ブラジル・カンピーナス州立大学(UNICAMP)の研究チームは最近、ミツバチのハチミツとカカオ豆の殻を組み合わせることで、チョコレート風味を持つ新しいハチミツの開発に成功しました。
原料はどちらも自然由来で、食品としても化粧品の素材としても利用可能な新甘味料として期待されています。
研究の詳細は2025年8月21日付で科学雑誌『ACS Sustainable Chemistry & Engineering』に掲載されています。
目次
- どうやって「チョコ風味ハチミツ」を作るのか?
- 食品の他にどのような用途がある?
どうやって「チョコ風味ハチミツ」を作るのか?
今回の研究で使われたのは、ブラジルに生息する在来種ミツバチのハチミツです。
欧州種(セイヨウミツバチ)のハチミツよりも水分が多く、粘度が低いため、“天然の食用溶媒”として優れていることがわかっていました。
研究チームは、このハチミツを利用して、通常はチョコレート製造過程で捨てられてしまうカカオ豆の殻から、テオブロミンやカフェインといった機能性成分を抽出しました。
抽出には、超音波支援抽出技術 が使われています。
この方法は、金属ペンのような形状のプローブを、ハチミツとカカオ殻が入った容器に差し込み、音波によって殻から化合物を溶媒(ハチミツ)側へ効率的に移動させるものです。
この技術には次の利点があります。
・抽出が高速で効率的
・溶媒としてハチミツそのものを利用 → 化学溶媒を使用しない
・抗酸化物質(フェノール類)もハチミツに付加
・食品としてそのまま利用できる
実際に研究者が試食したところ、ハチミツと殻の割合によっては 「チョコレート」 さながらの濃厚で甘い風味が得られたといいます。
とはいえ、官能評価(味・香り・食感)については今後さらに詳細な研究が予定されています。
また、この過程でハチミツに含まれる微生物も超音波により破壊される可能性があり、従来は冷蔵や低温殺菌が必要だった在来種ハチミツの 保存性や安定性が向上する可能性も示唆されています。
食品の他にどのような用途がある?
今回の「チョコ風味ハチミツ」は、単に新しい食材というだけではありません。
チームは、このハチミツが 化粧品原料としても利用できる可能性を示しています。
カカオ殻から抽出されたテオブロミンやフェノール類には抗酸化・抗炎症作用があり、ハチミツ自体にも保湿性があるため、次のような用途が想定されます。
・スキンケア製品(保湿クリーム、美容ジェル、フェイスマスク)
・ヘアケア製品(トリートメント、スカルプケア)
・ナチュラル系コスメの原料
・アロマ・ボディケア製品(ハンドクリーム、ボディバターなど)
成分がすべて天然由来で、化学溶媒を使わずに抽出しているため、自然派志向の化粧品に適している点が強調されています。
カカオ殻という“捨てられる素材”と、在来ミツバチが集めた天然のハチミツ。
この2つを組み合わせて生まれたチョコ風味ハチミツは、エコでおいしく、さらに食品以外の用途という高い価値を持った優れものです。
甘味料としてパンに塗るだけでなく、高級スイーツ、栄養食、さらには化粧品にも展開可能なポテンシャルを秘めています。
数年後、スーパーの棚に「自然由来のチョコ風味ハチミツ」が並ぶ日が来るかもしれません。
参考文献
‘Chocolate-flavored’ honey created using cocoa bean shells
https://phys.org/news/2025-11-chocolate-flavored-honey-cocoa-bean.html#goog_rewarded
元論文
Stingless Bee Honeys As Natural and Edible Extraction Solvents: An Intensified Approach to Cocoa Bean Shell Valorization
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.5c04842
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
