何かに本気で挑戦している人は、頑張りすぎて自分を追い詰めてしまうことがあります。
夢や目標を持って一生懸命努力するのは、とても素晴らしいことです。
しかし、「もっとやらなきゃ」「失敗したらどうしよう」とプレッシャーを強く感じてしまい、苦しくなってしまう人も多いのではないでしょうか。
認知行動療法と社会心理学の専門家であるアリス・ボイズ博士(Alice Boyes, Ph.D.は、そんな「高い目標に挑む人が、プレッシャーでつぶれてしまわないための6つのヒント」を教えています。
スポーツ選手、起業家、受験生、仕事を頑張る社会人、そして日々の生活をより良くしたいと考えているすべての人に役立つはずです。
目次
- 高い目標から生じるプレッシャーにどう対処する?
- 挑戦し続ける人こそ「価値観」に目を向ける
高い目標から生じるプレッシャーにどう対処する?
「もっと頑張りたい」「もっと結果を出したい」
こう思うこと自体は決して悪いことではありません。
しかし、真剣に取り組めば取り組むほど、「失敗したら自分はダメだ」と思い込んでしまうこともあります。
たとえば、次のオリンピック出場に向けて励むアスリートは、目標を達成するために、トレーニング、睡眠、食事、マインドなど生活全体を最適化しようとするものです。
しかし、3年目に入ったところで「ベストタイムを更新できないこと」で落ち込み、「期待に応えられないのではないか」と強い不安に襲われるかもしれません。
こうしたケースは、スポーツの分野だけに限りません。
では、目標をもって頑張る人は、どのようにプレッシャーと上手に付き合っていくことができるでしょうか。
ボイズ博士が紹介する6つのヒントのうち、まずは前半の3つを見てみましょう。
1. 「リラックス」も成果を出すために大事なこと
ずっと全力で走り続けることは、どんな人にもできません。
むしろ、きちんと休むことこそが、高い成果を出すためには必要です。
たとえば、オリンピックを目指すアスリートも、毎日の練習だけでなく、「ぼーっとする」「趣味を楽しむ」「友達と何気ない話をする」といった時間をとても大切にしています。
ボイズ博士は「リラックスの“質”にこだわらなくていい」と言います。
ただだらけて過ごすだけでも、心と体の回復につながるからです。
自転車競技の金メダリストであっても、ガソリンスタンドに立ち寄ってアイスを買い食いしてもいいのです。
こうした“何気ない休憩”も、実はとても大切です。
2. 「成果=自分の価値」と思い込まない
高い目標に挑戦している人ほど、「うまくいかなかったら自分には価値がない」と思いがちです。
たとえば、試合で思うような結果が出なかったアスリートが「自分はダメだ」と感じてしまうことがあります。
しかし、努力や成績だけで人の価値が決まるわけではありません。
ボイズ博士は、「成果で“自分の価値”を決めようとすると、どんどん自分を苦しめてしまう」と警告しています。
失敗したときも、「それで自分の価値がなくなるわけじゃない」と考えることが大切です。
3. 「理想の自分」へのこだわりが強すぎると苦しくなる
「1つ1つの行動は、なりたい自分への一票だ」という言葉や考えを聞いたことがあるかもしれません。
これでやる気が出ることも多いでしょう。
しかし、ある人たちは、自分を苦しめる言葉として受け止めてしまうようです。
「少しサボってしまった」「何もしなかった」ことを、「なりたい自分」とは逆の、「自分は何者でもなく、愛されも尊敬されもしない」ことに投票しているかのように思えるのです。
当初は役に立つ言葉だったとしても、この負の側面が積み重なることで、「もう自分はダメだ」と思い込んでしまう人も少なくありません。
大切なのは、「この考え方が今の自分を苦しめていないか?」と、ときどき自分に問いかけることです。
挑戦し続ける人こそ「価値観」に目を向ける
続いて、ボイズ博士が提案するプレッシャー対策の後半3つのヒントを紹介します。
4. 「ベストを尽くす」の「ベスト」を罠にしない
「すべてやりきれば満足できる」「毎回ベストを尽くせばいい」という考え方は、理想的に思えるかもしれません。
しかし実際には、「やれることを全部やる」ことも、「いつも全力でいる」ことも、人間には不可能です。
プロのランナーでさえ、毎日一番キツい練習をするわけでなく、最もハードなセッションは週の中で数回に留めることがあります。
それなのに、私たちが「毎日ベストを尽くさなきゃ」と自分を責め続けてしまうと、気持ちがどんどん苦しくなります。
パフォーマンスにはばらつきがあることを認めて、状況や気持ちに合わせて、適切な基準を選ぶ必要があります。
5. 「すでに証明できている自分」だったらどうするか考えてみる
プレッシャーに押しつぶされそうになったとき、「まだ何も証明できていない自分」として頑張るのではなく、「すでにやり遂げた後の自分」になりきって考えてみてください。
もし今の自分が「もう十分に証明できた人」「達成した人」「認められた人」だとしたら、きっと後輩や周りの人のお手本になる行動を心がけるはずです。
この考え方を試すことで、失敗や不調があってもそれを「自分を責める理由」とするのではなく、「失敗や挫折があったときこそ、どう対処するべきか」という前向きな見方を持つことができます。
6. 「目標」ではなく「価値観」に意識を向けてみる
目標(ゴール)は、「達成できたか、できなかったか」で判断されます。
でも、「自分にとって大切なこと」(例:誠実さ、成長、優しさなど)は、毎日の中で少しずつ意識しながら積み重ねることができます。
ボイズ博士は、たとえば「今日は記録を更新できなかったけど、一生懸命練習できた」「昨日よりも少し成長できた」と自分を認めることが、心の支えになると説明しています。
結果だけでなく、日々の小さな積み重ねを大切にしましょう。
ここまでで、プレッシャーに対処する6つのヒントを考慮しました。
これらを意識することで、頑張りすぎて苦しくなる悪循環から抜け出し、“自分らしく、長く、無理なく続ける”ことができるはずです。
高い目標に取り組んでいる人こそ、これらの考え方を試してみてください
参考文献
How to Excel Without Paralyzing Pressure
https://www.psychologytoday.com/us/blog/in-practice/202509/how-to-excel-without-paralyzing-pressure
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部