「空気を読みすぎる」「いい人すぎる」けど”孤独”なのはなぜ?

相手に合わせたり、喜んでもらうために、必要以上に気を遣いすぎてしまうことはありませんか。

他の人から「いい人すぎる」と言われたり、自分でもなぜか本音が言えず、相手の顔色をうかがってしまうことはないでしょうか。

実は、こうした行動の背景には「fawning(ファウニング)」と呼ばれる心の働きがあるかもしれません。

臨床心理士ングリッド・クレイトン博士の知見をもとに、相手に合わせすぎたり、へつらったりする理由が子供時代にあること、またそうした態度の向き合い方について解説します。

目次

  • fawningとは何か?“いい人”にならざるを得なかった理由
  • 「いい人すぎる」ゆえの孤独と生きづらさ、そこから抜け出す方法

fawningとは何か?“いい人”にならざるを得なかった理由

fawningは、他人に合わせて自分の気持ちや欲求を抑え、過剰に気を遣い、波風を立てないようにふるまってしまう心のパターンです。

優しい人、思いやりのある人、媚びへつらう人として評価されることがありますが、fawningには本人も気づきにくい深いストレスが隠れています。

この反応は単なる性格ではなく、子供時代のトラウマや家庭環境によって身についた無意識のサバイバル反応なのです。

たとえば、家庭が不安定だったり、親が怒りやすかったりする場合です。

また暴力や精神的な虐待があったり、親の愛情が「いい子でいること」とセットでしか与えられなかったりすると、子どもは「本音を出すと危ない」「相手の機嫌を損ねないようにするのが一番安全だ」と感じるようになります。

その結果、家族や周囲の顔色を常に気にして、「自分の意見や希望を言わずに我慢する」「相手の期待に応えようと無理をする」「衝突や対立を恐れて言いたいことも飲み込む」といった行動が、無意識のうちに身についていきます。

「相手に合わせすぎる」「いい人すぎる」「へつらう」といったふるまいは、自分を守るために体が自然に覚えた自動的な反応である可能性があるのです。

このような反応は、「意図的に八方美人になる」こととは異なり、「生き延びるための本能的な適応」といえます。

とくに幼い頃から、家庭内で「いい子でいること」や「自分を消してでも相手に合わせること」を求められた人は、大人になってもこのパターンから抜け出しにくくなります。

こうした「相手に合わせすぎる」反応が根付くことで、自分の感情や欲求を押し殺し、本来の自分を見失ってしまうのです。

では、大人のfawningは、どんな行動や考えとしてあらわれるのでしょうか。

「いい人すぎる」ゆえの孤独と生きづらさ、そこから抜け出す方法

fawningのパターンは、大人になってからも自然と続いてしまうことが多いです。

そのような人は、たとえば、衝突を避けるために自分の意見を言わず、他人の意見に同意したり、過剰に謝ったりする場合があります。

また、「空気を読みすぎ」たり、自分のやりたいことが分からなくなったりするかもしれません。

さらに、周囲でトラブルが起きると、自分を犠牲にしてでもその場を収めようとするかもしれません。

人々との「当たり障りのない会話」は得意でも、本音では繋がれないと感じる場合もあります。

こういった傾向があるなら、表向きには「頼れる人」「優しい人」と見られても、本人の心には「本音でつながれない」「誰にも本当の自分を見てもらえていない」という孤独感が残ります。

しかし、このような生き方は、社会や文化によって「美徳」とされやすいという落とし穴もあります。

特に「空気を読む」「周囲に合わせる」ことが重んじられる日本社会では、「いい人すぎる」ふるまいが称賛されてしまいます。

そのため、当事者は「自分だけが苦しい」「頑張っているのに報われない」「自分の人生を生きている実感がない」「誰とも本当につながれない」と感じても、周囲からは気づかれません。

そして本人もその理由に気づけないまま苦しみ続けてしまうことが少なくありません。

それでもイングリッド・クレイトン博士は、fawningの傾向はすぐには消せないものの、少しずつ自分を取り戻す練習ができるとしています。

まずは「自分がどんなときに相手に合わせすぎているか」「無理をしてしまった場面」を振り返り、自分のパターンに気づくことから始めてみてください。

たとえば、「本当はNOと言いたかったのに引き受けてしまった」「心にもない賛成をしてしまった」など、小さな違和感に気づくだけでも十分です。

次に、「今日はできません」と小さなNOを言ってみたり、自分の気持ちや希望をノートに書き出してみることも有効です。

最初は不安や罪悪感が湧いてくるかもしれませんが、それは「かつて自分を守るために身につけた反応」だったからだと知ることが大切です。

もしひとりで向き合うのがつらい場合は、カウンセリングやグループセラピーなど、安心できる場所で専門家のサポートを受けるのもおすすめです。

「いい人すぎる」生き方が苦しいと感じるのは、あなたが弱いからでも失敗したからでもありません。

これは、かつてあなたが身を守るために必死で身につけた反応なのです。

自分がfawningの傾向を持っていると気づくことが、“本当の自分”を取り戻すための最初の一歩になるでしょう。

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参考文献

How Fawning Fosters Distance in Adult Relationships
https://www.psychologytoday.com/us/blog/brothers-sisters-strangers/202510/how-fawning-fosters-distance-in-adult-relationships

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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