「困っている人を見かけたけれど、声をかけるのをためらってしまった」
「親切な行動をしたいけれど、周囲の目が気になって動けない」
こんな経験はありませんか?
そうした気持ちは、社会不安と呼ばれるものかもしれません。これは人と関わることに強い緊張や不安を感じ、そのせいで思うように行動できなくなってしまう状態を指します。
特に「自分の行動が周りからどう思われるのか」と気にしすぎることで、本当は助けたいと思っていても、声をかける勇気が出せずに立ち止まってしまうことがあるのです。
最近の研究では、社会不安が強い人ほど「他人を助ける行動」が難しくなることが示されていますが、そうした実験から同様の悩みを持つ人への解決策も示唆されています。
本記事では、そんな研究報告から社会不安を持つ人が無理なく行動できるためのヒントを紹介します。
この研究は、中国の華中師範大学の研究チームにより、2024年3月に臨床心理学分野の主要な学術雑誌『International Journal of Clinical and Health Psychology』に掲載されています。
目次
- 手助けをためらってしまう原因
- 「助けたいのに動けない」と感じたときのヒント
手助けをためらってしまう原因
社会不安を持つ人は、手助けをすること自体に不安を感じるのではなく、「その後にどう思われるか」に強い恐怖を抱くことが多いといわれています。
例えば、「余計なことをしたと思われるのでは?」「ありがとうと言われることで、注目を浴びるのが怖い」「相手が本当は助けを求めていなかったらどうしよう」といった考えが浮かび、結果として「何もしない」という選択をしてしまうのです。
これは人目を過度に気にしてしまう状況とも言えます。

また、研究によると、社会不安が強い人は、手助けをしようとした瞬間に心拍数が上がったり、手汗をかいたりするなどの生理的なストレス反応が現れることが分かっています。
つまり、頭の中で色々と考えてしまうだけでなく、実際に身体にも「緊張」のサインが出てしまうため、余計に行動しづらくなるのです。
実験で明らかになった「助けやすい場面」と「助けにくい場面」
中国の研究チームは、社会不安の高い人(HSA: High Social Anxiety)と低い人(LSA: Low Social Anxiety)を比較し、「どのような状況で手助けできるのか」を調査しました。
実験では、参加者に「他者を助けることが期待されるタスク」を与え、その行動を分析しました。
その結果、社会不安が高い人は、「誰かの利益のために何かをしてあげる」場面では行動を起こしにくい一方で、「誰かの不利益を防ぐ」場面では社会不安が低い人と同じ程度に手助けを行うという傾向があることが分かりました。
例えば、落とした財布を拾ってあげるような「損失を防ぐ」行動は比較的行いやすいものの、困っていそうな人に「手伝いましょうか?」と声をかけるような「利益を生み出す」行動はためらってしまうのです。
この違いは、手助けをすることで「注目を浴びること」に対する不安の大きさが影響していると考えられます。
興味深いことに、別の研究では、社会不安が強い人ほど共感力が高いことも示されています。
つまり、手助けをしたい気持ちは十分にあるのに、行動に移すのが難しいのです。
あなたはどうでしょうか? 誰かを助けたいと思ったことはあるけれど、勇気が出ずに行動を控えた経験はありませんか?
このように、社会不安を持つ人は「助けたいのに動けない」状態になりやすいのです。
では、どうすれば社会不安を持つ人でも無理なく行動できるのでしょうか? 今回の研究結果にはそのヒントがあるようです。
「助けたいのに動けない」と感じたときのヒント
研究の結果を踏まえると、社会不安がある極度の人見知りでも、状況によっては行動しやすくなることが分かります。
特に、実験で示された「損失を防ぐための行動」には心理的なハードルが低いという点がポイントです。
誰かの利益を生み出すような積極的な手助けは難しくても、「このままだと相手が困る」と考えると、比較的行動しやすくなるのです。
例えば、誰かの落としものを見たら、拾って見つけやすい場所においてあげる。道端で自転車が倒れていたら、そっと起こしておく。これらは直接会話をしなくてもできる助け合いです。
また、エレベーターやドアを押さえるといった行動も、相手が困るのを未然に防ぐシンプルな助けとなります。

こうした「自然に行える小さな行動」から始めることで、手助けをすることへの心理的な抵抗が少しずつ減らしていくことができます。
さらに、研究では「人に見られていることで、助けることが『適切』な場合、社会不安のある人は逆に行動しやすくなる」ことが示されています。
この報告は一見すると、社会不安の人は「人の目を気にしすぎるために行動しにくい」という特性に対して矛盾しているように感じますが、実際にはこの評価不安が逆の作用を及ぼすことがあるのです。
つまり、「助けるのが当然」とされる状況では、行動しないことによるネガティブな評価を避けるために、むしろ手助けをする方が心理的な負担が少なくなるのです。
例えば、職場で上司や同僚が見ている状況では、手を貸さないことで「冷たい人だと思われるかもしれない」という不安から、助ける行動をとる可能性が高まります。
このように、社会不安の人は他者の評価を気にするため、普段は行動を控えがちですが、「行動しないことで悪く思われる」という状況では、逆に手助けしやすくなるのです。、あえて人前で小さな手助けをすることで、行動のハードルを下げる練習ができます。
最初は「ドアを押さえる」「落とし物を拾う」など、考えずにできる行動から始め、次第に「簡単な声かけ」を加えていくことで、無理なく手助けの機会を増やせるでしょう。
社会不安とうまく付き合いながら、手助けする力を育てる
社会不安を持つ人は、「助けたい気持ちがあるのに動けない」ことが多いですが、少しずつ行動のハードルを下げることで、無理なく手助けができるようになります。
無理に「積極的にならなきゃ」と考える必要はありません。
あなたのペースで、「できる範囲で手を差し伸べる」ことから始めてみませんか?
社会不安があるからこそ、困っている人の気持ちに共感しやすいという長所もあります。
その優しさを大切にしながら、あなたなりの形で人と関わる方法を見つけていけるといいですね。
参考文献
Social anxiety can diminish prosocial motivation, study finds
https://www.psypost.org/social-anxiety-can-diminish-prosocial-motivation-study-finds/
元論文
Social anxiety and prosocial behavior: Examining the roles of loss aversion and impression management.
https://doi.org/10.1016/j.ijchp.2024.100533
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部