「うちの犬、食欲がすごいんだけど、私に似たのかな?」
そんな冗談を言ったことがある人もいるかもしれません。
実は、その冗談が科学的に正しい可能性があることが最新の研究で明らかになりました。
イギリスのケンブリッジ大学(University of Cambridge)の研究によると、犬のラブラドール・レトリーバーと人間は、肥満に関係する共通の遺伝子を持っていることがわかりました。
この発見により、なぜ私たちやイヌたちが太りやすいのか、そのメカニズムがより明確になりつつあります。
この研究の成果は、2025年3月6日付の科学誌『Science』に掲載されました。
目次
- ラブラドールと人間の両方で肥満に関連する遺伝子を発見
- 太りやすい遺伝子を持っているからこそ「適切な食事管理と運動」が大切
ラブラドールと人間の両方で肥満に関連する遺伝子を発見
ラブラドール・レトリバーは世界中で人気のある犬種ですが、実は他の犬種と比べて太りやすいことが知られています。
飼い主がしっかり管理しないと、すぐに体重が増えてしまう傾向があります。
今回の研究では、イヌの太りやすさの原因を探るために、遺伝子解析が行われました。

その結果、ラブラドールには肥満に関与する5つの遺伝子グループがあり、その中でも「DENND1B」が重要な役割を果たしていることが判明しました。
さらに驚くべきことに、人間もこのDENND1B遺伝子と他の4つの遺伝子を持っており、肥満とも関係していると分かりました。
DENND1B は、体内のエネルギーバランスの調整を担う脳の経路「レプチン メラノコルチン経路(leptin melanocortin pathway)」に直接影響を及ぼします。
結果として、食事への執着が強くなり、必要以上に食べ続けてしまいます。
つまり、ラブラドールが食いしん坊なのは、これらの遺伝子が大きな影響を与えているからなのです。
では、今回の発見はラブラドールや私たち人間のダイエットに役立つでしょうか。
太りやすい遺伝子を持っているからこそ「適切な食事管理と運動」が大切
今回の研究結果は、私たちの日常生活にどのような影響を与えるのでしょうか。
一見すると、この遺伝子を標的とした新しい肥満治療薬が登場する可能性があると思われるかもしれません。
しかし研究者たちは、DENND1Bが直接的な減量薬のターゲットにはならないと指摘しています。
彼らはその理由について、「これらの遺伝子は、干渉されるべきでない他の重要な生物学的プロセスを制御しているため」と説明しています。

むしろ、この発見は「遺伝的に太りやすいなら、より一層の努力と注意が必要である」ことを示しています。
つまり、「肥満の遺伝的要因があるから仕方がない」と考えるのではなく、愛犬や自分の体質を理解し、それに合った生活習慣を意識することが重要だということです。
食事の量や内容を慎重に選び、定期的な運動を継続し、睡眠やストレス管理を適切に行うことが、遺伝的に太りやすいイヌや人にとって特に重要になります。
実際、愛犬の食事と運動を適切に管理できる注意深い飼い主は、遺伝的リスクが高いとしても肥満を防ぐことができていました。
もし、食欲旺盛な愛犬を見て「飼い主に似たのかな」と感じるのであれば、遺伝的要因に負けてしまわないよう、愛犬と一緒に適切な運動と食事を心がけてみてください。
参考文献
Scientists identify genes that make humans and Labradors more likely to become obese
https://www.cam.ac.uk/research/news/scientists-identify-genes-that-make-humans-and-labradors-more-likely-to-become-obese
Humans and Labradors share genes that predisposes them to obesity
https://newatlas.com/pets/humans-labradors-share-genes-obesity/
元論文
Canine genome-wide association study identifies DENND1B as an obesity gene in dogs and humans
http://dx.doi.org/10.1126/science.ads2145
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部