『便秘は食物繊維でOK』ではなかった:最新分析で「効く食品」を精査

健康

イギリスのキングス・カレッジ・ロンドン(KCL)の研究チームが行った最新の研究によって、これまで便秘のケアとしてよく言われてきた「便秘ならとりあえず食物繊維と水分をたっぷり摂れば良い」という常識が、実は科学的な裏付けが不十分なまま広まっていたことが分かりました。

研究では世界中の75件もの便秘改善に関する研究データを徹底的に調べ直し、その結果、その結果、「食物繊維ならなんでも効く」というわけではなく、効果がしっかり認められた食品やサプリは限られていることが明らかになったのです。

具体的には、オオバコ由来の繊維(サイリウム)、キウイ、マグネシウムをたっぷり含む硬水などが便秘改善に特に効果が高く、こうした「効きやすい食品や飲み物を科学的に選んで摂ることが大切だ」と研究者たちは結論付けています。

私たちがこれまで信じてきた便秘ケアの「常識」は、本当に見直されることになるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年10月13日に『Neurogastroenterology & Motility』にて発表されました。

目次

  • 『繊維神話』を科学が覆す。本当に便秘に効く食べ物は?
  • 『とりあえず繊維』は間違い? 科学的に正しい便秘ケアの選び方
  • まとめ:便秘対策は『繊維だけ』の時代から『選ぶ時代』へ

『繊維神話』を科学が覆す。本当に便秘に効く食べ物は?

『繊維神話』を科学が覆す。本当に便秘に効く食べ物は?
『繊維神話』を科学が覆す。本当に便秘に効く食べ物は? / Credit:Canva

「便秘になったら、とりあえず食物繊維を摂りなさい」。

このフレーズ、誰でも一度くらいは聞いたことがありますよね。

学校の保健室でも病院でも、便秘の相談をすると、まず言われるのはだいたいこれです。

食物繊維というのは簡単に言えば、食べても人間の体で消化されない成分のことです。

この消化できない繊維は便に混ざってその量を増やすので、「便のかさ」が増えることで腸の動きが活発になり、便秘が改善されると言われています。

だから、便秘の人は野菜サラダを山ほど食べたり、野菜ジュースをガブガブ飲んだり、食パンは「全粒粉入り」や「ブラン(ふすま)入り」を選んだりと、とにかく食物繊維を積極的に摂るようにアドバイスされてきました。

ところが現実はそう甘くありません。

実際にやってみると「繊維だけ頑張って摂っても全然効かない!」という話はよくあります。

お腹の調子は一向に良くならず、「ほんとに繊維って便秘に効いてる?」と疑問に感じている人は多いでしょう。

事実、慢性的な便秘(長く続いている便秘)に悩む患者さんの中には、食物繊維をいくら摂ってもなかなか改善せず、満足できない人が過半数を超えるという調査報告まであるくらいです。

ちょっと意外かもしれませんが、便秘というのは実はとてもやっかいな症状です。

ただお腹が張るとか痛いだけでなく、体が重くだるくなり、集中力まで落ちてしまいます。

その結果、仕事や学校生活のパフォーマンスも下がり、実際に経済的な損失につながることすらあります。

さらには、慢性的な便秘のために病院に通い続けると、そのぶん医療費もかさんでしまいます。

だから、誰もが「なるべく薬に頼らず、食生活の工夫だけでなんとか便秘を治したい!」と考えるわけですね。

ところが、これまでの医療ガイドライン(医療現場での治療の基準)では、便秘への食事療法はなぜか非常にざっくりしたものでした。

「とりあえず繊維と水分を増やしましょう」という、ちょっと漠然としたアドバイスが中心だったんですね。

具体的な食品や飲み物の指示がなかったため、繊維をとっても便秘が治らないと困っている人は実際にとても多かったのです。

そもそも、なぜこの「とりあえず繊維と水分」が常識になったのかというと、生理学的には一応ちゃんとした理由があるのです。

食物繊維が便のかさを増やし、水分をとることで便が柔らかくなる、というのは確かに間違いではありません。

直感的にも、便の量が増えて柔らかくなれば出やすくなるだろう、と誰でもイメージしやすいですよね。

でも、科学の世界では「理屈として正しそう」と、「実際に効果があること」はまったくの別物です。

これまで便秘と繊維の関係を調べる研究はいくつもありましたが、それぞれ小規模で、しかも研究のやり方がバラバラでした。

実際の効果をちゃんと調べるには、患者さんを無作為にグループ分けして比べる「RCT(ランダム化比較試験)」という厳密な方法が必要なのですが、これが十分には行われていなかったのです。

