CMに出てくる犬、海外セレブが連れている犬、犬種がわからないけど可愛い!そういう犬は恐らくデザイナーズドッグ。純血種とは違いますが、雑種と区別するためミックス犬とも呼ばれています。
その可愛らしさから人気急上昇中のミックス犬。
見た目の可愛さやユニークさを追求した愛玩犬ですが、元は盲導犬を作出するために始まった取り組みです。それは視覚障碍者の介護者が犬アレルギーを持っているケースでした。
今では「可愛い犬同士を交配したら、両方のいいところを引き継いだすごくかわいい犬ができるのでは?」という発想でミックス犬が作られ続けていますが、いいことだけではありませんでした。
いいとこ取りだけではなかったミックス犬。
ミックス犬が抱える問題とはどんなものなのでしょう。そこには純血種2種類の犬を交配したということが深く関わっています。
犬好きな人なら気になりますね。早速見ていくことにしましょう。
目次
- ミックス犬とはどういう犬のことか
- ミックス犬をお迎えする場合のリスク
ミックス犬とはどういう犬のことか
ひと目で心を掴む可愛さから、ミックス犬の人気が高まっています。ちょっと検索するだけで、いろいろなミックス犬をインターネットで検索できます。
ミックス犬とは品種の違う純血種の犬を交配した交雑種のことで、親の血統が既にわからなくなっている雑種と区別するためにミックス犬と呼ばれています。ハーフ犬、ハーフ・ミックス犬、デザイナーズドッグ、デザイナーズブリードと呼ばれることもあります。
「要するに雑種でしょ?」と言う人もいますが、雑種は元の親の品種がほぼわからなくなっていることに比べ、ミックス犬は2種類の純血種を交配した1代限りの交配種ということになり、雑種とは区別されています。
ミックス犬は、元は「犬アレルギーの人が介護する視覚障碍者のための盲導犬」というニーズに応えたいという発想でした。
盲導犬に優れた適性を持つラブラドール・レトリーバーと、毛が抜けにくくアレルギーを起こしにくいスタンダード・プードルを交配したのです。

単純に考えれば、アレルギーを誘発しにくい優れた盲導犬が生まれてくるはずでした。
しかし、実際はそう簡単なことではありませんでした。
3頭産まれた子犬のうち、アレルギーを起こさない毛質を持ったのは1頭だけだったのです。
その1頭が介護者に引き渡されてブリーダーの任務は終了したのですが、問題は残った2頭でした。
2頭は家庭犬として引き取り手を探すことになりました。そこでラブラドゥードルというユニークな名前で売り込まれたのですが、その目新しい種類の犬と可愛い外見で予想を超えた人気が出てしまったのです。

この時のブリーダーは「パンドラの箱を開けてしまった」と、ラブラドゥードルを作り出したことを激しく後悔しました。
「パンドラの箱を開けた」とは、異なる純血種2種類の犬を交配して、別の犬を作出したことを指しています。
ラブラドール・レトリーバーとスタンダード・プードルのいいとこ取りをしたくて交配してはみたものの、遺伝とはそうは簡単にいかないものです。
メンデルの法則でエンドウ豆の図を覚えている人も多いことでしょう。
つまり、盲導犬に向いていてアレルギーを誘発しない子犬は「安定して生まれてはこない」という事実があります。
遺伝とは、避けて通ることのできない残酷な問題だったのです。

ミックス犬をお迎えする場合のリスク
ミックス犬は求める外見・性質が安定して得られないだけでなく、両親から望ましくない病気などを受け継いでしまうこともあります。
親となる純血種の犬は、犬種によって出やすい遺伝性疾患を持っていることがあるからです。
しかし、後悔したブリーダーの念をよそに、ラブラドゥードルは「違う純血種同士の交配をすると商売になる」という発想につながっていきました。
アレルギーの問題だけではなく、純粋に可愛いルックスやユニークな形質を作れば売れることに気づいて、ミックス犬を生み出すことを効率のいい商売と考える人たちが出てきたのです。
血統書のある純血種は、品種を維持するために近親交配を行ったり、遺伝的に近い犬同士で交配を進めたりした結果、遺伝性疾患を持って生まれるリスクを抱えています。現在、犬種ごとに起きやすい疾患がわかってきています。
また、環境省はブリーダーに対して、犬の交配年齢上限と生涯出産回数を定めています。犬の健康を第一に考えているのです。
しかしミックス犬は「商売になる」と考える人たちにとって犬の健康は二の次です。
日本より早くミックス犬のブームが訪れたアメリカでは、パピーミル(子犬工場)と呼ばれる悪徳犬舎が次々と摘発されています。商売優先で、犬の健康や遺伝性疾患などの問題は一切考えずに繁殖させる悪質さです。

