最後に、好きな本をゆっくり読んだのはいつでしょうか?
ページをめくる静かな時間に没頭する。
そんな「読書の楽しみ」が、私たちの生活から静かに消えつつあります。
イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究者たちは、2003年から2023年までの20年間にわたり、アメリカにおける「娯楽としての読書」の実態を調査しました。
その結果、毎日趣味で読書をしていた人の割合が、40%以上も減少していたことが明らかになりました。
この研究成果は、2025年8月20日付の『iScience』誌に掲載されました。
目次
- 23万6000人を対象に「読書離れ」の現状を分析
- 読書が「選ばれた人の行為」になりつつある
23万6000人を対象に「読書離れ」の現状を分析
読書は、語彙力や論理的思考を育てるだけでなく、ストレスや不安の軽減、睡眠の質の向上、さらには共感力の促進といった、数多くのメリットがあるとされています。
それにもかかわらず、「本を読む人が減っている」という実感は、多くの人の中に芽生え始めていました。
その実態を明らかにするため、研究者たちは米国労働省が実施している時間調査American Time Use Survey(ATUS)のデータを活用しました。
これは24時間の行動を詳細に記録させるもので、日常の中でどのような行動が行われているかを客観的に捉えることができます。
研究では、2003年から2023年にかけて、アメリカ人約23万6000人以上を対象に、個人の楽しみとしての読書(本、新聞、雑誌、電子書籍、オーディオブックなど)にどれだけ時間を費やしているか分析しました。
また、子どもとの読書(子どもに読み聞かせたり、一緒に読む行為)に関しても調査しました。
加えて、読書が行われる場所や、読書中に他者と一緒にいたかどうかといった社会的文脈、そして性別、年齢、人種、所得、教育レベル、居住地域などの個人属性による差異も分析しました。
これにより、読書習慣の全体像が20年間にわたって詳細に明らかになったのです。
読書が「選ばれた人の行為」になりつつある
研究の結果、毎日読書をする人は、2004年で全体の28%でした。
つまり、3割近くの人が趣味で毎日読書をしていたのです。
しかし20年後の2023年には全体の16%にまで減少していたことが明らかになりました。
これは大きな変化です。
2004年に「毎日趣味で読書をしていた人」たちでも、20年間でそのうちの40%はその習慣が無くなってしまったのです。
一方で、読書をした人が1日に読む平均時間はやや増加しており、読む人はより長く読むようになっている傾向も見られました。
この結果は、読書行動がより限られた層に集中してきていることを示しています。
子どもとの読書については、20年間ほとんど変化がなく、常に約2%程度の人しか実施していませんでした。
とくに9歳以下の子どもが家庭にいるケースでも、読書の習慣は意外なほど少なかったのです。
また、読書習慣の減少は、特定の社会集団でより顕著でした。
黒人の人々や、低所得および低学歴の層、非都市部に住む人々において、読書の頻度が大きく下がっていたのです。
このことから、読書の機会に関する格差が拡大していることが分かりました。
研究者たちは、単にスマートフォンやSNSといったデジタルメディアの普及だけではなく、構造的な問題(たとえば所得格差、時間的余裕の欠如、図書館へのアクセス困難など)が、読書機会の喪失につながっていると指摘しています。
また「2つの仕事を掛け持ちしていたり、田舎で移動手段が限られていたりすると、図書館に行くことさえ難しい」とも述べています。
読書が「余裕のある人」だけの特権になりつつあるという現実は、教育格差や文化的孤立をさらに深刻化させる恐れがあります。
さらに調査では、読書をしていた人の67%は一人で読書し、94%は自宅で読んでいたことも判明しました。
そのため研究チームは、読書会や図書館イベントのような共同的な読書体験を促す取り組みの必要性も強調しています。
読書は、コストが低く、効果が高く、あらゆる人に開かれた文化的な営みです。
忙しい日常の中でも本を開くことは、心の健康や社会のつながりを促進するのに役立ちます。
ぜひ、気になっていた一冊を手に取ってみてください。今日から、また読書を楽しみましょう。
参考文献
Reading For Fun Is Plummeting in The US, And Experts Are Concerned
https://www.sciencealert.com/reading-for-fun-is-plummeting-in-the-us-and-experts-are-concerned
Reading for pleasure in freefall: New study finds 40% drop over two decades
https://www.eurekalert.org/news-releases/1094631
元論文
The decline in reading for pleasure over 20 years of the American Time Use Survey
https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.113288
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部