つまり、「とりあえず繊維が便秘に効く」という常識は、ちゃんとした科学的な裏付けがないまま広まってしまったわけですね。

これはいわば、「効きそう」というイメージだけが独り歩きした『繊維神話』みたいなものです。

長年、この常識が中途半端なままで止まっていた背景には、こうした研究の不統一とRCT(ランダム化比較試験)試験の不足がありました。

そこで、今回の研究チームは、この曖昧な便秘ケアの常識に真正面から挑みました。

研究チームを率いたのは、イギリス屈指の名門、キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)の科学者たちです。

彼らは世界中の便秘研究をくまなく集め、膨大なデータをもう一度ゼロから見直すことにしたのです。

食物繊維や水分は、本当に便秘改善に役立つのか?

もし繊維や水分以外にもっと効果的な食品や方法があるならば、それはいったい何なのか?

こうした「常識の壁」を超えるために、科学者たちは本気のチャレンジを開始したのです。

『とりあえず繊維』は間違い? 科学的に正しい便秘ケアの選び方

『とりあえず繊維』は間違い? 科学的に正しい便秘ケアの選び方
『とりあえず繊維』は間違い? 科学的に正しい便秘ケアの選び方 / Credit:Canva

「便秘になったらとりあえず食物繊維」──こんな常識は、本当に正しかったのでしょうか?

前のセクションで見たように、昔ながらの「繊維神話」は少し揺らぎ始めています。

そこで研究チームは、世界中でこれまでに実施された便秘ケアに関する75件もの研究を丁寧に集めました。

ただ集めるだけではありません。

この膨大なデータを比較・分析し、本当に「効果あり!」と言える食品やサプリだけを厳選しようと考えました。

「メタ解析」と呼ばれるこの方法は、ざっくり言うと「個々の研究結果を寄せ集めて再評価し、信頼できる結論を導き出す」科学的なテクニックです。

今回は専門家がデータを細かくチェックして、本当に便秘改善の効果が認められた食品やサプリメントを厳選しました。

その結果を、医療現場でも役立つように、59項目のガイドラインとしてまとめ上げました。

さて気になるのは、実際に「本当に効いた」と認められた食べ物や飲み物はいったい何だったのか、ですよね。

まず最初に意外にも名前が挙がったのが、みなさんもスーパーで見かける「キウイフルーツ」です。

キウイはおいしいだけではなく、便秘にも実際に効果を発揮することが今回のデータで確認されました。

1日に2〜3個のキウイを食べ続けたところ、平均で週あたりの排便回数が約0.36回増えるという結果が出ました。

たった0.36回というと少ないようですが、これは一般的に便秘解消に使われる「サイリウム(オオバコ由来の食物繊維)」と比べてもほぼ同じくらいか、少し上回る効果だったのです。

とはいえ、キウイが万能というわけではありません。

便秘で悩む人の中には、「便がすっきり出切った感じがしない」という、いわゆる「残便感」を持つ人が多くいます。

この「残便感」の改善については、キウイの果実そのものではあまりはっきりとした効果が見られず、キウイから抽出したサプリメントタイプであっても効果はやや控えめでした。

つまり、キウイは「便がスムーズに出る回数を増やしたい」人には特におすすめできますが、残便感の解消を期待して食べるのはちょっと難しいかもしれません。

次にしっかりと効果が証明されたのが、今少し触れた「サイリウム(オオバコ繊維)」です。

「やっぱり繊維効くんじゃん」と思った方、ここで大事なポイントがあります。

「繊維なら何でも効く」のではなく、「便秘に効果があると明確に確認されているのは、主にオオバコ由来の食物繊維(サイリウム)だった」ということなんです。

サイリウムはさまざまな研究で、便を柔らかくしたり、便の量を増やしたりといった便秘改善効果がはっきり示されていて、今回の分析でも最も強く推奨される食品の一つになりました。

最近、スーパーや薬局でも人気の「プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌)」も一応、便秘への効果が認められています。

とは言っても、プロバイオティクスが効くかどうかは実は微妙で、どの菌でも便秘がスッキリ解消するわけではありませんでした。

腸内環境を整えるのに有効なのは、数多くある乳酸菌やビフィズス菌の中でも限られた一部の菌株だけ。

しかもその効果の大きさはあまり大きくなく、「効く人には効くけれど、効果は控えめ」といったところでしょうか。

(※菌株の名指し推奨にはまだ至らないもののいくつかの有名株で“効く可能性”のデータが積み上がりつつあるという状況です。ただ近年の研究ではビフィズス菌HN019株、ビフィズス菌BB-12株、ビフィズス菌DN-173010株(ダノン菌)、ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株(通称ヤクルトのシロタ株)などが便秘に効果があると報告されています)

