ゲームの女性キャラをセクシーにしても女性蔑視にはつながらないと判明

社会問題の原因の1つに「ゲーム」の影響が指摘されることがあります。しかし、実際ゲームにそんな影響力があるのでしょうか?

米国のステッソン大学(Stetson University)で行われた研究では、ゲームの女性キャラをセクシーに描いたとしても、プレイヤーの幸福度や精神状態には悪影響がみられず、女性差別や女性蔑視に関する行動を誘発することもないことが示されています。

「暴力的なゲームをすると暴力犯罪者になる」「性的なゲームをすると性犯罪者になる」という社会問題の原因をゲームの仮想体験に求める主張は、一見するとあり得そうにも思えます。

しかし人間の脳や精神は「〇〇をすると〇〇になる」が常に成立してしまうほど、単純な仕組みではないようです。

それなのになぜ、大きな社会問題が起こるたびに、ゲームを原因として上げる人々が一定数、登場するのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年10月に科学雑誌『Computers in Human Behavior』に掲載されています。

目次

  • ゲームの女性キャラをセクシーにしても女性蔑視にはつながらないと判明
  • ゲームを悪者にする主張は簡単に賛同者を得られる

ゲームの女性キャラをセクシーにしても女性蔑視にはつながらないと判明

ゲームにおいて女性キャラクターはしばしば「薄着すぎる」服を着てセクシーさが演出されます。

ゲーム機の性能があがるにつれて、それらの演出はよりリアルになり、キャラクターの姿や顔だちも本物の人間のように描かれるようになってきました。

そのため近年になって、ゲームに描かれる女性キャラクターのセクシーさが、現実世界の女性に悪影響を与えると主張する人々が増えはじめました。

彼らの主張によれば、ゲームに登場する女性キャラの多くは理想的な姿をセクシーな服で演出されることが多く、ゲームキャラとの比較で女性プレーヤーの心に傷がつき、自己肯定感や自らの体に対する満足感を低下させる危険性があるだけでなく、女性差別や女性蔑視を引き起こし、最悪の場合、うつ病や不安障害を発症させる危険性がある、とのこと。

そのため彼らは、ゲームに登場する女性キャラの服装を検閲し、プレーヤーの心を守る処置が必要であると結論しています。

多分にバイアスのかかった主張ではあるものの、類似した「ゲームが社会問題の原因」とする見解は古くから繰り返されてきました。

たとえば「暴力的なゲームをすると暴力犯罪者になる」という主張は、多くの人々が一度は聞いたことがあるものでしょう。

近年に行われた複数の研究では、ゲーム世界での暴力が現実世界での暴力性にはつながらないことが示されています。

例えば以下の研究では大ヒットした「GTA5」を使って、ゲームの暴力性が人間の心に与える長期的な影響について調べられました。

暴力的なゲームは「人間を攻撃的にしない」 独研究所

しかし「女性キャラのセクシーさがプレイヤーの心に傷を与えるか」を調べようとする研究者は極めて少なく、研究規模も小さなものばかりとなっていました。

そこで、ステッソン大学の研究者たちは、これまで行われた18の研究をまとめて、ゲームによってプレーヤーの幸福感の低下やうつ病や不安などの精神的な悪影響が起こるか、またゲームによりプレーヤーに女性差別的な態度が増加するかどうかを調べました。

結果、全く何の関係もないことが判明します。

セクシーなキャラと幸福度や自己肯定感、体に対する不満がどれだけ相関しているかを示すスコアは「0.082」であり、女性差別や女性嫌悪との関連に至っては「0.040」となっていました。

この数値は「1」に近いほど正の相関性(例えば正比例)が強く「0」では全く相関せず「-1」に近いほど負の相関(例えば逆比例)にあることを示します。

そのため「0,082」や「0.040」といった「0」に限りなく近い数値では、ほぼ関係なしとみなされます。

これらの結果から研究者たちは、ゲームの女性キャラクターがセクシーであっても、プレイヤーの精神状態が悪化したり、女性差別・女性蔑視的な態度が増加することもないと結論しました。

そうなると気になるのが、なぜ社会問題がおこるたびに、ゲームが原因と主張する人々が現れるのか? という点です。

ゲームを悪者にする主張は簡単に賛同者を得られる

なぜゲームを社会問題の原因と主張する人々がいるのか?

研究者たちによれば、社会問題の原因を「ゲーム」に押し付けることが、簡単であるからだと述べています。

社会問題を理解するのは非常に困難な一方で、刺激的なゲームのシーンを切り出して批判することは、直感的な好き嫌いに訴えかける、お手軽な手段となります。

ですが研究者たちは「簡単に(嘘だと)暴かれるような害を主張することは、やめたほうがいい」と述べています。

自分の気に入らないもの、嫌悪感を抱くものを、社会問題を利用して攻撃したいと思う気持ちは誰にでも起こり得ます。

しかしそのような批判はデータ分析によって簡単に嘘だと見抜かれてしまうからです。

研究者たちは最後に「フィクションが社会問題を引き起こすことはめったにない」と結論しています。

ただ、社会問題に無理に結びつけて主張するのでなければ、女性キャラにセクシーな服をきせたがる現在の傾向に賛同したくない人たちがいること自体は理解できると述べています。

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参考文献

Sexualized video games are not causing harm to male or female players, according to new research
https://www.psypost.org/2022/06/sexualized-video-games-are-not-causing-harm-to-male-or-female-players-according-to-new-research-63388

元論文

Does sexualization in video games cause harm in players? A meta-analytic examination
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0747563222001637

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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