なぜ夜になっても脳のスイッチを「オフにできない」人がいるのか

夜になっても頭の中の思考が止まらず、ベッドの中で延々と雑念がつづく。

「不眠症」の人たちは、日常的にこのような経験をしています。

布団に入ったのに、なぜか昼間のように次から次へと考えが浮かんできて、なかなか眠りに落ちることができません。

この「脳のスイッチが切れない」悩みの背後に、私たちの体内時計や脳の働き方に深い秘密が隠されていることが、南オーストラリア大学(USA)の研究で明らかになりました。

研究の詳細は2025年10月29日付で学術誌『Sleep Medicine』に掲載されています。

目次

  • 夜に“切り替えられない”脳、不眠症の人に共通する特徴とは?
  • 原因は「体内時計」と「思考のクセ」

夜に“切り替えられない”脳、不眠症の人に共通する特徴とは?

研究チームは今回、不眠症のなかでも「睡眠維持障害」(一度眠っても途中で何度も目が覚めてしまうタイプ)の高齢者16人と、同年代の健康な睡眠者16人を比較し、彼らが24時間ベッド上で起き続けるという特別な実験を行いました。

この実験では、被験者を外部の刺激や行動リズムから隔離し、純粋に脳の内部リズムだけを観察します。

参加者たちは1時間ごとに、思考の内容や感情、コントロール感など8つの質問に答え続けました。

その結果、健康な睡眠者も不眠症の人も、思考や感情の活動には「24時間リズム(概日リズム)」が存在することが確認されました。

例えば、健康な睡眠者では、日中には問題解決型の思考が活発になり、夜や早朝にはだんだん夢のようなイメージや非現実的な思考へと移行しやすくなっていたのです。

しかし、不眠症の人たちには大きな違いがありました。

彼らは夜になっても「連続的な思考(次々と展開する頭の中の流れ)」が持続しやすく、しかもそのピークは健康な人より約6時間半も遅れていました。

また「現実から夢の世界への切り替え幅」が小さく、脳が本来“静まる”はずの夜になっても、日中のような思考パターンを引きずってしまっていたのです。

さらに、自分の思考をコントロールする感覚も夜間に十分低下せず、「頭がオフにならない」状態が続いていました。

原因は「体内時計」と「思考のクセ」

なぜ、不眠症の人の脳は夜にスイッチが切れないのでしょうか。

この研究では、脳の24時間リズムの「波の高さ(振幅)」が不眠症群で小さいことも明らかになりました。

本来なら昼と夜でメリハリがつくはずの脳の活動が、「ぼんやりとした平坦なリズム」になってしまうことで、昼の興奮が夜にも残りやすくなっていたのです。

この「リズムの異常」には、加齢や生活習慣、そして不眠症そのものの影響が複雑に絡み合っています。

さらに、不眠症の人に特徴的な「連続的な思考(頭の中で次々と考えがつながる)」は、もともと不安やうつ傾向と関係が深く、夜間でも「考えが止まらない」状態を生み出す一因と考えられます。

この状態は、脳の前頭葉の過活動と関連し、睡眠への“切り替え”が上手くできない神経メカニズムとも結びついています。

このような発見は、不眠症の治療に新たなヒントを与えます。

たとえば、昼間に強い光を浴びる、規則正しい生活リズムを心がける、夜間の思考パターンを意識的に断ち切るための「マインドフルネス」や「認知行動療法」などが有効である可能性があります。

「脳が夜にオフになれない」現象の背景には、体内時計のリズム異常と、考えごとの連鎖という2つの壁が立ちはだかっているのです。

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参考文献

New study shows why some minds can’t switch off at night
https://medicalxpress.com/news/2025-11-minds-night.html

元論文

Cognitive-affective disengagement: 24h rhythm in insomniacs versus healthy good sleepers
https://doi.org/10.1016/j.sleep.2025.106881

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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