パピーミルでは見た目の可愛らしさやユニークさだけが問題なので、大型犬と小型犬を交配するという珍しさだけで作られた犬もいて、これは体の大きさに比べて骨格が弱くなるなどのリスクで倫理的にどうなのと眉をひそめられることになります。
同じようなサイズ同士で交配されたミックス犬でも、性格や大きさには個体差が出ます。同じ親から生まれた兄弟姉妹でも異なってきます。そこは「見た目のバリエーションが豊富」ということになっています。
ミックス犬は、成長した後の容姿やサイズを両親の犬種から想像するしかありません。純血種でないため、両親のどちらの形質が大きく現れてくるのかは、成長してみないとわかりません。ちょうど両親の中間になるとは限らないのがミックス犬です。
しかし、両親の犬種から浮かび上がってくる健康上の注意点はホームページには書かれていません。これはミックス犬の抱えるリスクで、家族に迎えるなら知っておきたいところです。

このリスクとは「純血種に多い遺伝性疾患が発症する可能性」です。
「雑種は純血種より強いって言うでしょう。ミックス犬は純血種より病気になりにくいのでは?」と思う人もいるかもしれません。

しかし、純血種を人為的に交配したミックス犬は、元の品種がわからなくなっている雑種と違い、両親の持っている遺伝性疾患をそのまま受け継いでしまうリスクが高いのです。
ちゃんとしたブリーダーなら遺伝子検査を受けた犬を繁殖に用いて、犬舎の見学や遺伝情報の問い合わせにも応じてくれるでしょう。
ちなみに、人気の犬種が持っている代表的な遺伝性疾患を公益社団法人埼玉県獣医師会が「犬の遺伝性疾患について」というページでまとめています。
疾患によっては年をとってみないとわからない白内障のような疾患から、アレルギー性皮膚炎のような、若い頃から一生付き合っていかなければならない疾患として出ることもあります。また、骨に出る疾患では痛みで可哀想なことになるでしょう。
悪質な犬舎からは「ミックスなのでわからない」と言われかねません。遺伝性疾患の知識がないと飼い主は「都合のいい商売相手」で、犬は単なる「売り込みやすい人気の高額商品」になってしまいます。
ミックス犬の可愛さに心を鷲掴みにされてしまった人は、悪徳業者からカモられないようにしてください。
トイプードルは特に遺伝性疾患の種類が多いうえ、躾のしやすさ、性格のよさ、毛質の可愛らしさなどから交配に使われることが多いため、ミックス犬で「○〇プー」とつくミックス犬が多く作出されています。

ミックス犬を家族に迎えたい場合はブリーダーを厳選し、出やすい疾患があるかを確認、かかりつけの獣医を作り、定期健診を受けるなどして健康管理していくことをおすすめします。
ミックス犬ではありませんが、鼻ぺちゃでブサ可愛い系の純血種がいますよね。パグやフレンチブルドッグを始めとしてほかにもいます。オランダでは2019年からこうした短頭種の犬に対する「繁殖禁止令」が施行されています。新たに飼育することも禁止です。
犬種の指定はなく、「頭の3分の1分、鼻が前に出ていないマズルの短い犬」という決まりです。これも見た目優先で作り出されてしまったということが問題になっているのですが、具体的には呼吸器の病気を起こしやすいことが理由になりました。

このマズルの短い犬は航空機にも乗せてもらえません。元々呼吸しづらい形質のため、低酸素症で死んでしまうケースが多いためです。純血種でも好まれる形を作り出した結果、遺伝性疾患とは別に残酷なことになったケースです。
可愛らしさ、ユニークさから時に残酷ともいえる犬が作り出され、品種として登録もされてきました。
しかし、犬の立場から「見た目だけで犬種を作る」ことを考え直す動きが出てきているのが世界的な流れです。
同じことはミックス犬にもいえます。遺伝の知識がないまま犬を交配させ、ミックス犬を生み出している犬舎があれば、それはもはやブリーダーではなく、パピーミルです。見学NGの犬舎は要注意かもしれません。
ミックス犬の本当の姿を知り、家族に迎える時はしっかりブリーダーを選び、両親ともしつけのしやすい犬種かなど、容姿だけでなく「家族として我が家に合うか」を確認するのが大切。
そして、万が一の遺伝性疾患についても知っておいてあげてください。
ミックス犬の中には、可愛い姿の影に重たいものを背負って生まれてくる子もいます。残酷な遺伝の問題で気の毒なことになる犬を減らすため、純血種だけでなく、ミックス犬も善良なブリーダーさんからお迎えするのが最も大切なことなのです。

参考文献
イヌの新たな遺伝病を発見
https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/20200525.pdf
疾患の犬種特異性に関連する遺伝的要因の網羅的探索
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K05934/
コンパニオンアニマルの品種と遺伝病
https://asaet.org/data/sc10/2016-02-So.pdf
イヌ遺伝性疾患の診断技術と今後の展望
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010740797.pdf
イヌゲノム研究の現状と課題と展望 -イヌと起源、形質、遺伝病、がん-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/abgri/44/2/44_69/_pdf
ライター
百田昌代: 女子美術大学芸術学部絵画科卒。日本画を専攻、伝統素材と現代素材の比較とミクストメディアの実践を行う。芸術以外の興味は科学的視点に基づいた食材・食品の考察、生物、地質、宇宙。日本食肉科学会、日本フードアナリスト協会、スパイスコーディネーター協会会員。
編集者
ナゾロジー 編集部