「頭を良くするには勉強や運動が大事」とよく言われます。
しかし近年の研究によれば、なんと「ある花の香りを毎日嗅ぐだけで、脳の灰白質が増える」という驚きの効果が確認されました。
その香りとは「バラ」です。
脳の中身そのものが香りで変わる。そんな夢のような話が、科学的に裏づけられつつあるのです。
研究の詳細は2024年3月の科学雑誌『Brain Research Bulletin』に掲載されています。
目次
- バラの香りが脳を変える?実験の舞台裏
- 脳容積の増加と認知症予防への可能性
バラの香りが脳を変える?実験の舞台裏

研究を行ったのは、京都大学と筑波大学の研究チームです。
彼らは「アロマセラピー」と呼ばれる香りの健康効果に注目しました。
アロマセラピーは植物から抽出した精油を用いて心身を整える伝統的な方法で、リラックスや気分の改善に役立つとされてきました。
しかしこれまでの多くの研究は、香りを一時的に嗅いだときの脳の反応を調べたものでした。
香りを「長期間嗅ぎ続けたとき」に脳の構造そのものが変化するかどうかは、ほとんど分かっていませんでした。
そこで研究者たちは、健康な41~69歳の女性50人を対象に実験を実施。
参加者を2つのグループに分け、一方には「バラの精油(0.5%に希釈)」を、もう一方には「水」をそれぞれ衣服に1日2回滴下して1か月間過ごしてもらったのです。
つまり、日常生活の中で自然に香りを吸い続けるように仕掛けたわけです。
実験の前後には磁気共鳴画像(MRI)で脳をスキャンし、灰白質(神経細胞の集まりで、記憶や思考に深く関与する領域)の体積を比較しました。
脳容積の増加と認知症予防への可能性
驚くべきことに、バラの香りを嗅ぎ続けたグループでは、脳全体の灰白(かいはく)質の容積が有意に増加していたのです。
さらに、記憶や連想に関わる「後帯状皮質(PCC)」と呼ばれる領域で、特に顕著な増加が確認されました。
一方で、感情をつかさどる「扁桃体」や、快い匂いを処理する「眼窩前頭皮質(OFC)」には大きな変化は見られませんでした。
この結果は、香りを継続的に嗅ぎ続けることで、脳の中でも特に記憶や情報処理に関わる部位が刺激され続け、構造的な変化につながった可能性を示しています。
研究者らはまた別の解釈も提示しています。
バラの香りを常に感じ続けることで、扁桃体が「もう匂いに注意を向ける必要がない」と活動を抑える一方、後帯状皮質はその匂いに関する記憶や意味づけを処理し続けたため、より活性化したのではないかというのです。
さらに重要なのは、この後帯状皮質がアルツハイマー病患者で萎縮することが知られている部位だという点です。
香りによる持続的な刺激が、この領域を活発に保ち、認知症の予防に役立つ可能性があると研究者たちは期待を寄せています。
もちろん、「脳の容積が増えた=知能が上がる」と単純に結論づけることはできません。
またこの研究は女性のみを対象とし、使用した香りもバラに限定されていました。
こうした点から、今後は男女を含めた大規模な検証や、さまざまな香りを用いた実験が必要とされています。
「香りを嗅ぐだけで脳が大きくなる」という発見は、にわかには信じがたいかもしれません。
しかし日常の中で手軽に取り入れられるアロマが、将来の認知症予防や脳の健康維持に役立つ可能性があるとしたら、これはとても希望の持てる話です。
私たちの脳は、思っている以上に“香り”に敏感で、柔軟に変化できるのかもしれませんね。
参考文献
Smelling This One Specific Scent Can Boost The Brain’s Gray Matter
https://www.sciencealert.com/smelling-this-one-specific-scent-can-boost-the-brains-gray-matter
元論文
Continuous inhalation of essential oil increases gray matter volume
https://doi.org/10.1016/j.brainresbull.2024.110896
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部