ほぼすべての子供が「娯楽としての恐怖」を楽しんでいると判明

ジェットコースターやお化け屋敷、肝試しやホラー映画など、私たちは「怖いけど楽しい」体験に自然と惹かれることがよくあります。

大人だけでなく、子どももこの「ドキドキ」と「ワクワク」が入り混じった感情を味わっているのでしょうか。

あるいは、子どもは単純に怖いものが苦手で、大きくなってから“恐怖を楽しめる”ようになるのでしょうか。

この素朴な疑問を解明するため、デンマークのオーフス大学(Aarhus University)の研究チームは、1歳から17歳の子どもが「どれほど怖いことを楽しんでいるのか」を大規模に調査しました。

この研究は2025年6月16日付で、『Child Psychiatry & Human Development』誌に掲載されました。

目次

  • 私たちの「怖いけど楽しい」感覚は、いつから?
  • 93%の子どもが「怖いけど楽しい」活動を体験している

私たちの「怖いけど楽しい」感覚は、いつから?

恐怖という感情は、本来「危険を回避するためのネガティブな反応」として広く認識されています。

実際、何か危険を感じたときには、体が思わず反応し、「逃げる」「戦う」「固まる」といった行動につながります。

しかし現実には、怖い話を聞いたり、お化け屋敷に入ったり、鬼ごっこで追いかけられたりと、私たちは“怖さ”そのものをあえて楽しむ場面がたくさんあります。

この「怖いけど楽しい」という体験は、科学的には「recreational fear(娯楽としての恐怖)」と呼ばれています。

大人の場合は、ホラー映画や絶叫マシン、都市伝説や肝試しといったテーマで多くの研究が行われてきました。

しかし子どもがどのように“怖さ”を楽しんでいるのか、その全体像はこれまで詳しく調べられていませんでした。

過去の多くの研究は、「恐怖が子どもに悪影響を及ぼすかどうか」、たとえば悪夢や不安障害を引き起こすのかという観点から行われてきました。

一方で、適度な怖さを体験することが、子どもの心の成長や気持ちのコントロール、嫌な気持ちとうまく付き合う力を育てるのではないかという考えも長年語られてきました。

では、本当に子どもは“怖いこと”を楽しんでいるのでしょうか。

どんな遊びを、どのような頻度で、どんな相手と楽しんでいるのでしょうか。

そして年齢とともに、楽しみ方や感じ方はどのように変化するのでしょうか。

今回のオーフス大学の研究チームは、こうした問いに答えるため、デンマーク全土から1歳から17歳の子どもを持つ親や保護者1600人を対象に大規模なアンケート調査を実施しました。

まず研究チームは、親や子ども、教育者へのヒアリングを通じて、「怖いけど楽しい遊び」とは何かを徹底的にリストアップしました。

その結果、全部で19カテゴリー活動が抽出されました。

例えば、鬼ごっこ、怖い話、ホラー映画、高いところや速い動きの遊び、暗い場所の探検、怖いビデオゲーム、いたずらやルール違反など、バリエーションは非常に多岐にわたります。

アンケートでは、それぞれの活動について、子どもが本当に楽しんでいるか、どのくらいの頻度で行うか、誰と一緒に行うか、どこで行うかといった点を詳しく尋ねました。

また、「怖いけど楽しい」という定義が親たちにきちんと伝わっているかどうかも事前にクイズ形式でチェックし、単なる“怖いだけ”や“楽しいだけ”の体験を区別できるよう配慮しました。

こうした入念な設計によって、初めて「子どもの“怖いのに楽しい”体験」の全体像が明らかになりました。

93%の子どもが「怖いけど楽しい」活動を体験している

調査では、全体の93%の子どもが「少なくとも1つは怖いけど楽しい体験をしている」と親が回答しました。

ほぼすべての子どもが、「娯楽としての恐怖」を楽しんでいたのです。

さらに、週に1回以上そのような体験をする子どもは70%にのぼり、20%はほぼ毎日“怖いけど楽しい”遊びを楽しんでいることが分かりました。

特に人気が高かったのは、ブランコや滑り台、スケートボード、遊園地の乗り物など、速い動きや高い場所、深い場所で遊ぶ体験です。

その次に、怖い映画やテレビ、怖い物語の読み聞かせ、鬼ごっこやルールのある遊び、怖いビデオゲームなどが続きました。

一方で、痛みを伴う活動やルール違反といった一部の特殊な体験を楽しむ子どもは少数でした。

また、年齢による変化もはっきりと現れました。

1歳から4歳ごろの幼児期は、怖いテーマのごっこ遊びや家族や兄弟と一緒に身体を使って遊ぶ活動が中心となっていました。

小学生以降は、活動の種類がやや減るものの、ホラー映画やゲームなど、メディアを使った活動が増えていきます。

思春期以降は、友達や一人で体験する割合が増え、親が「どこで」「誰と」やっているかを把握しきれないケースも増加します。

活動場所についても、幼い時期は家庭や学校が中心ですが、年齢が上がるにつれて屋外や遊園地、SNSなど、体験する場所の幅も広がっていくことがわかりました。

では、なぜ子どもたちは「怖いけど楽しい」体験を求めるのでしょうか。

研究チームは、こうした体験が「安心できる場所で気持ちを上手に調整する練習の場」として大切なのではないかと考えています。

たとえば、怖い映画を観ているときに耳をふさいだり、怖い部分では目を閉じるなど、子どもたちは自分なりに怖さと付き合う方法を自然に身につけていきます。

また、親や友達と一緒に体験することで、怖さや驚きを分かち合い、仲間とのつながりや安心感も育まれていきます。

こうした遊びを繰り返すことで、嫌な気持ちになったときも自分で気分を切り替えたり、不安な気持ちをやわらげたりできる力がつく可能性もあると考えられています。

ただし、今回の調査にはいくつかの限界もあります。

今回の調査は親や保護者の視点に基づいているため、特に思春期や“ルール違反系”の活動については、実際よりも過小評価されているかもしれません。

また、調査が行われたデンマークという比較的安全で自由な文化圏の結果であり、他の国や文化では異なる傾向がみられる可能性も考慮する必要があります。

研究チームは、今後は子ども本人の声を聞く調査や、さまざまな国や文化を対象とした比較研究が必要だと提言しています。

「怖いのに楽しい」という感情は、ほぼすべての子どもにとってごく普通で、成長に欠かせない経験だということが、この研究から明らかになりました。

子どもの“ちょうどいい怖さ”を見守り、上手に楽しむ力を伸ばすことが、健やかな成長を支える大切な鍵になるのかもしれません。

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参考文献

The psychology of scary fun: New study reveals nearly all children enjoy “recreational fear”
https://www.psypost.org/the-psychology-of-scary-fun-new-study-reveals-nearly-all-children-enjoy-recreational-fear/

元論文

Recreational Fear Across Childhood. A Cross-Sectional Study of Scary Activities that Children Enjoy
https://doi.org/10.1007/s10578-025-01850-2

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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