「ハワイの海にすむクジラが、1年間で7万匹以上ものイカを平らげている」
そんな驚くべき実態が、米ハワイ大学マノア校(UH)により明らかになりました。
研究チームは最新テクノロジーを駆使し、ハワイ周辺の「コビレゴンドウ」という種の食生活を詳細に調査。
その結果、このクジラが海の中でどれほどイカを必要として生きているかが、はじめて具体的な数字として示されました。
研究の詳細は2025年11月13日付で科学雑誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されています。
目次
- 「コビレゴンドウ」にタグをつけて追跡調査
- 年間7万匹超のイカを消費
「コビレゴンドウ」にタグをつけて追跡調査
今回の研究の主役は「コビレゴンドウ(学名:Globicephala macrorhynchus)」と呼ばれるクジラです。
コビレゴンドウは体が黒く、丸い頭を持つ特徴的な海洋哺乳類で、日本ではあまり知られていませんが、世界中の温暖な海に生息しています。
ハワイ近海にも約8000頭が暮らしているとされ、集団で行動し、しばしば水面に浮かんでいる姿が目撃されます。
しかし、その食生活についてはこれまであまり詳しいことがわかっていませんでした。
調査チームは今回、8頭のコビレゴンドウに特殊な行動記録用タグを装着。
このタグにはカメラやライト、水中マイク(ハイドロフォン)、GPSなどが搭載されており、潜水時の動きや音、周囲の映像まで記録できるようになっています。
さらにドローンも使い、上空から個体の大きさや動きを観察しました。
記録データからは、1頭あたり1日に平均39回もの深い潜水を行い、最深で2800メートル以上も海底に近づいていたことが分かりました。
このとき彼らが狙っていた主な獲物が「イカ」です。
コビレゴンドウは、深海に潜って栄養豊富なイカを捕食することで、日々の膨大なエネルギー消費をまかなっています。
年間7万匹超のイカを消費
チームは、水中マイクで記録された「エコーロケーション」(反響定位)の音を解析し、クジラがイカを捕らえたタイミングを推定しました。
データによれば、1回の深い潜水でおよそ4匹のイカを捕食しているようです。
また、コビレゴンドウは潜水時、1分あたり約73.8キロジュール(約17.6キロカロリー)ものエネルギーを消費していました。
これは水面にいるときの約2倍の消費量です。
研究者は、これらのエネルギー消費とイカの栄養価をもとに、1頭あたり1日に82匹から202匹、年間では最大で約7万3700匹ものイカを消費していると計算しました。
ハワイ近海に約8000頭いるコビレゴンドウ全体で見ると、年間8万8000トンものイカが食べられている可能性があるといいます。
ハワイには様々なイカが生息しており、このクジラたちの命を支える重要な存在となっています。
この数字は想像以上の規模で、海の生態系においてイカがどれほど大切な位置を占めているかがよくわかります。
研究者は「ハワイのコビレゴンドウは豊富なイカ資源を見つけており、比較的健康な状態を保てている」と述べています。
参考文献
Hawaii’s short-finned pilot whales eat over 77,000 squid a year
https://www.popsci.com/environment/short-finned-pilot-whales-squid-diet-hawaii/
元論文
Daily energetic expenditure and energy consumption of short-finned pilot whales
https://doi.org/10.1242/jeb.249821
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
