高齢になるほど心配になる「認知症」。
運動習慣や食事、社会的なつながりなど、さまざまな生活習慣がそのリスクを左右しますが、最近の日本・新見公立大学らの研究で「チーズを週に1回でも食べる習慣」が、認知症の発症リスクを下げる可能性を持つことが示されました。
これは日本の食品会社・明治の委託を受けて実施された大規模調査に基づくもので、65歳以上の7900人以上を3年間追跡した結果をもとにしています。
一体、なぜチーズが脳の健康に関係するのでしょうか。
研究の詳細は2025年10月25日付で科学雑誌『Nutrients』に掲載されています。
目次
- 日本の高齢者7900人超を追跡して見えた「小さな差」
- なぜチーズが脳に良いのか?考えられる3つの理由
日本の高齢者7900人超を追跡して見えた「小さな差」
今回の調査に参加した26,000人超のうち、欠損データなどを除外し、最終的に7914人が約3年間追跡されました。
このうち半数の3957人は「週に1回以上チーズを食べる」と回答し、残りの3957人は「全く食べない」と回答しました。
そして3年間で認知症を発症したのは、
・チーズを食べる人:134人(3.4%)
・食べない人:176人(4.5%)
という結果でした。
人口1000人あたりに換算すると、約10〜11人分の差に相当します。
数字だけ見るとわずかですが、チームが統計モデルを使って年齢・性別・収入・教育などの要因を調整すると、「チーズを週1回以上食べる人は、認知症リスクが約21〜24%低い」という関連が示されました。
また、果物や野菜、肉や魚などの食生活そのものをさらに考慮しても、この関連は消えずに残りました。
つまり「健康的な食事をしているかどうか」だけではなく、チーズそのものに何らかのプラス効果がある可能性が浮かび上がっているのです。
なぜチーズが脳に良いのか?考えられる3つの理由
今回の研究は観察的研究であり、因果関係を直接確認したわけではありません。
しかし過去の研究と照らし合わせると、チーズに「脳の健康を支える可能性」が見えてきます。
1. ビタミンK₂やペプチドなどの脳を保護する成分
チーズには、ビタミンK₂、抗酸化物質、機能性ペプチドなどの成分が豊富に含まれています。
これらは炎症を抑えたり、血管や神経の働きをサポートすることで、認知機能の維持に役立つと考えられています。
2. 腸内環境を整えるプロバイオティクス
チーズは発酵食品のため、腸に有益な菌が多く含まれます。
腸と脳は「腸脳相関」でつながっており、腸内環境が整うとストレス反応や炎症が減り、脳の健康にも良い影響が出ることが報告されています。
3. 心臓に良い食品=脳にも良い
チーズなどの発酵乳製品は心血管の健康に良いことが数々の研究で示されています。
血管の状態が悪化すると脳への血流が低下し、認知症リスクが高まるため、心臓を守る食品が脳も守るという構造です。
今回の結果が示すのは、「週に1回のチーズ習慣」が高齢者の脳の健康に良い影響を及ぼす可能性です。
もちろん、チーズを食べれば認知症を防げると断言できるわけではありませんし、摂取量や種類、作用メカニズムについては今後の研究が必要です。
しかし、治療が難しい認知症の分野で、こうした“小さな生活習慣”が積み重なることで、大きな差につながるかもしれません。
参考文献
A Taste For Cheese May Reveal Your Future Risk of Dementia
https://www.sciencealert.com/a-taste-for-cheese-may-reveal-your-future-risk-of-dementia
元論文
Cheese Consumption and Incidence of Dementia in Community-Dwelling Older Japanese Adults: The JAGES 2019–2022 Cohort Study
https://doi.org/10.3390/nu17213363
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
