人気漫画『ドラゴンボール』でおなじみのスーパーサイヤ人は、全身から黄金のオーラを放つ象徴的な存在として知られています。
そんな“光り輝く姿”を思わせる魚が石垣島沖の深い海の底で実際に発見されました。
琉球大学理学部の小枝圭太助教らの研究チームは、水深210メートルから採集された鮮やかな黄色模様を持つハゼの1個体を精査。
ヤツシハゼ属の新種であることを突き止め、学名をVanderhorstia supersaiyan(ヴァンダーホルスティア・スーパーサイヤン)と命名しました。
この研究成果は2025年11月27日付で『Ichthyological Research』に掲載されました。
目次
- 石垣島沖で発見された新種のハゼ!「スーパーサイヤン」と命名
- スーパーサイヤンは他のハゼと何が違う?
石垣島沖で発見された新種のハゼ!「スーパーサイヤン」と命名
今回の新種が発見された水深210メートルの海域は、太陽光がわずかに届く「トワイライトゾーン」と呼ばれる水深帯です。
ここは浅海ほど明るくなく、かといって完全な深海でもなく、独自の生態系が成立していることで知られています。
しかし沖縄県では底引き網漁が行われないため、このトワイライトゾーンに生息する小型魚類の標本がほとんど得られず、どのような魚がいるのかあまり分かっていませんでした。
その“未知の領域”に一歩踏み込んだのが、生物ライターとしても活動する平坂寛氏による釣り調査でした。
2022年、平坂氏は石垣島沖の水深210メートルで調査を行い、鮮やかな黄色の模様を持つ1匹の小型ハゼを釣り上げました。(※画像はこちら:プレスリリース)
その写真を琉球大学の小枝助教に送ったところ、ヤツシハゼ属の特徴を持ちながらも既知種とは明らかに異なる色彩を示しているとして、同日のうちに研究室へ持ち込まれることになりました。
研究室で精密に観察した結果、この個体は驚くほど特徴的な外観を示していることが明らかになりました。
ヒレに鮮やかな黄色の帯が走り、体側にも印象的な黄色模様が見られました。
この黄金色の帯や斑点の組み合わせは、スーパーサイヤ人の姿”を思わせるものでした。
スーパーサイヤ人は、髪が金色に逆立ち、体の周囲に強烈な光のオーラをまとう人気漫画『ドラゴンボール』の代表的な変身形態です。
劇中では戦闘力が大幅に上昇する象徴的な姿として描かれ、その黄金の輝きが世界的に知られています。
研究チームはこうした印象をそのまま反映させ、学名をVanderhorstia supersaiyan(ヴァンダーホルスティア・スーパーサイヤン)とし、標準和名としては電流が走るような模様から「エレキハゼ」を提案しました。
こうして1匹の釣果が、海の深部に潜む未知の生物多様性を照らし出すきっかけとなったのです。
では、具体的にスーパーサイヤンは他種とどう異なっているのでしょうか。
スーパーサイヤンは他のハゼと何が違う?
ヤツシハゼ属(Vanderhorstia)はこれまでに33種が報告され、そのうち32種が有効な種として認められています。
これらは浅海から深度120メートル前後まで広く分布していますが、今回発見されたVanderhorstia supersaiyanは既知のどれとも一致しませんでした。
決定的な特徴は、背鰭、臀鰭、尾鰭に走る2本の鮮黄色の縦帯で、この模様はヤツシハゼ属の中で唯一のものとされています。
また体側に並ぶ4つのダイヤ形斑や、頭部から背中に点在する黄色のスポット、第1背鰭の鮮やかな黄色斑と黄色の縁取りなど、色彩パターン全体が他の種とは完全に異なっていました。
さらに、研究チームは近縁の2種であるVanderhorstia attenuataとVanderhorstia vandersteeneと比較し、両者とは尾鰭の模様、背鰭棘の形態、体側の斑紋など多くの点で明確に異なることを示しています。
加えて、縦列鱗数が32と少ないことや、尾柄長が短いこと、眼径や吻長などの特徴も総合的に既知種と一致しておらず、分類学的に独立した種であることが裏付けられました。
さらに重要なのは生息水深です。
これまでヤツシハゼ属の最深記録は123メートルでしたが、スーパーサイヤンは210メートルから採集されており、属としての生息の深度の“常識”を大きく更新する発見となりました。
このことは、沖縄周辺のトワイライトゾーンに多くの未発見生物が潜んでいる可能性を示すものであり、この分野の新たな展開を促す重要な成果といえます。
科学の光が届いていない領域には、スーパーサイヤンのように、私たちが親しみを感じる姿の生き物たちが、今もひっそりと息づいているのかもしれません。
参考文献
新種の魚を発見!その名もスーパーサイヤン! ~石垣島沖から採集された新種のハゼに小枝助教らが命名~
https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/72516/
元論文
Vanderhorstia supersaiyan sp. nov. (Perciformes: Gobiidae) collected from the twilight zone off Ishigaki-jima Island, Okinawa, Japan
https://doi.org/10.1007/s10228-025-01047-6
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

