約1億5000万年前、ある魚が死んだイカをうっかり飲み込もうとして絶命したようです。
このほど、ドイツ南部の有名な化石産地「ゾルンホーフェン石灰岩」で発見された魚の化石が、思いがけない事実を明かしています。
なんと魚の喉元にイカに似た絶滅生物「ベレムナイト」の死骸が詰まっていたのです。
この発見は、魚が本来の捕食対象ではないものを誤って飲み込んでしまい、窒息死していた可能性を示す極めて珍しい事例です。
研究の詳細は独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU)により、2025年5月8日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- ベレムナイトの「形」が命取りに?
- なぜべレムナイトを呑み込もうとしたのか?
ベレムナイトの「形」が命取りに?
今回注目されたのは「タルシス属(Tharsis)」というジュラ紀後期の海の繁栄した小型の硬骨魚です。
最大体長は約27cmほどですが、今回確認された個体は大人になる前段階にあり、体長は10cmほどでした。
彼らは主にプランクトンなどの小さな生き物を吸い込んで捕食していたとされます。
本調査では、このタルシスの化石がベレムナイトの化石とセットで見つかりました。
ベレムナイトとは、古代のイカの仲間のような頭足類で、胴体に「ロストラム」と呼ばれる円錐形の硬い骨格を持っていました。

複数の標本で確認されたのは、ベレムナイトのロストラムがタルシスの口に刺さり、喉に詰まっていたという驚くべき状態。
しかもベレムナイトの“尾”の先端がエラから突き出ていたものもあり、苦しみながら排出しようとした様子がうかがえます。
このロストラムは先端が細く、その後すぐに太くなる「弾頭型(hastate)」の形をしており、タルシスが呑み込もうとすると途中まではするりと入るものの、途中で胴体が太くなって詰まる構造になっていました。
つまり、餌と間違えて吸い込んでしまったが最後、吐き出すことも、噛み砕くこともできず、窒息してしまったと考えられるのです。
なぜべレムナイトを呑み込もうとしたのか?

そもそも、タルシスのような魚がなぜベレムナイトを餌と勘違いしてしまったのでしょうか?
鍵を握るのは、ベレムナイトが死後も長時間、海面に浮かんでいたという事実です。
研究によれば、ゾルンホーフェンの化石から見つかるベレムナイトの多くには、二枚貝が付着しており、死骸が水中を漂っていたことがわかっています。
このような漂流死骸は、やがて表面に藻類やバクテリアが繁殖し、ぬめりと匂いを持つようになります。
タルシスは、そうした浮遊物から腐敗した組織や微生物マットを吸い取る習性を持っていたとされており、死んだベレムナイトの表面を“餌のある場所”と誤認して吸い付いたと考えられます。
これは現代の魚が藻類に覆われたプラスチックごみを餌と間違えて飲み込んでしまうのと、驚くほどよく似た現象です。
さらに、タルシスのような魚は吸い込み型の摂食を行いますが、歯が小さく、餌を噛み切ることができません。
いったん口の奥まで吸い込んでしまうと、後戻りできない“誤飲の罠”にかかってしまうのです。
今回の研究は、現代の海洋プラスチック問題と驚くほど共通する構図を持っています。
古代の魚たちにも、本来は食べるべきでないものを誤って食べて、命を落とすケースがあったようです。
参考文献
Jurassic fish choked to death on squid-like cephalopods, fossil study reveals
https://phys.org/news/2025-07-jurassic-fish-death-squid-cephalopods.html
元論文
Jurassic fish choking on floating belemnites
https://doi.org/10.1038/s41598-025-00163-7
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部