さらに、複数の善玉菌とそのエサをセットにした「シンバイオティクス」というタイプのサプリについては、今回はっきりとした効果が示されませんでした。

乳酸菌を摂るにしても、ちゃんと効果が確認されている種類を選ばないと、ちょっと期待外れになってしまうかもしれません。

次に注目したいのは、実は便秘薬として古くから使われているマグネシウムのサプリメント(酸化マグネシウム)です。

マグネシウムには便に水分をたっぷり含ませ、柔らかくして出しやすくする働きがあります。

昔から多くの人が便秘薬として使ってきたのですが、今回の調査でもこのマグネシウムはしっかりと効果が認められました。

便秘の症状だけでなく、それによるストレスや気分の悪さが改善され、「生活の質が良くなる」という嬉しいおまけまでついてきました。

いわば昔ながらの便秘薬に、今回の研究が科学的な「お墨付き」を与えたわけです。

次にちょっとユニークだったのが「ライ麦パン」です。

パンというと、むしろ便秘の原因になりそうなイメージがあるかもしれません。

実際、一般的な白いパンは便秘対策としてあまり効果が期待できないと言われています。

ところが今回の分析では、白いパンではなく「ライ麦を使ったパン」に便秘改善の効果があることが明らかになりました。

ライ麦パンを毎日食べ続けると、平均で週あたりの排便回数が約0.43回増加したという結果が出ました。

ただ一つ注意があって、ライ麦パンは食べるとお腹の張りや違和感を感じる人も少なくありません。

万人向けというよりは、「便秘改善のためにちょっと試してみたい人」向けの選択肢と言えそうです。

また意外な結果として挙がったのが、「ミネラル豊富な水(硬水)」でした。

そもそも硬水とは、マグネシウムや硫酸塩などのミネラル成分を豊富に含んだ水のことです。

日本では一般的に飲まれている水道水や市販のミネラルウォーターは「軟水」と呼ばれ、こうしたミネラルが少ない特徴があります。

ところがヨーロッパなどの地域では、カルシウムやマグネシウムが多い「硬水」が普通に飲まれており、この硬水が便秘に効くことが今回の研究で確認されました。

具体的には毎日硬水を飲み続けた人の多くで、「便が柔らかくなる」といった良い反応が示されたのです。

とはいえ、「便が出る回数そのもの」や「便秘による不快感」がはっきり改善したかというと、そこまでの明確な結果は出ませんでした。

硬水は便秘の改善をサポートする飲み物として優秀ですが、単独で便秘を完全に治すほどの劇的な効果はありません。

他の方法と組み合わせて使うのがベストでしょう。

ここまで見てきて、逆に「効果が微妙だった」とされてしまったのが、意外にも「食物繊維が豊富な食事(高繊維食)」です。

繊維たっぷりの食事は間違いなく健康には良いのですが、便秘改善に「はっきり効いた」と言えるほどの確かな証拠は得られませんでした。

正確に言うと、繊維全般が効かないということではなく、効果が証明されたのはオオバコ繊維(サイリウム)のような特定の繊維だけでした。

他の繊維(たとえば野菜やフルーツ由来のものなど)は、現時点では「効果あり」と科学的に言えるほどの証拠は乏しいという結果でした。

さらに、日本でも人気が高い「センナ茶(便秘茶)」も便秘改善に関しては微妙な結果でした。

センナという植物を使ったお茶は昔から便秘改善のために飲まれていますが、今回の調査では研究ごとの結果がバラバラで、統合的に分析すると、残念ながら全体として明確な効果は認められませんでした。

「センナ茶を飲んで便秘が解消した」という人もいれば、まったく効果がない人もいる、ということです。

日本人にとって馴染みのある「プルーン(乾燥スモモ)」も検証対象になりましたが、こちらもやや控えめな結果に終わりました。

便秘改善に関してプルーンは「サイリウム(オオバコ繊維)」と比べてもほぼ同じか、むしろやや弱い効果しか見られず、便の硬さが改善するかどうかについては、はっきりとした差は認められませんでした。

つまりプルーンも、「便秘を解消する効果を期待して食べるとやや物足りないかもしれない」という結果です。

ここまで研究結果をざっと整理してきましたが、どうやら便秘対策として効果が明確な食品やサプリメントは、「意外と少ない」と言わざるを得ません。

そして、「とりあえず繊維」といった従来のアドバイスが、いかに曖昧なものであったかもわかってきましたね。

では、こうした研究結果を私たちの日常生活にどう生かしていけばよいのでしょうか?

