「一度でいいからプロの漫才師みたいにボケてみたい、ツッコんでみたい」
そんな夢を叶える新しいエンターテインメントが誕生しました。
名古屋大学大学院 工学研究科の研究チームが開発したのは、まるでカラオケのように画面の指示に従うだけで本格的な漫才を演じられる「漫才カラオケ」というシステムです。
ネタの暗記も、絶妙な間や抑揚のセンスも不要。
誰でも“プロの漫才師になった気分”を手軽に味わうことができるこの新技術、あなたも体験してみたくありませんか?
研究の詳細は2025年8月22日付で科学雑誌『Entertainment Computing – ICEC 2025』に掲載されています。
目次
- 漫才を演じられる「漫才カラオケ」
- 演じる楽しさの拡張と、広がる応用の可能性
漫才を演じられる「漫才カラオケ」
漫才といえば、日本を代表する伝統的な演芸の一つです。
これまで多くの人にとって、その楽しみ方は「テレビや劇場で観るもの」でした。
しかし、近年はM-1グランプリにアマチュアが多数参加するなど、プロだけでなく「自分でやってみたい!」という声も高まっています。
とはいえ、いざ漫才を実演しようとすると、いくつものハードルが立ちはだかります。
ボケ・ツッコミそれぞれの台詞を丸暗記しなければいけない上に、タイミングや抑揚、絶妙な“間”、そして動きや表情といった非言語的な表現も求められます。
初心者にはこれが非常に難しく、多くの人が一歩を踏み出せない要因となっていました。
そこで登場したのが「漫才カラオケ」です。
名古屋大学の研究チームは、未経験者でも気軽に本格的な漫才を体験できる支援システム「漫才カラオケ」を開発しました。
このシステムの特徴は、2人組(ボケ役・ツッコミ役)がそれぞれの役割を分担し、画面に表示される台詞や抑揚、感情表現、動作の指示に従うだけで、本物さながらの漫才を演じられるという点です。

具体的には、台詞はもちろん、「このセリフは高めの声で!」「ここは喜びの表情で!」といった抑揚や感情もリアルタイムに表示されます。
さらに、タイミングバーに合わせて動作カードも提示されるため、発話や身振り手振りの“間”も自然に再現できます。
チームは、実際に未経験者10名を対象に「漫才カラオケ」を体験してもらう実験を行いました。
その結果、誰もがスムーズに漫才を実演できただけでなく、観客も「面白い」「上手だった」と高く評価し、実際に大きな笑いが巻き起こりました。
体験者からは「聴衆を笑わせるのは気持ちよかった」「自分が面白い人間になったような気がした」といった感想も寄せられました。
これまで“見る”側だった人たちも、“演じる”楽しさや快感を手軽に味わえる――そんな新時代が始まろうとしています。
演じる楽しさの拡張と、広がる応用の可能性
「漫才カラオケ」の意義は、単に“楽しく遊べる”というだけではありません。
このシステムは、エンターテインメントの楽しみ方そのものを大きく広げてくれる可能性を秘めています。
たとえば、カラオケボックスや飲み会、レクリエーションの場で、友人や同僚と一緒にプロ漫才師のネタを演じてみる体験が生まれるかもしれません。
また、学校の授業や企業の研修で、コミュニケーション能力や表現力の向上を目指すプログラムにも応用できそうです。
「ネタは面白いけど、自分たちにそんな芸は無理」と思っていた人にも、画面のサポートがあれば堂々と挑戦できます。
プロの漫才師が作ったネタを、素人が自分なりに演じて楽しめる――これは音楽カラオケが浸透した時のような大きな文化的インパクトになるかもしれません。
さらに、このシステムを応用すれば、プレゼンテーション練習や演技指導、外国語学習など、さまざまな分野に発展させることも期待されています。
実際、非言語的な動作や抑揚まで画面で指示できるシステムは、プレゼンや発表、コミュニケーションのトレーニングにも役立つと考えられています。
一方で、プロの漫才師や作家が長年かけて創り上げた「ネタ」を、他者がカラオケのように演じることには、権利処理や文化的配慮も必要です。
漫才カラオケが将来的にカラオケ店などに導入されれば、従来のカラオケ楽曲と同様に、ネタの権利を持つ漫才師や作家へ収益が還元される仕組みが生まれることも期待できます。
今後の普及には、ネタの権利者への収益還元や、クリエイターへのリスペクトが不可欠になるでしょう。
それでも「漫才カラオケ」は、漫才という日本独自のエンターテインメント文化に、新しい“参加型”の楽しみ方をもたらそうとしています。
参考文献
カラオケ感覚で漫才を演じられる「漫才カラオケ」開発! 画面の指示に従うだけでプロのようなボケ・ツッコミを体験
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/10/post-887.html
元論文
Manzai Karaoke: A Real-Time Visual Guidance System for Assisting Japanese Double Act Performance
https://doi.org/10.1007/978-3-032-02555-5_16
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部