ネコが前足を交互に使ってこねるような動作をしているのを見たことはありませんか?
毛布やベッドなどの寝床のやわらかい部分に対して行われるほか、飼い主の膝にのっているときにお腹や太ももに対して行われることもあります。
主にやわらかいものに対して前足だけをつかってふみふみする様子はネコ以外ではあまり見られず「可愛らしい」と動画などで取り上げられることも多々あります。
可愛らしくはあるけれど、やわらかいものをこねこねするだけで、何を目的としているのかわからないこの「ふみふみ行動」、ネコはどういった理由で行っているのでしょうか?
今回はネコの「ふみふみ」の理由や「ふみふみ」したときに注意すべきケースについてご紹介します。
目次
- 母子のコミュニケーションだったネコのふみふみ
- 大人になってもふみふみするネコの不思議
- ネコのふみふみはストレスのパラメータ
母子のコミュニケーションだったネコのふみふみ

ご存知の方もいるかもしれませんが、本来ネコの「ふみふみ」は子猫が母猫に対して行うものです。
子猫が「ふみふみ」するのは母猫の乳房を刺激することで、母乳が出やすくなるようにしているのだと言われています。
しかし、実は「ふみふみ」には物理的なマッサージ効果だけでなく、母子の精神的なコミュニケーションの側面もあるようです。
足裏から出るフェロモンで絆を深める効果も

ネコの前足の足裏には臭腺があり、そこからフェロモンを分泌します。
フェロモンというと雌雄間の生殖に関わるものをイメージする方が多いと思いますが「動物の体内でつくられ、体外に放出されて、同種の他の個体の行動や発育に影響を与える物質」の総称です。
子猫と母猫の場合、子猫の前足から放出されたフェロモンによって母猫はオキシトシンと呼ばれるホルモンの放出が促されます。
オキシトシンは母乳を出すことや「母性」の形成にも関わるとされてることから「愛情ホルモン」とも呼ばれるものです。
また、オキシトシンが出るとストレス反応が抑制され情緒が安定するため、母猫はリラックスした状態になります。
子猫は離乳してからも「ふみふみ」をすることがありますが、それはまだ小さい体の体温を保てるよう母親とくっついて眠るためなのだそうです。
子猫の「ふみふみ」は単なる「母乳の出をよくするマッサージ」ではなく母子のコミュニケーションなのですね。
しかし、半数以上のネコは離乳し、体温調節が自分でできる成猫となっても「ふみふみ」を行います。
この理由は一体何なのでしょうか?
大人になってもふみふみするネコの不思議

子猫のうちはほぼ生理現象ともいえる「ふみふみ」ですが、その理由は母乳を促すためや体温を保持するためなど子猫ならではのものでした。
しかし、成猫でも「ふみふみ」を行うネコは少なくありません。
もちろんすべてのネコが行うわけではありませんが、ネコを飼っている人にアンケートをとると、6~7割の人がこの「ふみふみ行動」を目にしたことがあるそうです。
私の飼い猫も3歳ととっくに離乳した年齢ですが、未だに私や私のガウンに対して「ふみふみ」をよくしています。
大人になったネコが「ふみふみ」について調べてみると、その理由は場面場面で異なるようです。
飼い主に母猫を重ねて甘えている

まず、飼い主に対して「ふみふみ」を行う場合は、飼い主を母猫と重ねている可能性が高いでしょう。
離乳前に何らかの理由で親から引き離されたネコは子猫気分が抜けず甘える際に「ふみふみ」の習慣を持ち続けることが多いと言われていますが真偽は明らかにされていません。
しっかり親元で過ごせていても多くのネコが「ふみふみ」を行うことから、子猫自体に母猫を「ふみふみ」しながら甘え、眠っていたことで、単純に「ふみふみ」をすることが甘えるときや眠る前のルーティンになってしまっているという説もあります。
ものに対してふみふみする場合は「におい付け」

一方、ネコは飼い主以外の毛布やクッションなどに対しても「ふみふみ」を行うことがあります。
その場合「眠る前のルーティン」というケースももちろんあるのですが、もし眠りやリラックスと関係ないような表情で一心不乱に「ふみふみ」しているなら別の理由があるかもしれません。
そこで考えられるのは、気に入ったものへの「マーキング」です。
前述の通り、ネコの前足の裏には臭腺がありますので「ふみふみ」を行うことで対象のものに自分の臭いを付けることができます。
真新しい猫ベッドなどを「ふみふみ」するのは「気に入ったから自分のものにする」という宣言なのかもしれません。
発情のサインを示す場合も

