に、カルシウムの摂取量が多いほど、うつ病や不安症の診断を受ける確率が高くなるようです。

研究の詳細は2025年9月11日付で科学雑誌『Journal of Affective Disorders』に掲載されています。

目次

  • ミネラル分はなぜ大切なのか?
  • 明らかになった“意外な関連”

ミネラル分はなぜ大切なのか?

精神疾患は今や世界の深刻な健康問題であり、うつ病と不安症だけでも数億人が影響を受けています。

その一方で、「栄養とメンタルヘルスの関係」は昔から多くの研究者が関心を寄せてきたテーマです。

脳は、思考や感情を維持するために膨大なエネルギーと栄養素を必要とし、その中でもミネラルは、神経伝達物質の合成、細胞のエネルギー生産、神経細胞同士のコミュニケーションなど、生命活動の根本を支えています。

例えば鉄は、気分を調整する神経伝達物質の材料になり、マグネシウムは神経系の働きを安定させる役割があります。

また、亜鉛やセレンの不足が抑うつ症状や認知機能の低下と関連する報告もあります。

しかし従来の研究には「サンプル数が少ない」「観測期間が短い」「一時点の食習慣しか把握していない」といった問題があり、明確なパターンを捉えることは困難でした。

そこで研究チームは、これらの限界を踏まえて、より長期的で大規模なデータを用いた包括的な分析を実施。

UKバイオバンクに参加した約20万人を対象に、日常の食事記録を聞き取り、カルシウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、セレンなど12種類のミネラル摂取量の平均値を推定しました。

その後、13年間の健康記録を追跡し、うつ病、不安症、PTSD、統合失調症、双極性障害、自殺企図などの診断を新たに受けたかどうかを調べ、食事中のミネラル摂取量との関連を統計的に解析しました。

さらに年齢、性別、社会経済的状況、喫煙・飲酒習慣、BMI、既存の身体疾患など、多数の要因も考慮し、可能な限り正確な関連を洗い出そうと試みた点にも特徴があります。

明らかになった“意外な関連”

分析の結果、食事中のミネラル摂取量とうつ病・不安症との間に、いくつか明確な関連が見られました。

■ 鉄・マグネシウム・セレン

→ 摂取量が増えると、うつ病リスクが低い傾向に関連

特に鉄摂取量が最も多い参加者は、最も少ない参加者に比べて約12%うつ病の診断を受ける可能性が低いという結果が得られました。

これらのミネラルは神経伝達物質の合成や神経系の調整に関わるため、先行研究の知見とも整合しています。

ちなみに、鉄分は「レバー」「赤身肉」「魚介類」「豆類」に豊富で、マグネシウムは「海藻類」「大豆類」「魚介類」「穀類」に豊富、セレンは「魚介類」「肉・卵類」「玄米」「キノコ類」に豊富に含まれています。

■ カルシウム

→ 摂取量が増えると、うつ病・不安症のリスク上昇と関連

もっとも意外だったのは、カルシウム摂取量が多いほど、「うつ病診断のリスクが約10%上昇」「不安症診断のリスクが約15%上昇」という傾向が見られた点です。

ただしチームは「因果関係を示すものではなく、健康状態の違いが影響している可能性もある」と慎重な姿勢を示しています。

■ その他の興味深い関連

・マンガン摂取量が多い → 自殺リスクが低い傾向

・亜鉛摂取量が多い → PTSDリスクが低い傾向

一方で、統合失調症・双極性障害については明確な関連は見られませんでした。

■ 性別・年齢による違い

さらに、いくつかの保護的な関連は、女性のほうが強く、また55歳以下の参加者のほうが顕著に表れるなど、人口特性によって影響が変わる可能性も示されました。

こうした結果は、メンタルヘルスと栄養の関係が単純ではなく、個々の体質や年齢によって異なる可能性を示唆しています。

今回の研究は、大規模かつ長期的なデータを用いて、ミネラル摂取量とうつ病・不安症のリスクとの間に関連があることを示した重要な報告です。

日々の食習慣を見直すことで、心を健康に保つことができるかもしれません。

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参考文献

New study finds links between dietary mineral intake and mental health risk
https://www.psypost.org/new-study-finds-links-between-dietary-mineral-intake-and-mental-health-risk/

元論文

Associations of dietary mineral intakes with the risk of six common mental disorders: A prospective cohort study
https://doi.org/10.1016/j.jad.2025.120271

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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