ウクライナにおけるドローン部隊は、より戦果を挙げるため、ゲーム的なシステムを取り入れているようです。
ウクライナ政府の公式発表や国際的な報道によると、ドローンによる攻撃や偵察の成果がポイントとして数値化され、そのポイントを使って新たな兵器や装備をオンラインストアで獲得できるシステムが運用されています。
また総ポイント数によって各部隊はランキングで競うようにもなっています。
まさに戦争のゲーム化です。
目次
- 敵撃破でポイント入手し強化、ランキング上位へ……戦争のゲーム化が始まる
- 「戦争のゲーム化」が”戦果の向上”と”倫理的な問い”をもたらす
敵撃破でポイント入手し強化、ランキング上位へ……戦争のゲーム化が始まる
現代の多くのゲームでは、プレイヤーがミッションやバトルに成功するとポイントやスコアが手に入り、それを使って新しい武器やキャラクターをアンロックできる仕組みが導入されています。
ゲーム好きなら馴染み深いシステムですね。
「頑張ってポイントを稼いで強化し、さらにポイントを荒稼ぎする」感覚は、プレイヤーを一層ゲームに熱中させます。
そしてこの手法は、仕事や学習、運動など、さまざまな現実の分野に応用されており、近年では戦争にも組み込まれているようです。
ウクライナ軍が導入した「Army of Drones Bonus System(ドローン軍ボーナス制度)」は、このゲーム的なやる気アップの仕組みを戦争の現場に持ち込んだものです。
ドローン部隊は、ロシア兵を倒したり、戦車を破壊したり、敵兵を捕虜にしたり、敵の位置を特定したりすると、その都度、明確なポイントが与えられます。
例えば、ロシア兵を1人倒すと12ポイント、敵ドローン操縦者を倒すと25ポイント、捕虜の確保なら120ポイント、戦車を破壊すれば40ポイント、ロケット砲の撃破では70ポイントが与えられます。
こうして手に入れたポイントは、Brave1という“Amazon”のようなオンライン軍事ストアで使用できます。
ドローンや爆薬、高性能の光学機器や電子戦装備など、100種類以上の兵器や装備を自分たちで選んで即座に入手することが可能です。
さらに、各部隊の戦果やポイント数は「リーダーボード」として全国的に公開されていて、それぞれの部隊が上位を競い合っています。
兵士たちは日々ノートパソコンやスマートフォンを手に、ゲームコントローラーを使ってドローンを直感的に操作しています。
攻撃や偵察の成果は必ず動画で記録され、中央司令部に送信して審査され、承認されるとポイントが加算されます。
また、兵士たちが「Uberターゲッティング」と呼ぶ新しい標的指定法も導入されています。
これは、地図上にピンを落とすだけで、他部隊のドローンがその地点を攻撃してくれるという、まさに配車アプリと戦場が融合したような新しいシステムです。
このように、ゲーム的な仕組みが前線に導入されたことで、成果を上げた部隊は即座に装備を手に入れられるだけでなく、仲間同士や部隊同士で競い合いながら技術や戦意を高めることができるようになりました。
まさに「戦争のゲーム化」です。
では、このシステムは部隊にどんな影響を及ぼしているのでしょうか。
「戦争のゲーム化」が”戦果の向上”と”倫理的な問い”をもたらす
ウクライナ軍がこのポイント制システムを導入した背景には、限られた資源と人員の中で現場の効率と創意工夫を最大化したいという強い思いがあります。
従来の軍隊では、上層部が計画を立て、現場に命令し、評価を経てから装備を配給するという流れでしたが、そこにはどうしてもタイムラグや現場の声が反映されにくいという課題がありました。
この新しいシステムによって、各部隊は自分たちの成果に応じて、すぐに必要な装備を自分で選んで入手できるようになりました。
現場の兵士たちは、日々ランキング上位を目指して競争しながらも、緊急時には一致団結して連携し合う柔軟な姿勢を持っています。
ちなみに、若い世代がゲームに慣れているからドローン操縦に強いと思われがちですが、実際の現場では、「ゲーム好き」かどうかよりも、もっと別の性質が重要なようです。
指揮官は「最も優れた操縦者は規律正しく、長時間の緊張にも耐えられる人物だ」とコメントしています。
そして、このポイント制度は、戦果の記録や座標、使用した装備のデータがリアルタイムで中央に集約され、どの装備や戦術が最も効果的かを科学的に解析することにも役立っています。
AI制御のドローンや自動運転の補給車両、敵の位置特定や攻撃の精度最適化など、技術の進化もこの仕組みを通じて現場に急速に拡大しているのです。
とはいえ、当然ながら、こうした仕組みには無視できない倫理的・社会的な課題があります。
まず、ポイント表には「敵兵1人=12ポイント」「捕虜1人=120ポイント」といった形で、人命や行動に明確な値段がついています。
副首相のフェドロフ氏は「ほとんど感情は介在しない。これは効率を追求するための技術的な作業だ」と述べていますが、戦争そのものがスコアや効率だけで語られることの危うさは否定できません。
また、ドローンやAI兵器に頼りすぎることで、誤爆や市民被害のリスク、システムの脆弱性など新たな問題も生まれています。
戦争は悲惨で人間の命や尊厳に深く関わるものです。
ウクライナで導入されたポイント制ドローン戦は、現場主導と効率化を飛躍的に高めましたが、同時に戦争の人間性や倫理といった根本的な問いを私たちに突きつけているのです。
参考文献
https://www.zmescience.com/science/news-science/the-war-that-plays-like-a-video-game-inside-ukraines-deadly-drone-gamification/
Ukrainian computer game-style drone attack system goes ‘viral’
https://www.theguardian.com/world/2025/nov/03/ukrainian-computer-game-style-drone-attack-system-goes-viral
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