ネコを複数飼っている場合、ネコ同士で「ふみふみ」が行われるのもよくある光景です。
前述の通り、ネコは「ふみふみ」をする際、前足裏からフェロモンを分泌し、相手猫のオキシトシン放出を促します。
オキシトシンはストレスを鎮める作用がありますので、相手猫とリラックスして過ごしたいときにはもってこいの行動です。
また、雌猫の場合「ふみふみ」は発情したサインでもあるといいます。
発情した雌猫はスキンシップが増える傾向にありますが「ふみふみ」も例外ではありません。
避妊手術前の雌猫を飼っていて、おさまっていたはずの「ふみふみ」が復活したら発情のサインである可能性がありますので、もし周りに雄猫がいるのなら特に注意が必要です。
このように「ふみふみ」には体調の変化を知らせてくれるようなものもあります。
次ページではネコの「ふみふみ」で気を付けるべきケースをご紹介しましょう。
ネコのふみふみはストレスのパラメータ

飼い猫が行う「ふみふみ」が注意すべきものかどうか見極めるポイントは「ふみふみの動向」です。
本来、ネコの「ふみふみ」はリラックスした状態を示すものですが、裏を返せば「ふみふみ」によってストレスを発散させているという可能性もあります。
例えば「普段ふみふみしないのに急に始めた場合」や「これまでのふみふみより明らかに激しくなった場合」など、普段と「ふみふみ」の様子が異なっていたらネコがストレスを感じているサインかもしれません。
特に、引っ越しなどの環境の変化や、新しいネコのお迎えなどによる分離不安が「ふみふみ」に現れるケースが多いようです。
心当たりがある場合は注意深く「ふみふみ」のようすを観察しながら、ストレスの要因と考えられるものを取り除いていきましょう。
もしそれでも長く続く場合は体調不良によるストレスも考えられますので、病院にかかるのも一手です。
布類の誤飲に注意

また「ふみふみ」がネコの不調のサインとなるのではなく、「ふみふみ」によって危険が引き起こされるケースもあります。
本来子猫が母乳を飲む際に行う行動である「ふみふみ」は、個体によって「乳を吸う動作」を伴うためです。
歯のない子猫ならともかく、成猫となれば布などは容易に噛みちぎりますので、誤飲の危険性が非常に高いです。誤飲を繰り返すと食べた異物が腸閉塞を引き起こし、命の危険すらあります。
「ふみふみ」の対象として、毛足の長いものなど繊維を噛みちぎりやすいものは避けるようにしましょう。
また、前述の通りストレスがあると「ふみふみ」は激しくなり、その際に布類を噛みちぎる可能性も高まります。
誤飲の危険を避けるためにも、ストレスによる「ふみふみ」はさせないであげたいですね。
ネコにふみふみされたら理由を考えてみよう

飼い主としては「甘えられているな」「リラックスしてくれているんだな」と幸せを感じるネコの「ふみふみ」は、ネコにとっても「母に包まれているときの幸せな気持ち」を思い出している瞬間であるはずです。
しかし一方で「ふみふみ」を激しく行うことで、寂しさやストレスをアピールしている可能性もあります。
もしネコが「ふみふみ」をしてきたら、ぜひそのようすを観察し、どういう理由で行っているのか考えてみてあげてくださいね。
参考文献
Why do cats knead?
https://theconversation.com/why-do-cats-knead-192743
Why Do Cats Knead? 3 Reasons Behind Their Weird Quirk
https://www.owlratings.com/why-do-cats-knead/
元論文
Separation anxiety syndrome in dogs and cats
https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/222/11/javma.2003.222.1526.xml
Sociality in cats: A comparative review
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1558787815001549?via%3Dihub
Reproductive behavior of small animals
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0093691X05001858?casa_token=SoJdiUqZkmkAAAAA:7uJrsVcDFuKKY-c4li7l2Y7Q-sk-77_82Pe_2KUVdzSe5uM3kc8NUTUFRAus5I2u8mCgI3oec9s
ライター
いわさきはるか: 生き物大好きな理系ライター。文鳥、ウズラ、熱帯魚などたくさんの生き物に囲まれて幼少期を過ごし、大学時代はウサギを飼育。大学院までごはんの研究をしていた食いしん坊です。3人の子供と猫に囲まれながら、生き物・教育・料理などについて執筆中。
編集者
ナゾロジー 編集部