そして、この研究の結果には、どんな限界や注意点があるのでしょうか?

最後のセクションでは、便秘ケアに対する新しい常識の具体的な意味や、これを日常生活にどう取り入れていけばよいのかを、もう少し掘り下げて見ていきます。

まとめ:便秘対策は『繊維だけ』の時代から『選ぶ時代』へ

まとめ:便秘対策は『繊維だけ』の時代から『選ぶ時代』へ
まとめ:便秘対策は『繊維だけ』の時代から『選ぶ時代』へ / Credit:Canva

ここまで、いろんな食品やサプリメントが便秘に効くか効かないかを、科学の視点で詳しく見てきました。

その結果、ちょっと意外だったことが一つ明らかになりました。

これまで当たり前のように言われてきた「便秘にはとりあえず食物繊維!」という常識が、実はかなり怪しいことがわかったのです。

繊維さえ摂っておけば便秘はスルスル解消する──そんな漠然とした期待が、実はちゃんとした科学的な裏付けなしに広まってしまったというのが正直なところでした。

このことは、毎日のように食物繊維を頑張って摂っても便秘が治らないと悩んでいる多くの人にとって、「やっぱりそうだったか!」と思わせる納得の結果だったかもしれません。

今回の研究を率いた、イギリスの名門キングス・カレッジ・ロンドンのエイリニ・ディミディ博士も、この点についてははっきりと指摘しています。

博士の言葉を借りれば、「食物繊維は確かに健康全般には良いのですが、便秘の改善という一点に絞ると、科学的に十分な証拠があるとは言えません。むしろキウイフルーツやオオバコ繊維(サイリウム)、硬水(ミネラル豊富な水)など、もっと明確な証拠がある食品や飲み物があることがわかりました」とのことでした。

これは便秘に悩む人だけではなく、現場で患者さんを支える医療関係者にとっても、ちょっとした衝撃だったことでしょう。

これまでは便秘に対して「とにかく繊維と水分!」くらいのざっくりしたアドバイスしかできませんでしたが、これからは科学的にもっと裏付けられた方法を患者さんに提案できるようになるかもしれないのです。

とはいえ、ここで注意しておきたいのは、今回の研究が「便秘に効く食品やサプリを完全に証明した」というわけではないことです。

今回の研究は、便秘に関する過去の多くの研究をまとめて評価した初めての大規模な取り組みでした。

そのため、まだ科学的には「便秘の食事ケアの研究は初期段階」と言ったほうが正確です。

研究チーム自身も「今回示したのは便秘改善に効果がある可能性が高い食品やサプリであり、完全な証明とは言えない」と慎重な立場を取っています。

実際、ライ麦パンは排便の回数を確かに増やしますが、同時にお腹の張りを感じる人もいて、人によって向き不向きがあります。

キウイフルーツも排便回数は多少増えますが、便がすっきり出た感じがしない「残便感」には効果が安定しませんでした。

つまり、今回示された食品やサプリは、誰でも一発で効果が出る「魔法のような特効薬」ではありません。

あくまでも「効果が期待できる有望な選択肢の一つ」であり、自分の体質や好みに合わせて選んでいく必要があります。

では、こうした研究結果を実際の日常生活でどう生かしていけばいいのでしょうか?

まず今回のガイドラインが持つ最大の意義は、「食事で便秘を改善する」という考え方に、初めてしっかりとした科学的な足場を築いた点にあります。

これまでは「体に良さそうだから」「昔から言われているから」という、いわば“経験と勘”で語られていたアドバイスが多かったのです。

しかし今回の研究によって、ようやく「どの食品やサプリが、どの程度の確からしさで効くのか」という“地図”が描かれました。

「なんとなく繊維を増やす」ではなく、「これを4週間試してみよう」という行動に落とし込める――その違いはとても大きいのです。

これによって、医師や栄養士は患者ごとにもっと的確なアドバイスを出せるようになり、便秘に悩む人自身も、より科学的に根拠のある方法を選べるようになります。

もちろん、研究には限界もあります。

今回の結論は過去の臨床試験をまとめた結果であり、今後さらに質の高い研究が進めば、推奨リストの内容が少しずつ変わっていく可能性もあります。

たとえば、まだ評価が分かれている食品――プルーンやセンナなど――も、今後の研究によって再評価されるかもしれません。

科学はつねに“更新される地図”なのです。

──あなたの次の一口が、腸を変える第一歩になるかもしれません。

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元論文

British Dietetic Association Guidelines for the Dietary Management of Chronic Constipation in Adults
https://doi.org/10.1111/nmo.70173

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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