『インターステラー』のTARSに触発された”歩く柱”ロボット(動画あり)

映画『インターステラーには、独特なロボットが出てきます。

まるで金属の柱が意思を持ったようなロボット「TARS」は、人型ではない奇抜な姿と多様な動作で観客の心をつかみました。

このTARSの構造と動きを、現実の技術でどこまで再現できるのかに挑んだのが、カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)ロボティクス研究所出身の研究者らによるTARS3Dプロジェクトです。

映画の空想をもとに、ロボットが歩行とローリングという2つの移動方法をこなせるかどうかを調べ、小型機で再現したのです。

この研究は、2025年10月6日付の『arXiv』で発表されました。

目次

  • SF映画「インターステラー」のTARSに触発されたロボットが開発される
  • 「TARS3D」が示した“歩く”と“転がる”の両立

SF映画「インターステラー」のTARSに触発されたロボットが開発される

映画『インターステラー』は、荒廃した地球を離れ、宇宙の彼方に人類の新たな居住地を探す壮大な探査物語です。

その中で登場するTARSは、ロボット映画によくあるヒト型とは一線を画す存在として描かれました。

4本の金属製の柱が自在に動き、必要に応じてそれらを動かしながら歩行したり、転がるように高速移動したりします。

無機質な外見にもかかわらず、優れた演算能力、作業能力、そしてユーモアまで兼ね備えたTARSは、映画の中で多くの視聴者に強い印象を残しました。

こうした独特のデザインは研究者にも新たな視点を与えます。

ロボット工学では長らく動物を模倣した形状や歩行が重視されてきましたが、TARSはその考えとは逆に、機能から発想した「非人間型ロボット」の可能性を示したのです。

とくにTARSが見せる「状況に応じて歩行とローリングを切り替える多様な移動モード」は、災害現場や倉庫、宇宙空間など多様な環境を移動するロボットにとって魅力的なアイデアとなりました。

そこでカーネギーメロン大学出身の研究チームは、このTARSの構造と動作原理を科学的に理解し、現実のロボットで再現できるかどうかを検証するために「TARS3D」と名付けられたロボットの開発を始めました。

映画の“見た目”をそのまま模倣するのではなく、なぜあの形が合理的なのか、そして映画で示された動きは物理的にどこまで成立するのかという視点から本格的な研究が行われたのです。

(次項では、実際にその動きも確認できます)

「TARS3D」が示した“歩く”と“転がる”の両立

開発されたTARS3Dは高さ約25センチ、重さ約1キログラムの小型ロボットです。

本体の主要な部品は3Dプリントで作られており、その四隅に4本のテレスコピック脚が取り付けられています。

各脚は回転と伸縮を組み合わせた自由度を持ち、合計で7自由度というシンプルながら柔軟な構造になっています。

外観はまさに映画のTARSを縮小したような見た目です。

まず研究チームは、TARS3Dが映画のように歩行できるかどうかを解析しました。

脚先の曲面パッドが地面を滑らかに転がるように接地することで、振り子のように前へ倒れ込みながら進むシンプルな二足歩行モデルが再現できると考えました。

そして実験でも、脚を前後に振り出しながら左右交互に接地する歩行が確認され、理論が予測したとおり「同じリズムの歩き方」を繰り返せることが確かめられました。

さらに特徴的なのがローリングモードです。

TARS3Dの脚を伸ばしたまま姿勢を傾けると、脚先の曲面パッドが車輪のスポークのように順番に地面をつかみ、8回の接地を繰り返しながら滑らかに転がることができます。

実験では約0.5m/sの速度で転がることに成功し、理論モデルが予測したとおりのローリング動作を実機でも再現できました。

ちなみに研究チームは、解析だけでは発見できない新しい歩容を探索するために、試行錯誤を自動で繰り返しながら動きを学ぶ「深層強化学習」というAIの手法も用いました。

シミュレーション上でAIに自律的に移動動作を学習させたところ、解析モデルで導かれた歩行やローリングを再現するだけでなく、斜め方向への独特な歩行や跳ねるような移動など、未解析の新たな動作様式も獲得されました。

これは、映画で描かれた“多様な動き”が現実のロボットでも実現し得ることを示す重要な成果です。

一方で、TARS3Dには課題も残されています。

現在のモデルは有線接続で、実験も主に平らな床の上で行われています。

歩行モードでは不安定な場面もあり、複雑な地形への適応や自律移動にはさらなる改良が必要です。

今後、そのための研究開発が行われるなら、倉庫やインフラ点検、さらには宇宙関連作業などへの応用が可能になるかもしれません。

1つの映画に登場した空想上のロボットが、理論とAI技術を通じて現実に歩き、転がり始めています。

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参考文献

Interstellar-inspired TARS3D may be first such robot that both walks and rolls
https://newatlas.com/robotics/interstellar-inspired-tars3d-robot/

元論文

Walking, Rolling, and Beyond: First-Principles and RL Locomotion on a TARS-Inspired Robot
https://arxiv.org/abs/2510.05001

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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