世界遺産に指定された大自然の宝箱、ガラパゴス諸島。
この地で現在、当地生まれの小鳥によからぬ変化が起こっています。
イギリスのアングリア・ラスキン大学(ARU)の研究チームによると、黄色の美しい鳥「ガラパゴスキイロアメリカムシクイ」が、車の騒音によって、鳴き声や行動を大きく変えつつあるというのです。
なぜ、鳥たちは凶暴化してしまったのでしょうか。
研究の詳細は、2025年4月1日付の『Animal Behaviour』誌に掲載されました。
目次
- 「ガラパゴス諸島の人口増加」が小鳥に与える影響とは?
- ガラパゴス諸島の小鳥は「凶暴化」&「鳴き声が変化」している!原因は交通騒音だった
「ガラパゴス諸島の人口増加」が小鳥に与える影響とは?
ガラパゴス諸島は、エクアドル沖に位置する火山島群で、特異な生態系を育んできました。
しかし、近年では観光客数の急増とともに、定住人口も年間6%以上も増加しています。
この変化に応じてインフラ整備が進み、道路建設や車両数の増加が問題視されています。
例えばサンタクルス島では、1980年に23台しかなかった車両が2013年には1326台にまで増え、騒音公害が深刻化しました。

そんな中、注目が集まっているのが、ガラパゴス諸島の鳥、ガラパゴスキイロアメリカムシクイ(Setophaga petechia aureola)です。
この鳥は体長約12〜13cm、鮮やかな黄色の体色とオスの頭頂部に見られる赤褐色の斑点が特徴です。
昆虫やクモ、小型果実を食べる雑食性で、低木林やマングローブ林を中心に生息しています。
この種は、アメリカ大陸に生息する他のキイロアメリカムシクイとは遺伝的に異なっており、亜種に分類されています。
そしてこれらのオスは一年中、さえずりによって縄張りを防衛しており、さえずりは同種個体間の重要なコミュニケーション手段となっています。
歌声は、相手への威嚇や自己主張のためだけでなく、争いを未然に防ぐための情報交換でもあります。
しかし、近年の交通騒音によって、その大切なさえずりがかき消される事態が発生。
これにより、ガラパゴスキイロアメリカムシクイたちは自らの生存戦略を変えざるを得なくなっています。
どのように彼らが適応を迫られているのか、研究チームの報告を見てみましょう。
ガラパゴス諸島の小鳥は「凶暴化」&「鳴き声が変化」している!原因は交通騒音だった
2022年、イギリスびアングリア・ラスキン大学の研究チームは、サンタクルス島とフロレアナ島におけるガラパゴスキイロアメリカムシクイの縄張り計38カ所で実験を行いました。
実験では、録音された同種のさえずり音をスピーカーから流し、縄張り侵入のシミュレーションを実施しました。
そして、その一部には交通騒音を付加して比較検証しました。
ちなみに、それぞれの縄張りの位置は、20カ所が「道路から50m以内」であり、18カ所は「道路から100m以上離れた場所」でした。
その結果、道路に近い個体群は、騒音下でより攻撃的な行動を取りやすくなっていることが判明しました。
具体的には、スピーカーに対して急速に接近して威嚇行動を取り、時には物理的な戦闘を辞さない姿勢を見せました。

一方、道路から離れた個体群は、騒音下で逆に攻撃性が低下する傾向を示しました。
これは、騒音によって状況判断が困難になり、積極的な防衛を諦める行動変化と考えられています。
また、さえずりの内容にも変化が現れました。
両島の鳥たちは、道路から縄張りがどれだけ離れているかに関わりなく、騒音実験中に最低周波数をわずかに上げる傾向がありました。
鳥たちは騒音の中でも自分たちのさえずりが聞こえるよう調整していたのです。
さらに、サンタクルス島の個体は、騒音下で歌の長さをのばす行動も示しました。
彼らは、短いタイミングで途切れる交通騒音の隙間を狙って、自らのさえずりを効果的に伝えようとしていると考えられます。
こうした行動の変化は、生存のための柔軟な適応とも取れますが、どちらかというと、「本来の生態からの逸脱」の側面が強いと言えます。
ガラパゴス諸島という、かつては人間活動から隔絶された楽園でさえも、いまや人間の活動が野生動物の行動に重大な影響を与えています。
この研究は、我々人間の活動がたとえ僅かであっても、生態系にどれほど深い影響を及ぼすかを改めて考えさせるものとなりました。
参考文献
Galapagos birds exhibit ‘road rage’ due to noise
https://www.eurekalert.org/news-releases/1077403
元論文
Galápagos yellow warblers differ in behavioural plasticity in response to traffic noise depending on proximity to road
https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2025.123119
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部